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シゲル☆ピンクダイヤと流れ星の桜花抄。

流れ星とシゲル☆ピンクダイヤの桜花抄。

黄昏時、地元の中学生達が自転車に乗り、ラジカセと煙草と缶ビールを持ち寄り集いし小さなの漁港の防波堤。

彼等が屯するのはその突端、そこでそれぞれの武勇伝や女などの話を長らくする。微量のアルコールに酔い、ほろほろと寝転がり、気づけば満天と成った星空を眺める。

少年達の吸っている煙草の青白い煙は目の前に広がる悠大な暗闇の一欠片になっていく。

ずっと上の方を小さな赤い光が明滅しながら移動している。

少年A)あれ、人工衛星ど。

少年B)飛行機じゃねえん?

少年A)ぼけ、あんな高いところ飛ぶかいや。

少年B)じゃったらUFOかも知れんの。

少年O)わし見た事あるど。

少年D)のう肝試し行こうや、指月城に。

仰向けのパノラマには幾粒もの流れ星。

でもそれは彼等にとって在り来りのふつー。

わからない事にしか興味がなくて良い時間を過ごす子供たち。

だから、まだ何ものか確定していない飛行機だか人工衛星だかUFOらしき赤い光の点に眼をこらす。

静かに回る灯台のサーチライト。何かのブーというモーター音。防波堤に当たる波音。

まんまる太った港の野良猫⦅こてつ⦆がチーちくをかつかつ貪っている。

ここは100メートルも離れれば何も見えず聴こえない少年達だけのドメイン。

カセットテープが奏でるJ(S)Wにあわせて誰とも無く歌いだす。

つられてみんなで歌いだす。

声が裏返るほどの大声で。

恥ずかしいとか無い。

学校の授業では絶対に歌わないのに。

互いにこいつらがいれば無敵だと思っている懐かしき青臭さ。

なんでも出来て奇跡だって簡単に起こせる気がしていたノスタルジア。

この宇宙の片隅でほんの一瞬の煌めきの中を少年達はまだ、SNSなんて無い時代でも確かに繋がって生きている。

世界はその掌に乗っていた…15の夜……………。

じゃなーーーーーーーくて!!!!!!!

とかなんとか、そんなおセンチメンタルなおセンテンスでは無くシニカルでセンシティブなリリックをフリックしドレイクばりのクエイクをクリエイティブしなあかんたれポアンカレ予想のペレルマン博士。

今、まさに一瞬の煌めきを生きているサラブレッド達の祭典が春爛漫の阪神競馬場からスタートした。

次々とクラシック戦線に乗り込んで来る競走馬達。

だが、彼等の殆どが早々に脱落してゆく。

わずか数年間の現役生活の中で一戦一戦、無情の審判に晒され、たったハナ差5センチメートルでその後の馬人生が大きく左右される。

さくらの花びらが堕ちる速度は、秒速5センチメートル 注1) だそうだ。緩やかに儚くて、良い。

日曜日は朝から迎え酒で、うたた寝をしているうちに本寝をして仕舞い夢を見た。

その中で見知らぬ日本生まれのハーフ美人に見初められ、Kissされたところで目が覚めた。くそ。何故か俺は少し照れて顔を背けた。馬鹿かっ。くそぅ。

目が覚めたのは午後3時前、ぐるんぐるん世界が回っている。

今日は桜花賞、若い雌馬が覇を競う日。

ん?夢は暗示か。

シゲラーのあたくしは金曜日のうちから、⑯番シゲルピンクダイヤの単勝複勝をそれぞれ1万円づつ買っていたのできっとそれだ、今日は当たるぞという正夢なんだと思い込みましたよ。そりゃあね。

スマホで確認すると、馬券を買った時にはまだ10倍そこそこだったオッズがレース前には17倍にまで跳ね上がっていたわけさね。

今日は違うぞ。いつもは馬券を買った瞬間にどうせ当たんねえだろうなと、マイナスに考えて仕舞う(殆ど当たらないから)のだが今回ばかりは違った。

競馬の上手なパイセンも買うよ、と言っていたシゲルピンクダイヤはかなりの素質馬である。

戦績はこれまで3着、1着、2着。しかも重賞初挑戦の前走チューリップ賞は馬群に囲まれながらもその間をするするっと抜け出て、今回の桜花賞、1番人気ダノンファンタジーに次いでの2着。しかも上がり3Fは最速だ。

和田竜二騎手曰く、ピンクダイヤ自ら馬群に突っ込んで行ってくれたとの事。

負けん気の強さを物語るコメントに数字の後押し、プラスさっきのハーフ美人のKiss。

出揃った勝利のエレメンツ。

後はレースを待つのみ。

テレビを点けると出演者の人達がそれぞれの予想を発表しているが、シゲルピンクダイヤの名前を誰も挙げていない。

よしよし。おかげでオッズは20倍まで上がったぞ。

さあ、カメラは阪神競馬場に切り替わる。

ファンファーレが鳴り、手拍子がそれを盛り上げる。

歓声と拍手が響きボルテージはWARMAX!

各馬がゲートにインしてゆく様子をカメラが追い1頭のお尻が見えた。

いやいやしている。

後ろ脚を蹴り上げてなかなかゲートにインしない…

て、ピンクダイヤやないか(( >﹏<。三 。>﹏<))

和田騎手が行こう行こうしているが、嫌や嫌ややっている。

あっちゃー。

アナウンサーも嫌がるピンクダイヤの事を伝える。

それで係員さん達も加勢して何とかゲートにインしてくれた。ほっ。

カメラは安心してパーンするも、ガッチャン。ヒヒーン。ブルブルっ。ガッチャン。

あかん。ピンクダイヤじゃ。

何とか落ち着いてくれ。

はようゲートば開けてくりやんせ。

単勝複勝それぞれ一万円賭けている俺の心臓はどっどっどっと鳴り出す。

さあ!各馬ゲートイン!とアナウンサー。

一瞬の静寂。

ガチャッ。ドドドドドドッ。

直ぐにピンクダイヤを探すと少し浮いている様に見えた。

まさか、ゲートを跳んでやろうと思ったんかピンクダイヤ。わお。

そのせいかスタート直後、他の馬たちに遅れをとった。

追い込み馬なのでまだ心配は無いだろうがあまり離されると1600mでは追いつけない。

それよりも落ち着いてくれ。

そう願いながらしばらく画面越しにピンクダイヤに念を送る。

どっどっどっどっ。馬蹄のとどろきと自分の心臓の響く音のアンサンブルが競馬のファッキン・エレクト・モーメント。

今日は単勝複勝それぞれ一万円づつ賭けているので心臓もその分跳ねている。

しかしピンクダイヤは特に問題は無さそうだ。

何だか気持ち良さそうに走っている。

よしよし。頑張れ。

本当に一瞬。馬は1.6キロmを1分少々で駆け抜ける。

もしもアメリカの西部開拓時代に生きていたなら一度は乗ってみたいものだ。

ウエスタンハットを被り、何だか細い紐がひらひらしてあるシャツを着て、腰にはやたら銃身の長いぴかぴかなシルバーのなんとかチェスター銃みたいなのをぶら下げて、ピッツァを切るのが付いている長靴みたいなブーツを履いて、赤兎馬みたいな凄い馬に跨りみんなにいーなー、かっこいーなーって言われながら、美女と恋に落ち、失恋し、旅に出る。かっぽかっぽ景色を楽しんだり、たまにはぶっ飛ばしたり、焚き火をして野宿をし街から町へ、西へ西へと旅をしてみたいな。憧れる。

けど今は別にいい。現代日本に生きている今は別に乗らなくていい。乗るのは馬券だけ。

その賭け金も一瞬。数分のうちに何十倍にも0にも「一瞬」で成る。

サラブレッドも競馬ファンも、その命運は一瞬に懸かっていて、賭けている。

と、一瞬他の次元にぶっ飛んでいるうちにレースは最終コーナーへ。

道中さほど問題も無く前の馬たちの様子を伺っていた二人は少し早めにギアを入れたが、全馬全騎手もほぼ一斉に躍動し始める。

その中でも明らかに他の馬とは違う脚色でやはり内側に入ろうとする。いい感じ。

そして、何頭もの塊に突っ込んでいった。

月曜日の競馬の上手いパイセン談)あれ、外に行ってたら届かなかったぞ。

脚色は良いが直線まだ、後方に居るシゲルピンクダイヤ。

しかし伸びている。伸びているがグランアレグリアとの差は縮まらない。

頑張れ和田。頑張れピンクダイヤ。

残り2ハロンを過ぎた時点でまだ5〜6番手だったろうか。

バクバクバクバク心音が耳に響き続ける。

今日は単勝複勝をそれぞれ一万円づつ賭けている。

ぐんぐん、ごぼうを抜いてゆくピンクダイヤだが他の有力馬達も併せて上がってきて突き放せない。いやーん。

やばい。

なかなか捲れない。

そりゃそうだ、G1だもの。

行け、行け、行け、どっどっどっどっ。

先にグランアレグリアがゴール板を駆け抜ける。

んー。んー。んー。息詰まる接戦とはよく言ったものだ。腹筋とけつめどに力が入る。

レースはグランアレグリアが勝った。だがまだ、2着3着争いがある。

頼む。3着までには入ってくれ。

今日は単勝複勝それぞれ一万円づつ賭けているのだから。

カメラが斜めからなのでピンクダイヤが今何番目かがよく分からない。

無呼吸の数秒後…

ようやくシゲルピンクダイヤは2番手争いの塊を3着のクロノジェネシスに数十センチの差でギリ抜けた。

彼女の鼻がひとつ抜けているのが見えたのはカメラの角度がほぼ真横に来るほんの10メートルくらいだった。

心臓がバクバクバクバクバクバクー。

ほんまぎりぎり。

リプレイを見ても、恐らく2番手に上がれたのはゴール板より30メートルも無いように見えた。

2.3.4.着なんて殆ど差など無い。

しかし、その数字には大きな違いがある。

競馬ファンには配当。

馬たちには格付け。

分度器の1度の違い、掌の上では僅かだが、1km先まで伸ばして行くと、とんでもなく違う。

レースが終わってもまだ、心臓がバクバク鳴っていて、土日で四万円の投資がピンクダイヤの複勝で四万円の回収。

ありがとうピンクダイヤと和田竜二。

だけど、なんだよ、これじゃいってこいじゃあ。

ほんなもんつまるかいや。

どっどっどっ。まだ鳴り続ける心音。それに圧されて、ぽちぽちぽちと最終12Rに三万円ぶっ込む。

だがしかし、ピークは桜花賞だった。

ピンクダイヤにすべてを賭けるべきだったのだ。

一瞬なのだ一瞬で決まる。

この無限に思える宇宙ですら終わる時は一瞬で、ぱふと消えるらしい。

無に帰る。

俺はあの日、そう成った。

しかし、明けて水曜、シゲルピンクダイヤはオークスへ向かうと公表。

彼女のストーリーは流れ星のようにどんどん進んで行く。

あの日あの時見た流れ星のように。

なんどもこの掌から零して来た一瞬。

その一瞬の煌めきを今度は逃さないように…

ぶっ込んだる。ぶっ込んで100万取っちゃるんじゃあ。

と、いつも通り負けては叫ぶの繰り返しをしていると耳から昼に食べた次郎ラーメンが跳び出て来たので寝るとしますo┐ペコリ

注1)新海誠監督の映画、『秒速5センチメートル』内の台詞です。個人的には『君の名は。』より好きで6回くらい観ました。タイトルの桜花抄もここから着想を得ました。o┐ペコリ

#競馬 #シゲルピンクダイヤ #桜花賞 #桜花抄

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