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漢字の画数問題(3):戸籍派

●戸籍に登録した字体が運勢を決めるのか?

「姓名判断には戸籍に登録した字体の画数を使うべきだ」 と主張するのが戸籍派です。

よく考えてみると、これもまたずいぶん奇妙な話です。姓名判断の一般的な前提に従うなら、この一派の考えでは、戸籍に登録した字体が人の性格や運勢を左右することになるからです。

どのくらい奇妙か、つぎのようなケースを考えてみましょう。

●第一のケース

「ある新生児の名前を姓名判断で吉数になるよう選んで戸籍に登録し、本人には秘密にしておく。この子は吉数の影響を受けるだろうか?」

もちろん戸籍派は受けると答えるはずです。そうでないと、もとの主張と矛盾します。では、次のケースはどうでしょうか。

●第二のケース

「少し残酷だが、姓名判断で凶数になる名前をこっそり戸籍に登録し、本人には騙して吉数の名前を知らせ、これが本当の名前だと思わせておく。さて、この子は吉名と凶名のどちらの影響を受けるだろうか?」

戸籍派は凶名の影響を受けると答えるでしょうか。さらに次のケース。

●第三のケース

「今から半世紀も昔の、のんびりした田舎役場を想像しよう。戸籍係が新生児の名前を台帳に記録したが、うっかり書き間違えた。正しい名前は姓名判断で吉数だったが、運の悪いことに、間違えた名前は字画が凶数になっていた。さらに運が悪いことには、何年間もこの間違いに誰も気づかなかった。」

このケースのポイントは、戸籍簿に登録された文字が凶数になっていることを誰も知らない、ということです。知っているのは神様と戸籍簿だけです。さて、この子は凶名の影響を受けるでしょうか。

●戸籍簿の魔力を信じる戸籍派

この三つのケースで明らかになるのは、戸籍の字体で人の性格や運勢が決まるとする考え方が、戸籍簿の魔力を前提にしているという点です。戸籍簿に書き込まれた名前は、書き込まれたという事実のみによって、何ごとかを現実化するという魔力です。

ひょっとしたら、そういうこともあるかもしれませんが、やはりこの説を支持するには、相当の勇気がいります。

ただ、仮にそんなことがあるとしたら、魔法使いを志願する人にとっては魅力的な話に違いありません。はるばるイギリスまで行って、ホグワーツ魔法魔術学校に留学する手間が省けますからね。

中世のイギリスでは、大衆の間で、キリスト教の聖餐式で使われるパンに神秘的な力があると信じられていました。そのパンを使うと、熱病を治し、作物の実りを豊かにし、ミツバチにたくさん蜜を作らせ、犯罪は見つからず、そのうえ消火やあらゆる災難除けにも役立つというのです。そのため、教会の聖餐用パンはしばしば盗難にあったそうです。[*]

幸い、戸籍簿やコンピュータの戸籍データベースが丸ごと盗まれたという事件は聞かないので、戸籍派の支持者は案外少ないのかもしれません。

[*] 『宗教と魔術の衰退(上)』(キース・トマス著、法政大学出版局)




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