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おおしごと/おままごと

砂場には表情がある。もし今度、誰もいない公園を訪れる機会があったら、ぜひ砂場に直行してほしい。手が砂を掻いた痕。足が砂を踏んだ痕。雨粒が直撃した痕。鉄のスコップが掘削した痕。質の違う傷跡が連続し、一つの波を形成している。一日放置されるだけで波は和らぎ、傷跡は大人しくなる。砂場の傷はぐねぐね動いていて、そこに毎日通う僕を飽きさせない。

これは子供たちに教えてもらったことだが、この公園の砂場の周りには、蟻の巣がたくさんあるらしい。僕もいくつか発見した。でも中身は覗けない。僕たちにできるのは、黒い点みたいな穴とその周りに小高く積まれた砂粒から、せいぜいその内側を想像するくらいである(それにしても、あの砂粒は蟻サイズの泥団子みたいだなといつも思う)。

きっと地中にひびが入るように、蟻の巣は広がっていくのだろう。子供に混じって僕も泥団子を握ろう。砂場の穴が、徐々に広がっていく。



幻視譚(にたろ)

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