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傷穴について

傷、風化

ぱっくりと開いた傷口から、皮下の世界が覗く。つなぎ目のない表面(のようにみえるもの)に覆われ一個の生命として自立していた「それ」の、無数の虫たちによって織りなされた姿に私たちは直面する。普段は見ようとすらしないが、一枚めくると在る、生まれるものを露わにする。

傷からは息が漏れ出し、体液が流れ、痛みを与え膿んでいく。あるいはなにもないかのようにのぞき穴然として口を開けたままでいる。ときに傷はふさがり、ときにそこから綻びる。傷と風化というテーマは、生の営みを彷彿させる。過行く時間が経験され記憶されることと消え去っていくこと、世界が移り変わること、それに抗うこと、しかし拒めないこと、それでいて何かが残ると信じること。私たちは生きて傷を受け、傷を与えて死んでゆく。

太古から途切れることなく続いていく傷-風化、その輪廻を、幻視譚はのぞき込む。


幻視譚[傷-風化]
2024.5.30(Thu.)- 6.2(Sun.)
@スタジオ空洞


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