アイチャク障害 怖れ回避型 パニック障害6

家が建ち、新しい家具や家電がそろった。へんてこなシャンデリア、階段にはステンドガラス、ロッキングチェアーとあの人らしい安っぽい家。子ども部屋の家具も全部あの人が決めた。
父はますます家にいることがすくなくなった。工務店のおじさんは昼にはチャイムも鳴らさず家に出入りするようになった。
その年のクリスマス。半ば親気取りのおじさんは夕方クリスマスプレゼントを買いに行こうとわたしを連れ出した。わたしは別に欲しくもないものを買って貰いお礼を言った。
あの人は「あら、よかったじゃない。」と言いながら買ってきた料理をテーブルに並べていた。おじさんは父が戻る前に帰って行った。
食卓に兄、私、あの人の3人で座って父の帰りを待った。9時を過ぎた頃、あの人が「主人が帰ってこない。」と悲劇のヒロインさながらに工務店のおじさんに電話をした。おじさんは直ぐに家にやってきた。その直後。父が帰って来た。そして直ぐに出ていった。わたしは裸足で父を追いかけたが追いつくことができなかった。「行かないで、行かないで。置いていかないで。」あの日の夜の黒とアスファルトの感触は忘れることはないだろう。
『クリスマス』わたしは大人になり子どもと目一杯楽しむ日。兄は『クリスマス』が1年で1番嫌いな日になってしまった。
暫くして父の同僚から父の住所を教えてもらった。あの人はその同僚が住む社宅にわたしも連れて行き根掘り葉掘り聞き始めた。
父は家から特急でひと駅離れたところにアパートを借り、そこにプロポーラーの女性が通うようになったそうだ。ある日、彼女が持病の癲癇の発作をおこし泣きながら「わたしにはあなたしかいない。」と言われ覚悟を決めたこと、クリスマスなの日は別れ話をしていたことを聞いた。同僚のおじさんとは面識があり帰り際たくさんのたくさんの愛情をこめてわたしの頭を撫でてくれた。
ありがとう。おじちゃん。本当に本当にありがとう。

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