12月10日~12月16日 和牛解散+デコピン
“たそがれレインボーブリッジ解散”のニュースがヤフーニュースで流れてきた。毎度のことだ。あと2か月もすれば改名してまた復活するだろう。次は私を加えてのトリオとして。
“たそがれレインボーブリッジ”、“富士山の朝焼けでデコピン祭り”、“デカシジミーズで夕食を”、彼らが解散と復活と改名を繰り返す一連の行動には重大な秘密が隠されていた。それはすべてデータの受け渡し場所であるということ。
彼らは異国のスパイだった。解散期間中に、ボケ担当が防衛、行政、経済、あらゆる日本の機密情報を集め、ツッコミ担当にそれをコンビ名に関する場所で譲渡する。それが名前に込められたカラクリの真相だ。
レインボーブリッジの真ん中、富士山の山頂、宍道湖に浮かぶ船の上。巧妙に仕掛けられたサインは我々公安も気づくのにかなりの時間を要した。
そして官房長官から、彼らと一緒にトリオで漫才師として活動し、データの受け渡しを阻止するミッションが私に課された。
そこそこ人気がある彼らに取り入るには相当苦労した。解散後、ピンで活動する彼らと接触するため、テレビやお笑いのオーディション、ネタの大会に出まくった。初めて道頓堀ZAZAでR-1一回戦に出場したとき、心臓の鼓動が止まらないんじゃないかと思うほど緊張した。そこからキャリアを多く重ね、観客の咀嚼音まで聞こえてくる大すべりにも動揺しなくなった。ネタ作りのコツもつかみ、だんだん増えていく笑いの多幸感に酔いしれた。
そして下積みの努力が実り、トーク番組のひな壇で彼らと共演した際、収録終わりに食事に行くことに成功する。
「これでやっと”潜入漫才師”としての一歩を踏み出すことができる。」
食事中、レモンサワーに涙がこぼれそうだった。
そこから作戦はうまいように進展していく。渋谷、高円寺、新宿ゴールデン街から野毛小路、天満まで多くの土地と場所で彼らと飲み明かした末、意気投合しやっとトリオ結成まで辿り着いた。
今度のコンビ名は
“M-1優勝後に見る景色に僕らは何を思うだろう”
に決定した。いつもの居酒屋でリーダーからこの名前が発表されたとき、驚愕して生ビールを吹き出してしまった。
「こいつらまさか、M-1優勝する気か!?」
“Yes,we,can,can,can,can,can,can,can,can,can,Oh,oh,oh,oh,oh,oh,oh”
ジャポニカ(以下J)「どーもー“M-1優勝後に見る景色に僕らは何を思うだろう”でーす。」
アンチワサビ(以下A)「長い、相変わらず」
せんべいクラッカー(以下S)「オレ、印税でぼろ儲けしたいんよね。」
J「いや、いきなりかい。」
A「ラジオはオープニングトークのインパクトで決まるからな。さすがやな、せんべい。」
J「これ漫才や。漫才の入りをラジオ扱いすな。」
S「いま、ラジオのこと侮辱しましたよね。」
A「ご時勢!ご時勢!あぁー明日Xで叩かれるわ。お前ご時勢には気をつけろよ。」
J「出た!ご時勢警察。うるさいもんな。そういう世間の声。」
S「いま、ご時勢警察のことバカにしましたね。」
A「ご時勢!ご時勢!だから気つけろいうたやろ。」
J「厳しいな。まぁ話戻すけど、印税で稼ぐってどうやんの?」
S「やっぱり日本が世界に誇るマンガかな。」
J「なるほど。どういうジャンルでいくの。いっぱいあるで。王道のスポーツ?それとも今流行りの転生ものとか?」
S「カンニングものでいこかなって。」
J「いや、ご時勢!ご時勢ご時勢ご時勢!一番あかんやん。炎上の業火に自ら飛び込んでるやん!」
A「いま、あなたカンニンガーの個性傷つけましたね。」
J「そんなもんあるかー!あかんもんはあかんねん!それにカンニンガーってなんやねん!」
繰り出す怒涛の展開。アンチワサビの小ボケに、私ことせんべいクラッカーのトリッキーな大ボケ。それをまとめるジャポニカの破壊力あるツッコミ。
すべてがはまった私たちは、二位のアンミカと松岡修造の“ポジティブの頂”をおさえ、まさかの優勝。本当にできると思っていなかった。表情をグシャグシャにして泣き崩れ、最後のボケコメントを考えることもすっかり忘れ、笑い合い、三人で強く抱き合った。任務のことなど上の空であった。
しかし、そこに冷泉沈着な男が一人。司会のエージェントKJだ。彼は、ジャポニカが涙とともに超小型SDカードを目から取り出す仕草を見逃さなかった。
翌日、“M-1優勝後に見る景色に僕らは何を思うだろう”は電撃解散を発表する。通常業務に戻った私だが、KJが彼らに放った最後のセリフが頭から離れない。
「鼻うがいして出直してきな。」
その言葉を思い出す度、自分が諜報部員としての甘かったことを痛感し自己嫌悪に陥ってしまうが、今回のことを教訓として心に刻み、次の任務の準備にとりかかった。
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