見出し画像

SF創作講座2023「最終課題:第7回ゲンロンSF新人賞【実作】」感想(1)

「撃っていいのは、撃たれる覚悟のあるヤツだけだ!」
                                                   (by神聖ブリタニア帝国第99代皇帝)

 多寡知 遊(たかち・ゆう)です。
 SF創作講座・第7期ももう終わりです。私が同講座を受けてるのは、友人が欲しいからですが、今期も友達出来なかったぜ!(泣)
 講座はもう終わりですし、今更、人間関係が壊れる心配もないので(そも壊れて困るような人間関係を構築できてない!)、同期生の皆さんの最終実作を読んでの「忖度なし」の感想を順次公開していくことにしました~。
 ご笑覧頂ければ幸いです。

 冒頭に挙げた格言(?)に倣い、私も自作を批評・批判される覚悟は完了!しています。だから「お前の感想はピントがずれている!」というご批判や「お前の書いたラブコメな実作について、自分が思うところを全部書かせてもらうからな! 首を洗って待ってろ!」という挑戦も甘んじて受けます。 というか、むしろお待ちしていますので、よろしく!

 本稿ではとりあえず3作について扱います。
 実作は「こちら」でお読み頂けます。

1) 遺されたもの/朱谷(あけたに)

「AIがこの先、発展していくと出版業界やエンタメ業界にどのような影響を与えるのか?」 その命題に対して朱谷さんはとことんまで、真摯に考え抜かれたんだな~と読者に伝わってくる、配慮と考察の行き届いた世界観がとにかく素晴らしかったです。些細な描写に至るまで、その世界観に沿った描き方になっており、本作には感心することしきりでした。
 私は性格が大層悪いんですが(苦笑)、本作にはツッコミどころがなかったです。登場人物たちの心情描写もグッド! 謎は謎のまま残すラストも、何とも言えぬ余韻を残しており、良かったです。

  

2) 鱗禍《りんか》/みよしじゅんいち 

 みよしさんは小説が上手い方だと思っています。
 ただ本作に限っていえば、いささか冗長な部分が多すぎると感じました。ご自分が詳しい分野、得意分野について饒舌になってしまうのはマニアの性だし、私も分かります。分かるんですが、そこは今少し抑えて欲しかったかなと。
 小説に「遊び」が必要なのは分かるんですよ。「本筋に関係のあることだけ書け!」ってんなら、それこそ梗概で十分なわけです。
 でも本作は読んでいて「このシーンや台詞って要る?」「この場面は必要?」と疑問に感じる箇所がかなり多くて、それが全体的な冗長感に繋がっているかなと。
 Discordでのみよしさんの発言によれば、本作は〆切直前に一気呵成に書かれたよし。なので仕方ないと思いますが、余裕を持ったスケジュールで初稿を完成させ、そこから冗長な部分を削り、完成度を高めていって欲しかったと、残念に思います。

 あと要所要所で読者に不親切だなと感じられました。
 例えば、北川は「デザイナーだったらしい」って書いてあります。でも単に「デザイナー」って書かれても、「ファッション・デザイナー」から、「メカ・デザイナー」まで、幅広いんですよ。

 読んでいけば「あぁ建築関係のデザイナーか」と分かりますけど、私は北川が女性なので最初「幾何学模様を盛り込んだ衣装なんかを作ってたファッションデザイナーかな?」と、思いましたもん。
 北川は本作のキーパーソンです。そういう人物に関する情報は、読者のストレスになるのを避けるためにも、早めにかつ詳細なモノを開示するべきかと。あと公安なんだから北川の結婚歴とか、普段の交友関係とか、もっと突っ込んだ情報も調べてると思うんですけど……?

  私は本作で初めて「グルーガン」って単語を知りました。これって一般的な単語なんですかね?(調べたら100均でも売ってるみたいですが) 「超大容量のグルーガン」とだけポンと書かれていて、特に説明がないのは、ちょっと……。本筋に全く関係の無い、おでんの具を詳細に描写する余裕があるなら、重要なアイテムであるはずの「グルーガン」について、初登場時、簡単でもいいからもうちょっと説明が欲しかったです。 

 レプリケーターが増殖した後、「政府も衛星写真でしか情報を取れなくなっている」とありました。でも別に停電でも、ヘリ、偵察機、ドローンを上空に飛ばせば簡単に情報を収集できるのでは? 「人工衛星だけ」というのなら、「何故、衛星だけなのか?」を論理的に説明すべきです。

  ラストが駆け足で余韻も何もないですが、駆け足なのはご本人も認められているので、とやかくは言いますまい。

 

3) 旧名沢スカイランドの観覧車について
雨露 山鳥

 素晴らしかったです。親子三代の物語と改変SFが違和感なく融合し、雨露さんの構想の非凡さと構成力の卓抜さに圧倒されました。そこにシビれる、憧れるぅ! 
 私は科学&化学周りの知識がないので「これで本当に発電できるのか?」は正直分かりませんが(苦笑)、門外漢にも十分な説得力があるように感じられました。
 情緒のある文体も心に染み入りました。
 『物語の最初と最後で、登場人物が何らかの変化を遂げていること、それがエンタメの基本』と言われてますが、語り手の僕と八木さんの変化も大変上手く書かれていて、感心することしきりでした。
 余韻と希望に溢れたラストも素晴らしかったです! 脱帽! 

  全実作の読了まで、あと25作!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?