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ぼく、を通じ「あの方」の意図を伝える

自分以外のだれか、のメッセージを
そのひとに成り代わって伝えようとしたことはありますか

わたしには、それほど多くの経験はないのですが

自分自身で自分の想いを伝えようとしても、相当むつかしいのに
本当のところは分からない
自分以外のだれかのメッセージ

それを伝えようとする行為には
強い思いが伴います

きょうご紹介する
「1億3千万人のための『歎異抄』」は
鎌倉時代に起こった仏教である浄土真宗の開祖、親鸞上人の教えが
その没後に、あまりにも歪んで伝わっているのを嘆いて
自身が直接聞いた話をつたえることで
本来のメッセージを回復しようとした
唯円
という方による書物『歎異抄』の現代語訳です

この『歎異抄』
無人島に1冊持っていくとしたらコレ、といわれるほど
非常によく知られた本で
さまざまな解説本も出されていて
お読みになっている方も多いとおもうのですが

わたくし、浄土真宗の一派である高田派のお寺に付属する中高一貫校で
中高6年間のうち5年間、必修の仏教の授業のなかで、親鸞聖人の教えに触れて仏教の魅力にふれるも
なぜか、この歎異抄には一回もふれることなく
いままで来てしまいました

4ヵ月ほど前に、あまり深い意図もせず
何冊か検索でヒットした、歎異抄関連本を、つぎつぎと予約してあった中、たしか一番、待っている人数が多かったのが本書(24人待ちとかだったような)しばらく忘れていたのですが

奇しくも
自分以外の、だれか(稀有なご経歴をもつゲストさん)をお迎えする音声配信番組をはじめるにあたって
こちらの本が手配されたと最寄りの図書館からメールが入り
読むに至りました

『正しさ』を、争いの道具にする 人の性

原著である『歎異抄』の著者、唯円が
だれが話す「親鸞上人」が正しいか、といった不毛な議論や争いに入ることなく
あくまで本人が、親鸞聖人と直接話した内容をもとに
同著を記したのと、おなじように
本書の著者、高橋源一郎さんは『歎異抄』にかかわっていくのですが
その過程で
とても根本的な問題を受け入れています

”名前は知っているけど、中身までは知らない。そうやってぼくたちは生きて行く。僕もそうだ。作家、芸術家、科学者、英雄…たくさんの名前を知っている。それからちょっとした知識もある。でもその人のことが分かったといえるほどの人はほとんどいない。そうやってぼくたちは「薄い知識」で生きて行く。

一億三千万人のための『歎異抄』(p.13 「歎異抄」を読む前に)より

そもそも他人によって理解されるとは、極端な言い方をすれば、誤解をされるということだと思う、と続ける 高橋さん

ご自身が理解(誤解)した親鸞さんを『シンラン』
唯円を『ユイエン』、念仏を『ネンブツ』、阿弥陀を『アミダ』…と表記

どれが正しいか、どの解釈が優れているか(上か)といったではなく
わたしだけの『シンラン』を述べていく

結果として
あたかも唯円が現代に蘇って、現代語で書いているかのように
読者自身の『シンラン』や『ネンブツ』を直接知っていくように
導いていく、すごい著作となっています

腰を抜かすほど、リベラル

内容について逐一書いたのでは
本書の魅力も、本文を自分で読む楽しみも、損なわれてしまいますので
最も凄い、とおもった1個のエピソードだけ
こちらに書きます

それは
『ユイエン』が勇気を絞って、これを言うことで破門されてもいい
と決心をして
『シンラン』に対し
”ネンブツをとなえても、ちっとも嬉しくない自分”
を告白するシーン

これに『シンラン』は
”じつは、オレもそうなんだ”
と返すのです

”極楽浄土に行きたいという気持ちがおこらない”と告白します

念仏を唱えたら、極楽浄土に行ける

というのは
いわば、浄土真宗の教義の中心(セントラル・ドグマ)です

それを、開祖が
”ようわからん”といっている

一番弟子に語らせる

という何とも衝撃的な内容なのです

これは、現代語訳した高橋氏のフィクションではなく、原著『歎異抄』がそういう書物であったことが、巻末に付録される原著からわかります

いまから八百年強ほど前の日本で
これほどまでにリベラルな思想が展開されていたかとおもうと
世界を同じ目ではみられなくなるくらいの衝撃があります

伝える意義と、むつかしさ

話を聞いて下さるかたに(自分をとおしてではなく)
直接、大切なことを知っていただきたい
という意図は
常日頃からあるつもりでしたが
どうやら自覚が浅かったと、大いに認識が改まりました

これほど、分かりやすい、すごい本に出会った感想が
いかにも分かりづらい、こ難しい字面の文章になってしまったのは
偏にわたしの未熟さ故です

これから、焦らず弛まず、修練して参りたい所存です



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