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オオカミが騒ぐ夜にクマを拾った話


帰り。並んでるお店に人が放つ灯りが目立つ。
白、黄、緑、水色、暗い中に色んな色が混ざって発光してる。
前へいくにつれ浴びてるような気分になって、夜の街並み対1人だと感じる。
溶け込むか否か負けられない戦いにも思える。
溶け込むことはどんなことなのか分からないのだけれど。

風が強い、けど電車を選ばず2駅歩いてた。
ぼろぼろのジャージの袖を噛みながら歩いていた。
舞台が終わって腑抜けになって、人に紛れることが怖くてスーパーにいくこともできないメンタルに入ってきた情報は、一心同体だと思っていた子に恋人ができたという。
私はそれを聞いてただおめでとうと打った。
今でこそ素直に衝撃を受けたといえるが(いや恥ずかしくて言えないかも)できるのはただおめでとうと打つことだけだった。
人の幸福を素直に祝えない私はどうしようもなく子どもなのだろう。
私の彼女じゃ無いのに、変わらず私のことが大好きだと言ってくれる言葉を受け取れず、自ら距離を少し置いてしまっていた。

途中のコンビニでお酒を買ってみた。
スミノフ。
美味しい。少しハイになった。
瓶をぶらぶら揺らしながら歩いていたら、手持ち無沙汰になって、瓶をどこかに投げつけたくなったからしゃがんで地面の石に、砂利にぶつけた。
衝動は耐え難いものだ。
夜だと尚更。
人が通る気配がしたけど私はそれをやめられなかった。
激しい人間だと思うかもしれないが普段は怒ることも中々ない、穏やかな人間だと思っている。
他人に聞いてもそう言うだろう。
だけどこの日の夜は何者かに乗っ取られていたのだ。
しゃがんで瓶をガンガンとぶつけて、近寄りがたい人になっている。
だけど、湧き出でるものは与えてしまうかもしれない嫌悪感を超えていた。
バケツがあってそれに叩いたら底が割れて、刃物へと変化した。
変化したそれを持っているとなんだか強い人間になれた気がして嬉しくなった。
高揚感を持ちながらそれを握り歩いた。
電車が隣を通る。
投げつけたくなった。
けど、犯罪を思った。
私はまだまだこの世界で生きていたいのだ。
沢山の人が揺られ、乗っていた。
携帯を見ながら立っているお姉さんが見えた。
帰路へ帰るんだろう。
羨ましいと思った。

2、3人自転車がいた、大学生くらいの男の子。
それを持っている自分が怖くなり、なんて事の無い装いで通り過ぎる。
同時にスクールバックにナイフを入れて行く彼女彼等の気持ちはこんな感じなのかと理解した。
武器。か。
ブロック塀に空き缶が数個置いてあったから、そこにそれを置いて手放した。
後ろからガッシャーンと落ちて割れた音がした。初めは知らんふりをしたが、数歩歩いて私は引き返した。
学生時代自転車を使って通っていたので、それを自転車が踏んだ時危ないことを思ったのだ。
けれど地面にある割れたそれを見ると、もっと壊したくなった。
踏みつけると、パリパリと音がした。
プラスチック感があった。
凶器だと喜んでいたけど、ものは軽いあっけないものだった。
そのままにしたまま去った。
凶器は手から無くなった。
騒ぐものに乗っ取られる怖さはなくなったが、頼るものがなくなった怖さがあって、このまま戻るべき場所に辿り着けるのか不安で、歩くことしかできないから、代わりに手のひらをぎゅっと握りしめて歩いた。

明るい場所に出た、人が沢山いる。車が通る。
茶色い大きな物体はそこにいた。
ガードレールに挟まっているそれを人はチラチラと見ながら避けて歩いていた。
顔がはまっていて、風に吹かれ、悲しそうで苦しそうだった。
何故かそれに私は共感をした。
私はそれをおもむろに掴んだ。
見られているような気がしたけど、そのまま掴んだまま歩いた。
持ち主のために分かりやすいところに置こうか、でも風が強いから置いても吹き飛ばされてしまうかも。もういいやこのやりきれなさは君も同じなのかい?
持ち主だったかもしれない子どものことを思った。
でももしくはパチンコで手に入れたもので、もういいやと捨てたのか?(今思うとそんなことないか)
思考をしたけれど、もう全てどうでも良かったし、むしろ投げやりに掴んで歩いた。
途中で置いていってもよかった。
鼻の部分に挟まっていた跡の汚れがついていた。それを撫でて顔を埋めてみた。
もふもふして柔らかく気持ちのいいものだった。
高そう。そう思った。
こんな大きなぬいぐるみ手に入れたことがない。
おねだりをすることは苦手だったし、必要のないものは手に入れるべきではないという考えが根付いているから、それを家へ連れて行くことがなんだか面白くなってきた。
悲しみを吸収してるのかしてないのか分からないけど、そこにいるだけで私はそれを頼りにすることができた。

玄関を一緒に入った。
私の半分くらいの大きさのその子が入ってきた。
ここが私の部屋だよ、そう教えた。
お布団に寝転がりながらぎゅっとしたら咳がでるので洗濯もしてあげた。
盗聴器もカメラも大丈夫そう。
変な子、でもさわり心地と大きさは良い感じ。
あなたのおかげで私は家へ帰れた。

無くしてしまった方ごめん、預かってます。

🌕

あとがき。
小さい頃からクマと友達になりたいと思っていました。大きいものへの憧れと、草むらの中クマの上に乗ることを夢に思っていました。
何故か私はクマと友達になれると思っているのでした。
私の友達はクマは怖いと言ってました。
以前近くにいた人は私のことをクマと呼んでいました。
ビースターズ(漫画ね)最近読んでたら少しクマが怖くなってたりしてます。
オオカミは好きです。
かっこよくて、レゴシもかっこいいし。
鬼滅の刃も、伊之助推しです。(イノシシか。)でも雰囲気似てるし。
動物占いはオオカミだったし。

けど、この夜はクマが勝ったってことかな?
クマは友達、憧れはオオカミ。
そんな感じです。

※このお話はフィクションです。


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