絆-WONDERFUL WORLD-【中編】

ネウロイの襲来、そして謎の銀色の巨人の降臨から数日後。
ブリタニアのある村を連盟空軍航空魔法音楽隊ルミナスウィッチーズの面々は訪れ、村に広がる景色に息を飲んだ。

「何よこれ、酷い…」

「話は聞いていたけど想像以上ね」

建物や木が軒並み原型を留めていない凄惨な破壊の跡に真っ先にリュドミラ・アンドレエヴナ・ルスラノヴァ『ミラーシャ』と音楽隊を束ねる隊長のグレイス・メイトランド・スチュワードが悲痛な面持ちで呟いた。
ブリタニアのある村がネウロイの襲撃を受けたという一報を受けて、彼女たちルミナスウィッチーズはリベリオンでのライブを終えてすぐにブリタニアへの空路に着いた。
迅速に動いた理由は襲われた村が彼女たちが初めてライブをした思い出の地だからというのもある。
しかし彼女たちにとってはそちらよりももっと大きく大事な理由があった。

「村の人たちは大丈夫かな。アイラさんも…」

渋谷いのりが言葉に違えず憂いを帯びた表情で心配そうに言う。

「大丈夫だよ。だってアイラだよ?」

「来る途中で話を聞いた軍の方も負傷者はいれど亡くなった方はいないと言っていましたしその点は心配ないと思うのです」

マナイア・マタワウラ・ハトとマリア・マグダレーネ・ディートリヒは感情と理屈、お互いのらしさを持っていのりの不安を和らげようとする。

確かに見るのも辛い光景だがその一方で、エレオノール・ジョヴァンナ・ガション『エリー』には違和感を感じる部分があった。

「でもネウロイに襲われたにしてはこんなに建物の形が残ってるなんて珍しいよね」

「言われてみればそうね」

エリーの故郷のガリアはネウロイの攻撃に晒され占領下にあった。
あるウィッチの部隊の活躍によって解放された故郷に戻った時に見た故郷の景色と比較しても、破壊の痕跡は少ないような印象を受けた。
シルヴィ・カリエッロも同じ感想を持った者の一人だ。
彼女もロマーニャの領土内に位置するヴェネツィアをネウロイに陥落させられた経験がある。
だからだろうか。決して軽いと思っている訳ではないが、不謹慎だとは思いつつも、村の被害が規模としては小さいのが気になったのは

「あ!ルミナスのお姉ちゃんたち!!」

「久しぶりー!」

何にせよアイラや他の村の人たちを探さなければ。
グレイスたちは村の中へと進んでいくと、彼女たちを見つけた子どもたちの方から近付いてきてくれた。

「よかった!平気だったんだね!」

「ああ、皆ネウロイに襲われたのが嘘みたいに元気な笑顔してる」

嬉々として駆け寄ってくる子どもたちにヴァージニア・ロバートソン『ジニー』とジョアンナ・エリザベス・スタッフォード『ジョー』は安堵する。

「なんだそんなに騒いで…お!ルミナスウィッチーズの嬢ちゃんたちじゃねえか!」

「本当だわ。みんな!ルミナスウィッチーズが来てくれたわ!こっちに来て!」

子どもたちが集まれば、騒ぎを聞きつけて大人たちもやって来て復興作業の手を止めてまで、ルミナスウィッチーズのメンバーの元に集まった。
見た限りでは知っている顔がいない、ということにはなっていないようでグレイスが抱えていた不安が和らいだ。

「ネウロイの襲撃を受けたと聞いて心配でしたが皆さんご無事なようで安心しました。村は残念ですが…」

「命があるだけで有り難いさ。贅沢は言わんよ」

「これもあの巨人様のおかげだねえ」

「巨人様?」

村人の女性が言った言葉にマナが反応する。

「凄かったんだよ!家よりも大きくて!パァって光って!腕からビーム出してネウロイを倒したんだ!」

「バカね、それじゃちっともわからないでしょ」

「私たちがネウロイに襲われていた時突然、光と共に銀色の巨人が現れてネウロイを倒してくれたんだ」

幼い少年の要領を得ない説明に呆れ果てる少女の横で老婆が語った。

「ネウロイを倒した!?マジかよ…」

「巨人、その巨人というのはどこにいるのでありますか?」

軍人でも兵器でもウィッチでもない存在がネウロイを倒したと聞いて驚くジョーの後にマリアが訊ねる。

「ネウロイを倒した後すぐにどっかに飛んで行っちまったんだよ。だから今どこにいるのかってのは俺たちにはわからない」

「でもネウロイを倒して皆を助けてくれたってことは悪い人じゃなさそうだよね」

「人?巨人って言うくらいだから人って言っても間違いではないのかしら。実際に見てみたかったわね」

男性の話を聞いてジニーもシルヴィも銀色の巨人なる存在に関心を持った。

「あの、アイラ様はどこにいるんですか?」

ミラーシャもその話題に関して興味があったものの別の話題を斬り込んだ。
話の腰を折って申し訳ないと思う気持ちは大いにあった。
しかし彼女にとっては村に来てから…もっと言えば村がネウロイに襲われたと聞いてからずっとアイラの安否が気がかりだった。

「ああ、アイラさんなら今ー」

「えええーーー!!!????」

男性が答えようとした矢先、村人の集まりとは全く違う方向からそんな大きな声が割って入ってきた。
その声のする場所をジニーたちが見てみると、そこにはソフィーと使い魔のガンちゃんがいる。

「ル、ルル、ルル、ルミナスウィッチーズの皆さん!!?」

「どなたでありましょうか。村では見たことないような気がしますが」

「あの人ウィッチじゃないかな。ブリタニア軍の服着てるし、使い魔だってほら、側にいるよ」

見慣れない顔と声にマリアが首を傾げる一方でいのりは、ソフィーの服装と使い魔に注目する。

「彼女、ネウロイの攻撃から村の皆を守ってくれたんだ。しかも村の復興まで手伝ってくれてて」

「そうなんだ…」

村人からの話を聞いてジニーはソフィーに近付いて話しかける。

「ありがとう。私たちの大切な場所を守ってくれて」

「いいい、いえそんな私なんか全然何もしてなくて…あああ、あの、あの私、ソフィー・テイラーと申しまして」

憧れの人物を目前にした緊張から声が上擦って上手く言葉を話せないソフィー。
そんな彼女の足元では使い魔のガンちゃんがジニーの使い魔モフィを嘴で突いていた。
そんな彼女を見てミラーシャは呟いた。

「なんか落ち着きないわねあの子」

「そう言ってるけどアイラに最初に会った頃のミラーシャだってあんな感じだったよ」

「私あそこまでじゃなかったでしょ!?」

いつの間にか隣に立っていたエリーからの指摘にミラーシャは声を大にして否定する。
アイラを前にした自分は側から見ればソフィーのように興奮して緊張していただろうが、あそこまで酷くはなかったはずだ。
そう目と口でエリーに訴えかけるミラーシャであったが、エリーは先の言葉を訂正せずミラーシャの方を見てこう言った。

「ううん、ねえ?」

「確かにその時のミラーシャにはあのくらいの勢いは感じたな」

「また適当なこと言って…」

エリーとは正反対の側から聞こえる声。エリーに同調する内容にミラーシャはそちらを振り向きながら言い返そうとする。
またどうせシルヴィやマリアあたりだろう。

「え!!?」

ミラーシャは口を開いて驚いた。
無理もない。目と鼻の先にいたのは彼女が音楽の道を志すきっかけにして、かつてルミナスウィッチーズのリーダーを務めていた人物だったのだから。

「アイラ様!?」

ミラーシャの声に反応してジニーたちもそちらを振り向き、皆誰一人の例外もなく笑顔を浮かべる。

「久しぶりだねアイラ」

「ああ、久しぶり。エリーも、ミラーシャも。それに他の皆も」

「「アイラ!」」

「「アイラさん!」」

他のルミナスウィッチーズのメンバーも続々とアイラの元に集まる。

「おい、皆…」

あまりにも一斉にしかも強く自分の体を押し付けているような強さで迫ってくる者もいて、これにはアイラも困り果てた様子を見せた。
グレイスもそんな彼女と話をすべく歩いて距離を縮めた。

「貴女も元気そうで何よりだわ。久しぶりねアイラ」

「お久しぶりです隊長、お気遣いありがとうございます」

久しぶりの再会を果たしたジニーたちはアイラが生活をしている邸宅に場所を移した。
村に滞在する間この邸宅で生活することになったジニーたちは着いて荷物を置いてすぐ、室内の整理整頓に取りかかった。


「そっか、アイラ今ここに住んでるんだ」

「一人で暮らすにはいささか、というよりかなり広いがな。おかげで毎日掃除をするのも一苦労だ」

「でもここもそんなに壊れてなくてよかったわ。想像してたよりだいぶ楽になりそうよ」

他愛のない談笑をしながら掃除や散らばった家具の整理をするアイラたち。
この建物もネウロイの被害による影響を受けていたようで、すぐ近くの地面にはビームが着弾してできた穴があり、着弾した際に生じた振動で家具などが散乱していた。

「アイラは見たの?ネウロイを倒したっていう銀色の巨人」

「…ああ、今まで見たことないくらい神秘的だったよ」

エリーにそう返したアイラは川の水面に映った巨人としての自分の姿を思い起こす。
そう神秘的、まさにその言葉が相応しかった。
祈りを捧げる者がいたように、自分もあちら側にいたら行動には移さなくとも心の中ではそうしていたかもしれないと思える程に。

「神秘的か、そう言われるとますます会ってみたくなるなぁ」

「皆はどうするんだ?」

巨人の姿を想像して呟くジョーにアイラは心に針を刺されたような気分になる。
しかしそれを表に出すことなく話題を切り替えるように質問を投げかけた。

「当分の間はここにいるつもりよ。村の復興を手伝いたいし、さっきエリーとライブをするって決めたしね」

「ライブ?」

「皆さんのライブを間近で見れるってことですか!!?」

グレイスの発言にアイラとソフィー、感情の振り幅に大きな差はあったものの食い付く。

「皆不安や怖いって気持ちがまだ残ってるはずだし、ここの人たちには凄くお世話になったから」

「是非やってください!ここの人たちも喜ぶと思います!もちろん私も!!」

「そんなに喜ばれると照れるなぁ。今までだって色んな国の人たちにそういうこと言われたことはあるけど、同じウィッチにこんな風に直接喜ばれることってまだ慣れないからなんか今俺変な感じだよ」

「俺?」

首を傾げながらソフィーは直前まで会話していたシルヴィからジョーの方を見る。

「あ…いけね。家で年下の家族の面倒見てたから普段はこんな感じなんだ…ライブで見る時とイメージ違ってガッカリさせちゃったかな?」

「可愛い…可愛いすぎます!!歌ってる時と違った一面が見れて幸せです!!」

「ならよかった。ありがとうな」

「はうわっ!?かっこ、かわ…かっこかわいいです…ジョーさん」

一点の穢れのないジョーの爽やかな笑顔を貰い、ソフィーは心を直接鈍器で殴られたような強い衝撃を受けた。
数歩離れたところにあるソファーに座ってその様子を見物していたアイラ。
するとエリーが彼女の横に座り、声をかける。


「懐かしい?」

「ああ。こんな感じだったなと」

実際にはルミナスウィッチーズを離れたのは数ヶ月程度。
しかしその期間でも懐かしさを感じるのはそれだけルミナスの仲間たちが恋しかったということの現れだろうか。

「アイラ様も一緒にやりませんか!?」

「え?」

そんな時にふと思考をかき消す声が耳に届いた。
アイラが視線を移してみればミラーシャが希望を宿したキラキラした眼差しで見ていた。

「ライブ!私アイラ様と久しぶりに歌いたいです!」

「ライブ…?いや…私は」

すっかりライブのことなど頭の中から抜けていたアイラは反応が鈍り、返事に窮する。
しかしそんな彼女を他所に周りはどんどん盛り上がっていく。

「私もアイラさんと歌いたいな」

「だよねだよね!マナも九人で歌うのやりたい!」

「全くマナははしゃぎ過ぎであります。まだ決まったわけではないというのに」

「でもマナちゃんの気持ちもわかるんじゃない?マリアちゃんもそうしたいって気持ちはあるでしょ?」

「それはもちろんそうなのであります。そもそもマリアは喜んでいるのを否定してはいないのであります」

ジニーが、マナが、マリアが、いのりが、それぞれ本心から出た言葉を並べていく。
そして続け様にミラーシャがエリーに大きな声で確認を取る。

「いいでしょ!?エリー」

「私としては最初から問題はないよ。後は本人次第、かな」

「エリー…」

自分に決断を委ねるエリーの口ぶりにアイラは迷う。

「歌うの、嫌いになった訳じゃないでしょ?」

「それは…」

そこに関しては微塵も疑わずにイエスと断言できる。
歌は自分を変えてくれた。嫌いになどなるものか。

「ああ、私も是非一緒に加えさせて貰えないか?皆さえよければ」

少し悩んだ後アイラはエリーたちに向けてそう言った。

「もちろんです!アイラ様!」

ミラーシャだけでなく他のメンバーの誰からも反対の声は上がらなかった。
全員の承諾を得たのを確認してエリーは手を叩いて皆に告げる。

「そうと決まればライブに向けての準備だね。でもその前に…」

「その前に?」

「先にここの片付け終わらせてから。でしょ?」


いつぶりかのアイラを加えてのルミナスウィッチーズ九人によるライブの開催。
それに向けてメンバーは各々自分の担当する役割に取りかかった。
パフォーマンスを考えるマリアとマナ、衣装合わせのためにシルヴィとジョーのところに寄ったアイラ。
彼女が次に向かったのはジニーといのりそしてミラーシャ、作詞と作曲を手がける者たちのところだった。

「ん〜どんな言葉がいいかしらね。もっと違う表現でいいのがあるはずなんだけど」

開いているドアの向こうから聞こえてくるミラーシャの声。
どうやら悩んでいるようだ。

「新曲を作るのか?」

「はい、でもなかなかしっくり来る言葉が浮かばなくて。悪いわねいのり、待たせちゃって」

「こっちのことは気にしなくていいよ。ミラーシャちゃんが納得するまでいくらだって待てるから」

ピアノの前で座っているいのりは自身の発言に違いなく嫌な顔一つしなかった。

「ミラーシャがそんなに悩むなんて珍しいんじゃないか?」

「今回は特別なんです。ね、ミラーシャちゃん」

「い、言わなくていいってジニー…!」

狼狽えるミラーシャをジニーといのりが温かい眼差しで見つめる。

「アイラさんも一緒だから。それがすっごく嬉しいんです」

「…だからこそ、アイラ様の久々の舞台に恥じないような歌詞にしたいんです。アイラ様はもちろんジニーたちにも村の人たちにも、私にも『これだ』って胸を張って届けられるような歌詞を考えたくて」

いつも全力で歌詞と向き合っているミラーシャだが今回はまた意気込みが違った。
ミラーシャが音楽の道を志すきっかけはアイラの歌。だからこそ再びまたアイラと歌を歌うという機会に他の仲間よりも喜んでいるし、またそんなミラーシャの気持ちにもアイラは気付いていた。



(皆私がいた時よりもずっと前に進めている…なのに私は未だに自分が何をすべきなのか見つけられずにいる。それどころか…)

邸宅を出て村を歩き回るアイラは徐に上着の内ポケットから巨人に変身した時に用いた道具を取り出す。
アイラはまじまじと見つめる。
あれから巨人になったことは一度もない。道具がネウロイに襲われている最中に手にした時のように光ったり反応することもない。
それがアイラを更に悩ませた。

答えの出ないことと一旦諦めてアイラが道具を元のポケットにしまう。
そして顔を上げた時村人たちに混ざって話をしているエリーを目撃した。
ちょうどそのタイミングで会話が終わったようでエリーは首を動かした拍子にアイラを見つけ、彼女に向かって歩み寄った。

「あれ、どうしたのこっち来て。シルヴィたちと衣装の寸法測ってたんじゃなかったの?」

「それはもう終わったんだ。それでジニーたちのところに行ってみたんだが私の入り込む余地がなくてな。隊長もソフィーもいなかったし、これといってやることもないから気晴らしに散歩でもと」

「なるほどねえ」

それだけ聞いてエリーはアイラと仲間たちの間にどんなやり取りが行われていたのかある程度想像ができた。

「座って話しよっか」

立って話をするのも疲れるから。エリーがそこまで言わずとも察したアイラは彼女と共にベンチに移動して隣に座る。

「どう?皆は」

「少し見ない間にまた一段と頼もしくなっていたよ」

「でしょー。でもその分どうやったら全体としていい方向に進めるのか考えるのが大変でさ。アイラの苦労がわかった気がするよ」

「私は言うほど苦労していないさ。私の時は私の至らないところを補ってくれるサブリーダーがいたからな。今思えばかなり楽をさせてもらっていたと思うよ」

「へえ、そういう気の利いたこと言えるようになったんだ」

「これくらい以前の私でも言えていたさ」

心外だとばかりにアイラが反論する。
エリーは自分のことをどれだけ気の回らない人間だと思っていたのだろうか。

「この前のベルリンでのライブ大盛況だったみたいだな。新聞で見たぞ」

「歌を聞きに来てくれた皆も楽しんでくれてたみたい。ウィッチの人たちもいて感想も貰ったんだ。501の人も全員いて私としてはガリアを解放して貰ったお礼も言えて最高だったかな。501の人にもなんでかガリアの式典でのことでお礼言われちゃったけど」

「本当によくやっているよエリーたちは…」

「…アイラ、何かあった?」

視線を外したアイラの顔を覗き込むように見てエリーが言う。
他者の心の機微に関して敏感な彼女の視線を受けても、アイラは黙ったまま。

「アイラさーん!」

打ち明けようかと迷っているといのりがやって来た。
いつもは見せないような深刻な表情の彼女にエリーとアイラは彼女の表情を見た瞬間、良からぬ不安を覚えた。

「慌ててどうしたの?」

「アイラさん、すぐに戻って来てください。ブリタニア軍の人がアイラさんに用があるって」

「え?」

アイラたちが戻ると広間にはグレイスたちと一人のブリタニアの軍人、他に銃を携行する複数人のブリタニア軍の軍人がいた。
その中で最も位の高いであろう恰幅のいい体型の男がアイラを見るなり、声を上げた。

「おお、お会いできて光栄だよアイラ・ペイヴィッキ・リンナマー中尉。私はブリタニア軍中将のアイザック・スミス。今回この地で起こったネウロイ災害の支援活動と調査の全権を担っている」

中将、そう聞いてアイラは眉間に皺を寄せる。
そんな階級の人物が一体何の用があるのか。

「アイラ、スミス中将は貴女に聞きたいことがあるみたいなの」

「え?」

「今言ったように私は先日この村を襲ったネウロイの被害に関する情報を集めていてね。その過程で村の住民に聞く中で何度も話に出てきた銀色の巨人なる存在について聞きたいのだよ。何でもその巨人はネウロイを倒して何処かに消えたそうだが…」

グレイスとアイザック、両者の話を聞いてアイラは理解した。
彼らがここに来た目的は銀色の巨人、つまりは自分なのだと。

「リンナマー中尉、君は何か知らないかね。君もネウロイの襲撃時この村にいたと聞いている」

「私は何も…」

「本当にそうかね?」

否定するアイラにアイザックは疑いの目を向けた。
アイラはその表情に疑問を持つ。彼は一体何を知っているというのだろうかと。
そしてその疑問に対する答えは他でもないアイザックがしてくれた。

「先ほどそこにいるテイラー軍曹からも話を聞いたところによるとネウロイが村を襲撃した際君は頭から血を流す程の傷を負ったというではないか」

「「えっ…!?」」

アイザックから放たれた事実にミラーシャやエリー、ルミナスウィッチーズの全員が思わず声を出してしまう程の衝撃を受けた。
それもそのはず。アイラは彼女たちに自分が怪我をしたことなど話していなかったからだ。

「だがネウロイと巨人がいなくなった後村に戻ってきた君には出血も傷跡もなく、今もそのような大怪我をしたとは思えない程健康に見える。それに加えて更に村にいたはずの君が何故か村の外から戻って来て、しかもその方角は巨人が飛び去った方角とほとんど同じだったとも聞いている」

「待ってください!スミス中将はアイラがその巨人だと仰るのですか」

「そこまでは言っていないよスチュワード隊長。しかし妙にリンナマー中尉に関する状況が不自然だと言っているのだ。ネウロイを倒す程の力を持った未知の存在を知る必要がある以上、どんな些細な点でも違和感は払拭しなければならない」

かつての自分の部下にあらぬ疑いをかけられていると思ったグレイスはアイザックに抗議する。
だがアイザックはグレイスの方を見向きもしないままアイラを見据えていた。

「…私です」

「アイラ様…?」

「あの巨人は私です」

ポツリと、小さくアイラの放った言葉にジニーらルミナスウィッチーズとソフィーは激しく動揺する。
彼女たちの顔色を見てとってアイラは服の内ポケットから巨人に変身する際に用いた道具を取り出す。

「これを使って私は巨人となってネウロイを、倒しました」

「ほう…?」

「本当なんですかアイラ様!?」

アイラの持つ道具を見て眉を上げるアイザックと距離を縮めて問いかけるミラーシャ。
アイラは「見せて見せて」と言いながら寄ってくるマナに道具を渡しながら、ミラーシャの問いかけに頷きをもって答える。
道具を受け取ったマナの近くにマリアやシルヴィ、ジョーが集まる。
マナは道具をぺたぺた触ったり、横に振ったり、上に上げたり、収納部から引き抜いてみたりと色々試してみるが何も変化はない。

「何もなんないね」

「ですが見たことのない形をしているのであります。このような物、初めて見るのです」

マナたちの様子を横目にアイザックはアイラを真っ直ぐ見据えてこう断言した。

「それが事実であれば尚のこと君には詳しく話を聞かねばならなくなった。我々と共に来てもらおうリンナマー中尉」

アイザックの放った一言にミラーシャたちは動揺する。

「そんな…!」

「そう心配するようなことはない。基地で話を聞くのと身体に異常がないか確認をするだけだ。巨人になったという君の話を事実とすれば身体に何かよからぬ影響が出ている恐れもある…理解してもらえるかね?リンナマー中尉」

アイラは即座には答えず、周りの状況を目で確認した。

アイザックの側で控えている銃を持った部下たち。もしもここで自分がアイザックの意に背けばどうなるか。
そう考えるとアイラには選択肢は一つしかなかった。

「…わかりました。同行します」

「アイラさん!」

「アイラ様!」

「ライブの準備は続けておいてくれ。その時までには戻れるはずだ」

直感的に良からぬ空気を感じたのかジニーやミラーシャが声を上げた。
だがアイラの考えは変わらず彼女はマナへと歩き出していた。

「それを渡してくれマナ」

「でも…」

マナはアイラとは別の方を見る。彼女の視線を追わずとも位置関係は頭に入っていたから彼女がアイザックを見て、自分の身を案じてくれているのだと理解するのにさほど時間はかからなかった。

「大丈夫だ。少し調査に協力するだけだ。マナが思っているようなことにはならないよ」

アイラは笑みを溢し、穏やかな口調で諭すように言うとマナは僅かに躊躇いを見せたものの、道具を渡してくれた。
道具を手にしたアイラは後ろを振り返る。

「ではそれはこちらで預かっておこう。これを使って巨人になったというのならばこれについても調べない訳にもいかない」

目の前まで近付いて来たアイザックの顔をアイラは観察する。
そして道具に目を落とした後アイザックにそれを渡した。

「うむ、ではついてきたまえ」

アイザックは踵を返して出口に向かう。アイラ、彼女の後ろから退路を塞ぐようにも見える配置でアイザックの部下たちが続いた。
ドアが閉まる音がし、残ったのはルミナスウィッチーズとソフィーだけとなった。

誰の口からも言葉が出なかった。全員が全員アイラの去っていったドアに視線を送ったまま、その場を動けずにいた。

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