絆-WORNDERFUL WORLD-【中編②】

アイラとアイザックたちが去って数時間が過ぎた邸宅。
夕陽の温かな光が室内に差し込むが、その光がジニーたちに安らぎを与えることはできず、彼女たちは皆心ここに在らずといった状態であった。
アイラからはライブの準備を進めるようにと言われたが、とてもそれができる気持ちではなかった。

「ごめんなさい…私が余計なことを言ってしまったばかりに」

「貴女が謝ることなんてちっともないわよ」

「ソフィーは軍人としての職務を全うしただけ。どこにも非はないのです」

「でも…」

アイラが離れる原因を作ってしまったと責任を感じるソフィー。
彼女をシルヴィとマリアが励ますが、表情は晴れない。

「なんでアイラ、あんな簡単に自分が巨人だって言って、すぐ渡しちゃったんだろう。断ったり、黙ったりとかできたはずなのに」

「私たちのためじゃないかな。あの人と一緒にいた軍人さんたち銃を持ってたし、もし機嫌を損ねて私たちに何かあったらってアイラさんは考えたんだと思う」

マナといのりが先のアイラの行動について話し合う。
この時ばかりはマナも深刻な表情と口調をしていた。

「それもあるだろうけど怖かったんじゃないかな」

そう言ったのはエリーだった。アイラが邸宅から去って以降神妙な表情を作っていた彼女へとジニーたちは一斉に視線を送った。

「ウィッチじゃなくなって魔法力も使い魔も飛ぶための翼も、それまで持ってたものをほとんど全部無くしたばかりでまだ心の整理もできてないはずなのにいきなりそんな力を手に入れて…自分の中に黙って溜め込んでおくのも怖かったと思う」

「そうね…特にアイラの過去を考えるとそう思っても不思議じゃないわ」

グレイスもまたエリーの意見に同調する。
ウィッチのあがりを経験し、ネウロイとの戦いによって右腕を負傷し、戦うウィッチとして失意のどん底にあった頃のアイラを知るグレイスはエリー以上にアイラの心境を理解していた。

「きっと今も悩んでるはずよ。自分が手にしてしまった力の意味を」

グレイスの言葉を最後に部屋中が静寂と重苦しい空気に包まれる。

「ねえ、ミラーシャは?」

そんな中ジョーはミラーシャの姿が見当たらないことに気付いた。
ジニーたちも言われて室内を見渡してみたがミラーシャの姿は影も形もない。

「さっきまでいたんだけど、どこにいっちゃったんだろう」

「ショックが大きくて自分の部屋にいるんじゃないかしら」

「ん〜やっぱりここの部分は残しておいた方がいいのかしら…でもいまいちパッとしないっていうのもあるのよね」

誰よりもアイラを慕っている彼女を皆が心配しているとドアが開き、まさにその話題の中心になっていた人物が外から入ってくる。
彼女は手にしたメモ帳に視線を落としながら、ドアノブに触れていた手で後頭部を掻いていた。

「ミラーシャちゃん?どこに行ってたの?」

「え?ああ、歌詞が浮かばないから外に出てたのよ。村の景色とか見れば何かいいヒントが見つかるんじゃないかって」

近付いてくるいのりからの声にミラーシャは顔を上げた。

「外にいたんだ…てっきり」

「だってライブに向けて動いていかないと駄目でしょう。アイラ様にも言われたんだから」

さも当たり前のようにミラーシャは言ってのけた。

「アイラ様は必ず戻ってくる。今はアイラ様を信じて、私たちは私たちがすべきことを全力で取り組むのよ。今までだってずっとそうしてきたでしょ」

毅然とした彼女の態度。それは瞬く間に他のメンバーたちにも影響を及ぼした。

「そうよね。私たちがくよくよして何もしなかったらかえってアイラに迷惑よね」

「アイラが戻ってきた時に少しでも負担が軽くなるようにしておくのが私たちの役目なのです」

「それじゃあ皆で改めてライブ成功に向けて張り切っていこ!」

それぞれ声を掛け合ってライブの成功に意気込む。
その時ふといのりは時計を見て「あっ」と何かを思い出したような顔をした。

「ご飯の支度しなきゃ。村の人たちと一緒に皆の分の夕ご飯を作るって約束してたんだ」

「ご飯は作れないけど私もついて行っていいかしら?気分転換にもなるし、村の人たちの様子も気になるから」

「そうね。じゃあ皆で一緒に行きましょう」

シルヴィの意見にジニーが賛同する。
そしてその直後にソフィーも前のめりになって進言した。

「私も同行してもいいでしょうか!」

「うん、もちろんだよ」

「ソフィーも一緒に行こう」

ジニー、ジョーと共にソフィーが邸宅の外に出て行く。
最後に室内に残る形になったエリーも彼女たちと使い魔たちの後に続こうとするが

「リオ?」

使い魔の中に唯一自分の使い魔の姿が見えないことに気付いてエリーは辺りを見渡す。
室内にはいないようで外に出て邸宅の周りを捜索してみる。
すると思いの外あっさり見つかった。
茂みの前にリオはエリーに背中を向けるようにして佇んでいた。

「こんなところにいた。リオ、皆に置いてかれちゃうよ」

エリーが声をかけるがリオはピクリとも動かなかった。
聞こえていないのだろうか。いや、この距離でそんなはずはない。ならばどこか具合が優れないのか
色々と考えを巡らせてエリーはリオのすぐ後ろに立った。

「リオ?聞いてる?」

リオによく聞こえるようにかつ抱き上げようと身を屈めたエリーはリオの視線の先に目を向ける。
そしてその先を見て彼女の瞳が揺らいだ。

「そっか、貴方も心配してくれてるんだね…ありがとう」

リオの向こう側にある一点にエリーは笑顔を浮かべて語りかけた。



ブリタニア基地。
かつてネウロイの巣があり、ネウロイの支配下にあったガリアを解放するために第501統合戦闘航空団『ストライクウィッチーズ』が使用していた基地だが、ガリアが解放されストライクウィッチーズの役目が終わった今では主にブリタニアの防衛を主な目的として機能している。
基地の一室ではアイザックによるアイラへの事情聴取が行われていた。


「ネウロイの攻撃で崩壊した建物の一部が身体に降ってきて、朦朧とする意識の中で君は突然目の前に現れたあの道具に手を伸ばし、気付いたら巨人となってネウロイと戦っていた、と…」

アイザックは大きな溜息を吐く。あからさまに不機嫌な表情だ。
だがアイラには彼の反応を不快に思う感情は沸かなかった。

「リンナマー中尉…我々には君をどうこうしようという意思はない。ただ事実の確認をしたいのだ。だからそろそろ本当のことを正直に話してはくれないかね」

「嘘じゃありません。本当なんです!本当に、その通りなんです…」

「わかった。落ち着いて状況を整理しよう。生死の境を彷徨ったせいで記憶が混乱しているようだ…あれを君はどこで手に入れたのだね?遺跡か何かか?」

「遺跡…遺跡は見ました。見て、中に入りました」

「ほう…どの国のどこの遺跡かな?」

「夢の中で…」

遺跡と聞いて食い付きかけていたアイザックの熱が一気に冷めた。

「なんなんだあの子娘は!私を愚弄しているつもりなのか!…夢の中で見た、などと幼稚な嘘をつきおって」

アイラへの聴取を終えて基地の廊下を歩くアイザックは人目も憚らず怒号を飛ばした。

「しかしあの様子からすると本当のことを言っているようにも思えますが」

「あんな猿芝居を貴様は信じるというのか!」

側に立つ副官からの発言を受けてアイザックの苛立ちはますます増大する。
怒りが収まらないまま彼が入室したのは研究室。
ここの研究設備は最新の科学技術が詰まっており、今もその技術を最大限に活用してアイラが持っていた道具を解析していた。
ケーブルに繋いだ道具が収納されたガラスケースの付近で、端末を操作している研究室の責任者にアイザックが近付きつつ声をかける。

「解析の方は進んでいるか。何かわかったか?」

「そ、それが…」

「なんだ?」

目を合わせづらそうに尻すぼみになる責任者をアイザックは蛇を思わせる粘着質な眼差しで睨む。

「まだ何もわかっていません…」

「何を」

「もちろん最新鋭の技術を駆使して全力で解析しています!ですが、今のところ…未知の力を内包しているであろうことぐらいしか」

「この基地の設備は常に我が国の最新技術を取り入れているのだぞ!それを駆使して尚その程度とは何事だ!!」

報告に対してただでさえ募らせていたアイザックの怒りが爆発する。部屋中に響いた恫喝に他の研究員たちも同時に手を止めて、アイザックの方を見る。

「わ、我々に言われましても…こんなことは初めてで…基地にいる他の者やウィッチ全員にも触らせてみたのですが何をどうやっても反応を示さず、とても巨人になるような兆候が確認できませんでした…」

だが怒りをぶつけられてもどうにもしようがないというのが研究員の本音だ。
彼としても決して弛んでいるつもりはなく命じられた役目を忠実にこなそうと、アイザックの言う通りブリタニアの最新技術の詰まった研究室と基地内の人員を最大限活用している。
しかしそんな研究員の都合などアイザックは知らなければ、知ろうともしない。

「いいか!何としてもこれを解析し、これの力を応用した兵器を量産させるのだ。他国に知られる前に。これがあればブリタニアが世界の覇権を掴むことができる。各国の軍勢はおろか、ネウロイを蹂躙することも夢ではない!」

ウィッチですら苦戦する大型のネウロイをたった一撃で粉砕した。
そう村人やソフィーから聞いてからアイザックの頭にはその野望が生まれていた。

「スミス中将、ですがそう上手く扱いこなせるでしょうか…ネウロイを凌駕する程の力、もしかしたら噂に聞くウォーロック以上の脅威になってしまうのでは」

「マロニーのウォーロックか」

アイザックは副官からの指摘を小馬鹿にするように鼻で笑った。

「ネウロイのコアを転用した機械人形など失敗して当然だ。逆にネウロイに利用されるというリスクを頭に入れていなかったマロニーが間抜けなのだ。私は奴とは違う」

ウォーロックの存在はブリタニア軍の間では極秘の機密情報扱いとなっている。
ガリア解放の戦いの際、ネウロイのコアを応用してトレバー・マロニーらブリタニア軍の極一部の者たちが開発した兵器『ウォーロック』が実戦投入された。
それは確かにガリアのネウロイの巣を破壊するという戦果を挙げこそしたが直後ネウロイの力の影響に打ち負け、かえって人類に牙を向きストライクウィッチーズによって破壊された。
結果的にウォーロックはブリタニア軍にとっては失態しか生み出さず、その存在はブリタニア軍内部でもごく一部の者しか知らない。

「それにもし兵器の開発こそ不可能であったとしても、その時はあの小娘を利用すればいいだけの話だ」

「リンナマー中尉が素直に従うでしょうか」

「機械よりも人間を手懐けることの方がよっぽど単純で楽、そしていくらでもやりようはある。ちょうど都合良くルミナスウィッチーズの者たちもいることだしな」

それだけを聞いて部下は意地汚く笑うアイザックが何を考えているのか理解した。
ルミナスウィッチーズを人質にアイラを無理矢理従わせ、巨人の力を使わせようと言うのだ。
言葉にはしていないが彼の表情がそれを物語っていた。



基地の浴場。
扶桑式の様式となっている風呂にアイラは浸かっていた。
普段ならば滅多に味わえない貴重な扶桑式の風呂を存分に堪能するところだったが、残念ながらアイラには風呂を楽しむだけの心の余裕はなかった。

(入浴や食事など必要最低限の場合を除いて別命あるまで自室での待機…実質軟禁だな)

アイラは水を掬った右手に目を落とす。
そこには水面に映る不安気な顔をした自分がいた。
そしてその自分の顔に巨人となった自分の顔が重なって見えた。

「よかったのだろうか。あれを渡してしまって…いや、だがあの状況ではああするより他に方法は」

アイザックに巨人に変身する道具を預けた自分の行いにアイラは僅かな後悔を抱いていた。
あれだけの大きな力。それをアイザックが正しい方向に使えば何も心配はないが、彼はとてもそういう人間には感じられなかった。
しかしかといってあの場では他に選択肢もなかった。
あそこで彼の気を損ねればジニーたちに何か過激なことをするのではないか、とも思ったから。

「何故私なんだ…魔法力を失ったからか?それなら私の他にもたくさんいる。隊長だって…なのに、何故私だけにあんな力が…」

あがりを迎えたウィッチは世界中にたくさんいる。自分などよりもよっぽど世界の平和に貢献し、力を持つに相応しい者がいるはずだ。
だが力は自分だけを選んだ。自分などにはとても手に余るような大きな力が。
その事実がアイラを悩ませ、怖がらせた。

「教えてくれ…誰か、わかるなら…」

白い肌から落ちた水滴が湯の水面を叩き、波紋が広がった。



ライブの準備は着々と進んでいた。
ルミナスウィッチーズと村の住民たち、そしてもしまたネウロイが襲撃した時に備えて警備に就いているブリタニア軍の軍人やウィッチも手伝ってくれたおかげで想定よりも早く完成に近づきつつあった。

「ミラーシャさん、いのりさんが作ってくれたサンドイッチ持って来ました」

「悪いわね。ありがとう」

ストライカーを使用しての本格的な予行演習を終えて一休みするミラーシャ。
ライブ会場として設営されたステージの前の段差に座る彼女は手帳を置き、ソフィーの手にあるバケットからサンドウィッチを一切れ取る。
二人の近くではミラーシャの使い魔のボルゾイのオリヴィエがソフィーの使い魔のガンちゃんを背中に乗せていた。

「順調ですか?」

「うん、かなり見えてきた。ライブには間に合いそうね」

ミラーシャは一口齧って答えた。
続いて二口目、といこうとした時ソフィーの視線が手帳に釘付けになっている気付く。

「見てもいいわよ?」

「いいんですか!?」

「ずっと手伝ってくれたし特別サービスよ。それに他人の率直な感想も聞きたいし」

「ありがとうございます!」

許しを得たソフィーは嬉しさに溢れた表情で感謝を言うと、手帳のページを開いてまじまじと見つめる。

「私、ミラーシャさんの書いた歌詞が大好きなんです。ちゃんと歌を聞く私たちのことを考えてくれて、それでいて自分の伝えたい思いも込められてるような気がして…こんな言葉や気持ちを歌にして誰かに届けられる。そんな素敵なことを私もやりたいんです。私もルミナスウィッチーズのような歌うウィッチになりたいんです」

「なんか、面と向かってそんな強く言われると照れるわね…アイラ様もこんな気持ちだったのかな」

「アイラさん?」

感慨深そうに、それでいて昔の思い出を振り返るような声でミラーシャは言った。

「私もね、アイラ様に憧れて、アイラ様みたいになりたいって思って音楽の道に進んだの」

「それって…」

「そう、今の貴女と一緒」

「確かにソフィーちゃんとミラーシャちゃんってかなり似てるよね」

二人の会話にジニーがエリーを伴って加わる。
彼女たちの足元にはモフィとリオがいて、オリヴィエとガンちゃんに近付いていく。

「そ、そんな。とんでもない!私がミラーシャさんとなんて…」

「あら、それって私と一緒にされたら迷惑だって意味かしら?」

「違います!そんなことないです!」

慌てて必死になって首を横に振るソフィー。
その様子を見てミラーシャはサンドイッチを口から離して、大きな声で笑う。

「あっはっは!ごめんごめん、ちょっと可愛いからからかってみたくなっちゃって」

「駄目だよ。ミラーシャ、いつも私にやられてるからって他の子に仕返ししちゃ」

和気藹々としたやり取りが交わされる。
そんな時だった。

彼女たちの立つ地面が揺れた。
地震とは違う、何かが足踏みをしているかのような頻度と間隔で何度も何度も地面が震度する。

『キィヤアアアアアア!!』

村の遠くの森林地帯。その奥から巨影が近付き、姿が鮮明になる。
山と同じくらいの高さの黒い巨体。体の表面にはところどころ赤い模様があり、腹部には一際大きな赤い模様がある。
両肩から左右に突き出た鋭利な突起。
そしてその巨体には両手足と顔があった。口があり、歯があり、目があった。
それだけ見れば人間や猿と比べても大した違いはないが、構成する全ての要素が地上に存在するどの生物よりもおぞましくグロテスクな印象を与えた。

「なんだよあの馬鹿でかい生き物は…またネウロイかよ!?」

「違うわ、あれは…ネウロイじゃない…」

村人の男性が溢した言葉をグレイスは真っ向から否定する。
戦うウィッチとしてのネウロイとの交戦経験を持つ彼女はあの巨大な生物をネウロイではないと直感で感じ取った。
その直感は正しい。ネウロイではない。
だがもっと正確に言えば、ネウロイであったものがネウロイではなくなったと言うべきだ。
彼女たちのいる地球が存在する宇宙から遠く離れた別の宇宙から飛来した発光体がネウロイに取り付いたことによって誕生した怪物。
スペースビースト『ネウフェル』とも言うべき存在だ。

ネウフェルは雄叫びを上げて、村へと木々を踏み倒しながら歩を進める。

「こっちに近付いてくるよ!」

「貴方たちは村の人たちの避難をお願いします!あれは我々が引き受けます!皆、すぐにストライカーと銃を装備して!」

近くにいたマナと自身の部下にそう告げて一人のウィッチが迎撃に向かおうとする。
だがネウロイ以上に悍ましい姿をしている相手、ただでさえ戦力も装備も心許ないのに勝てるだろうか。
そう思った部下のウィッチは無意識に上官に対して反論を口にしていた。

「ですが、今のこの戦力ではとてもあれを相手にするなんて!」

「あれがなんであれ私たちが戦わないと犠牲がでる。私たちがやらないといけないの…」

「…わかりました」

上官の言葉と苦しげな表情を目の当たりにして部下のウィッチは腹を括った。
上官のウィッチもまた部下の態度に感謝の念を込めて頷く。
二人は駆け足でストライカーと武器を取りに行くために、その場を離れた。

五人のウィッチが青空を駆け、ネウフェルに立ち向かう。
地上では村の外に出た一台の戦車が砲塔をネウフェルに向けて、弾を発射する。
地上からの砲弾が腹部を直撃し、ウィッチの魔力を乗せた銃弾が各方面から表皮を攻撃する。

ネウフェルは声をあげるが、大きなダメージを負った様子はない。
ネウフェルは背面の突起から赤い雷撃のような攻撃を空のウィッチたちに発射する。

「こいつ、攻撃方法がビームじゃないのか!」

初めて見る攻撃に驚くもウィッチたちはシールドと回避で乗り切り、回避の合間に射撃をお見舞いする。
戦車も彼女たちを援護すべく砲弾を継続して発射する。
だがそれでもネウフェルは沈黙せず、前進を止めない。

『ガアアアア!』

下、地上に傾けられたネウフェルの口に赤い光が生じ、大きくなっていく。

「やばいのが来る、全員戦車から降りろ!」

標的に気付いた戦車の軍人の一人が中にいる全員に促し、すぐさま乗車していた全員が戦車を捨てて陸地を走る。
ネウフェルの口から放たれた一筋の赤い光が戦車を飲み込み、爆発させたのはまさにその少し後のことだった。

「なんて威力なの…ぐぅっ!」

地面に刻まれた焼け跡と戦車の残骸に戦慄するウィッチ。彼女の体が空中で身動きが取れなくなった。
突然身体を上下左右から縛られ、重りを背負ったような圧迫感に顔を歪めた彼女は地上から視線を戻す。
ネウフェルの開けた口から不気味な灰色の光が渦のように自分に向かって放射されていた。

「抜け出せない、それに体が吸い寄せられて…」

大きな口を開けたままネウフェルは光の放射を続けている。

「あいつ、まさか食べようとしてる!?」

射撃を行っていたウィッチが手を止めて、驚愕する。
ネウロイであれば絶対に有り得ない行動。だがネウフェルはネウロイではない。
人間の恐怖を喰らい、自らの糧とし進化する。
それがスペースビーストの生態だ。

すぐに助け出さなければ。仲間を救おうと接近した一人のウィッチがいたが、光の範囲内に入った瞬間彼女も動きを封じられた。
光の中に囚われた二人のウィッチはストライカーを全力で吹かして脱出を試みるも、体はネウフェルの口元に引き寄せられていく。

「そんなに腹空かせてるなら代わりにこれでも食らってな!」

光の範囲外から勝ち勝りなウィッチがボーイズライフルを撃った。
弾丸はネウフェルの口元に炸裂。ネウフェルの悲鳴と共に光は消え失せ、危機を脱した二人のウィッチは大きく距離を取った。

「っし、これで…え!?」

仲間を助け、敵に動きを中断させる程のダメージを与えた。
してやったり、と笑うウィッチだがネウフェルの口元を見てその笑顔が凍り付いた。
弾丸を受けて損傷した部位が白い光を放ちながら復元しているのだ。ネウロイのように

「嘘だろ…」

「そんな、こんなに攻撃しても駄目なの…?」

ウィッチたちはとてつもなく大きな絶望感に打ちのめされる。
そんな彼女たちの様を嘲笑うかのように叫びを上げて前進するネウフェル。
その姿を住民の避難誘導にあたっていたグレイスにある単語を連想させた。

「悪魔…」



「…っ!」

ブリタニア基地の一室でベッドの上に横たわっていたアイラ。
一向に待機だけを命じられ、何か悩むのも考えるのも疲れてぼんやりと天井を眺めていた彼女の脳裏に突如として光景が浮かんだ。
村に迫る巨大な黒い生物、その進行を食い止めるために戦う見知らぬウィッチたち、そして村の人たちを安全に避難させようと、ライブ仕様のストライカーで村中を飛び回るルミナスウィッチーズの仲間たち。

「今のは一体……皆!!」

それを見た瞬間アイラは思考することなく体がドアに動いた。

「あの村に怪物が出たとはどういうことだ!怪物とは何だ!?」

「詳しいことはわかりません!ですが、今も確実に村に接近しているようでして」

「この基地のウィッチを全て出撃させろ!戦闘機もだ!」

「既に発進しています!ただ彼女たちの到着まで村にいる戦力で持ち堪えられるかどうか…」

「ぐっ…!村だけで被害が済めばまだいい。だがこのままではここに来るのも時間の問題だぞ!」

アイザックから余裕が消える。
その時管制室のドアが開き、勢いよくアイラが入って来た。
開閉音と足音でアイラに気付いたアイザックは彼女に首を向ける。

「リンナマー中尉!?君は部屋で待機するように命令したはずー」

「あれを私に返してください。このままではルミナスウィッチーズの皆が、村があの化け物に消されてしまう!」

「何をたわけたことを……何故、それを知っている?」

アイラはずっと部屋の中にいたはず。
村が怪物に襲われたという情報はまだアイラに伝えていない。その上まるでその目で怪物を見たかのような言い回しにアイザックに大きな疑問が生まれた。

「いや、そんなことはどうでもいい。駄目だ、君を行かせるわけにはいかん!」

「どうしてです!?このまま怪物を野放しにしては、村だけじゃない。もっと大きな被害が出ます!」

実際アイラの言い分は最もだった。
だがそれを認めてしまえばアイラが宿している力が世界に知られてしまう。
ブリタニアの、自分の手元に置いておきたい力が極秘にできないところまで明るみになってしまう。
そんなことだけは避けたかった。

「これは命令だリンナマー中尉!上官である私の命令に従え!」

「っ…従えません!」

「中将、リンナマー中尉を行かせるべきかと」

「何を!?」

両者共に一歩も引かぬ中、副官がアイザックに告げた。
自らの忠実な部下である彼からの予期せぬ反応にアイザックは睨むように彼を見た。

「今何よりも優先すべきは怪物の排除です。それができなければこの基地だけでなくブリタニア、他の国々にも甚大な損害を与えてしまいます。そうなれば最早人類はネウロイに対抗する力は完全に失われます!」

副官からの意見を受けてアイザックは押し黙る。

「……いいだろう。あれは研究室に保管してある。私からの出撃命令があったと中の人間に伝えればいい」

「ありがとうございます!」

アイラは敬礼を取って、すぐさま研究室へと走り出した。

研究室で道具を回収したアイラはハンガーから滑走路上に出た。
既に基地にいた戦闘機やウィッチは全て出撃しており、周りには人も機体もない。
路上の真ん中で彼女は足を止めて、手にした道具に視線を落とす。

「私はまだわからない。何故私が力を手にしたのか、この力をどう使うのが正しいのか…自分の進むべき未来も、何もかも。だが、こんな私でも今は力を貸して欲しい。私はもうこれ以上、大切な物を失いたくはないんだ…!」

右手に持ち、握り締めた道具に語りかけるアイラ。
道具は彼女の言葉と意志に反応したのか、初めて手にした時と同じく一部の箇所から赤と緑の光が瞬き、体の中に心臓の鼓動にも似た刺激が駆け巡った。
それを道具からの了承と受け取ったアイラは道具を鞘から引き抜く。
鞘を持った左手は左腰に、胸の前で伸ばした右手は道具を水平に構える。
スゥ、っと大きく深呼吸をして息を吐いて、目を閉じる。

ハンガーから歌うために空に飛び立つのはルミナスウィッチーズの時にも何度も経験した。
だが戦うために空に飛び立つのはあの時以来だ。
今、アイラはその時のことを思い出していた。
ネウロイ襲来の報せを聞いて仲間たちとハンガーから飛んだ雪が降る空。
銀世界で銃を手にして仲間たちと共に立ち向かったネウロイとの戦い。
白い地面に広がるストライカーの残骸と赤く染まった雪、右腕からもその赤色が出て目前に広がる光景と結果に泣き叫ぶ自分。

道具を持つ右手が小刻みに震え出す。緊張のせいか、恐怖のせいか、不安のせいか、過去に負った怪我のせいか。
原因はわからない。
だが今自分が行かなくてはルミナスウィッチーズの仲間たちを失ってしまう。
それだけは確実にわかっていた。
だから迷ってはいられない。

「…っ!!」

彼女たちの顔を思い浮かべて、唇を強く噛んでアイラは扶桑人が刀を抜刀するように、道具を勢いよく天に振り上げた。

「シュア!」

アイラは再び空へと飛び立った。


「まさか本当に巨人になるなんて…」

「ああ、驚いたよ」

白銀の光に包まれたかと思いきや、次の瞬間には空に飛び去っていったアイラ。
目の前で起きた光景が信じられないとばかりに副官とアイザックは目を丸くしていた。
話には聞いていたがやはり半信半疑だった。しかしこうしてその瞬間を目撃した今では認めざるを得なかった。

「だが、これであの女が力を使えることは証明された」

副官からの唖然とした目線を気にも留めずアイザックは不適な笑いを見せた。
彼の頭の中ではアイラが怪物を倒す心配よりも、全てが解決した後彼女の力をどう使おうかと考えることでいっぱいだった。

基地から出撃し、村へと飛行中のウィッチと航空機の編隊。
その中のナイトウィッチの一人が魔導針でキャッチした反応に気付き、部隊の隊長に即座に報告した。

「何かが後ろから物凄い速さで接近してきます!」

「基地の方角から!?ネウロイなの!?」

「わかりません。でも物凄く大きな反応です!」

「こんな時に何だって言うのよ!」

悪態を吐きながら背後を振り返って銃口を向ける隊長とウィッチたち。
遠くの空に黒い粒のような何かが見える。
ウィッチたちは警戒しながら引き金に指を添え、次第に距離を詰める黒い粒の姿を凝視する。
迫り来る黒い粒、いや銀色の大きな物体は彼女たちに危害を加えるような素振りを起こさず、その真横を異常な速さで通り過ぎていった。

「何…今の?速過ぎて見えなかった」

「銀色の、流れ星?」

マッハの速度は出ていたであろう正体不明の物体。
飛行機雲の軌跡を残しながら村の方角に消えていったそれを見て、あるウィッチが流れ星と表現した。


懐かしい。向かい風が体に当たる感覚。
豆粒みたいに小さな建物や広大で緑豊かな自然を見下ろせる高さ。
終わりのない青い空と不規則に並び自由に形を成している白い雲。
翼と大きさと速度は違ってもウィッチだった時と同じ景色だ。
また自分は戻ってきたんだ。この空に。
自分はまた空を飛んでいるんだ。

叶うことならこのままずっと、これからもずっとこうしていたい。
自由に好きな時に好きな人たちと並んで好きなだけ空を飛んでいたい。
しかしそれは決して叶わないことと、どこかで思いながらも微かに期待している自分を自覚しつつ、目的地へと急いだ。



「きゃあああああ!!」

ウィッチのストライカーが赤い雷に打たれ航空不能となった。
ついに最後まで抵抗していたウィッチを落としたネウフェルは満足そうに高笑いして、村に進んでいく。
その時ブリタニア基地から取り寄せた自分のストライカーを履き、銃を握り締めたソフィーがネウフェルへと向かっていた。

「ソフィー!?」

「無茶よ!戻りなさい!」

戦闘経験豊富なウィッチが数人がかりでも敗れた相手に新米同然の彼女がどうにかできるはずがない。
ネウロイと何度も交戦した経験を持つためにそう判断したグレイスはジョーと共に叫ぶ。
けれどもその時にはソフィーはもうネウフェルに接近していて、振り下ろされた爪を寸でのところでかわしていた。

「私がやるんだ。やらなきゃいけないんだ今は!」

自分が今立ち向かわなくては何もかもが破壊され尽くしてしまう。
たとえ倒すことができなくとも、倒せる者が到着するまでの時間を稼ぐくらいなら。
そう決意を固めてネウフェルの気を逸らそうとソフィーは銃を撃ちかけながら、村から遠ざけるようにネウフェルの周囲を飛び回る。
ネウフェルにダメージを負った反応は見られない。だが彼女の目論見通り、意識は向けてくれたようで足を止めてソフィーへと口からビームを放つ。

「うっ、きた!」

ソフィーは攻撃を中断して回避に集中する。
真上へと飛んでビームをかわす。かわしたビームが無人の平地を焦土に変える。
その光景を振り返って確認せずソフィーは、ネウフェルの突起から放出された二つの雷撃をシールドを展開して受け止める。

「あっ、ぐうっ…!力が強い、押し切られる…!」

雷を放出を継続するネウフェルに負けじと両手でシールドを維持するソフィー。
しかし雷の一つがシールドを突破して彼女の左腕を掠めた。

「うあっ!!」

激痛に顔を歪めるもののシールドをすぐには消さず、展開したまま体を横に移動してから解除する。
雷はシールドを破ってさっきまでソフィーがいた場所を貫いていった。

「痛い…痛いよ…」

左腕からは血が流れていた。激痛を体で感じ、目で確認したソフィーがつい弱音を溢してしまう。
ネウフェルはその少しの時間さえも攻める好機とし、腹部から小さなビームを撃つ。
慌てて真下に飛んで危機をやり過ごしたソフィー。
けれどもその拍子に姿勢を崩してしまい、彼女の体は重力に従って落下を始めた。

「上手く体勢が維持できない。なんでこんな時に…!?」

負傷したせいでストライカーの姿勢制御が上手くいかず、動揺する。そしてその動揺がますますストライカーの制御を困難にさせる。
地面との距離が縮まりつつあったソフィー。
そんな彼女の腰に両手を回して上昇した者がいた。

「マリア!?いつの間に」

それはマリアだった。近くにいた彼女がソフィーの元に向かっていたことに気付かなかったシルヴィが驚きの声をあげた。

「マリアさん…?」

「マリアにだってこれくらいのことはできるのです」

顔を向けたソフィーに笑顔で返すマリア。
彼女の笑顔と危機から脱け出せたことでソフィーは安心した。
数秒後、その安心はすぐに消失した。突如として訪れた束縛感と共に。
ネウフェルの口から放出された光の中に二人は囚われてしまったからだ。

「体が重りを背負ってるみたいに重い…!」

「いけないのです。このままでは、二人とも!」

何とか脱出しようと、せめてソフィーだけでもとストライカーを吹かす。
しかし実戦向きではないマリアのストライカーの推力では大した抵抗はできない。
二人は着々とネウフェルの口に吸い寄せられていった。

「マリアー!!」

「マリアちゃん!」

「貴女たち…!」

見るに耐えかねてマナやジニーたちも助けようと二人の元に向かう。
グレイスは引き返すように呼び止めかけたが『戻れ』とは言えなかった。

餌にもう少しでありつける。そう確信したネウフェルが口を開いたまま笑い声をあげた。
その時上空から降り注いだ光線がネウフェルの頭部を直撃した。

『ギェアアアア!!』

仰け反って地面を揺らして倒れ込むネウフェル。
光が収まり自由になったマリアとソフィーは上空から高速で飛来した大きな影に拐われたかのように姿を消した。
大きな影はスピードに反して、地面に音もなく静かに降り立つと胸の前で握っていた両手をゆっくりと優しく開く。
開いた手の中からマリアとソフィーが顔を覗かせる。

「大きな巨人、あれがソフィーや村の人たちが言ってた!?」

「ってことはアイラ様!?」

銀色の巨人を目の当たりにしてエリーとミラーシャが言った。
そして同時に巨人に救われたソフィーとマリアも手の中から蝶が空に発つように浮き上がり、巨人を見つめる。

「あの時の巨人…」

「アイラ…?」

至近距離で目が合う巨人と二人。
彼女たちの姿に安堵した巨人は背後から聞こえる叫びに反応して振り返る。

攻撃を受けた箇所を再生しながらネウフェルが起き上がり、巨人に怒りと敵対心を向けていた。
巨人は腰を落として身構える。
大型ネウロイを一撃で屠った『クロスレイ・シュトローム』を受けても、倒れない程の強度と再生力を持つ強敵。
巨人は一層警戒心を強めた。相手の動きに注目しつつ、周囲の様子にも目を配る。
周りにはルミナスウィッチーズの仲間たちがいる。ソフィーはルミナスウィッチーズの誰かに村に戻るよう言われたのか、怪我した腕を抑えながら村に飛行していた。
村ではライブの準備をしていたようで会場の飾り付けや看板が離れた用意されているのが、離れた場所からでも確認できた。
彼女たちや村に被害を出すわけにはいかない。

「フッ」

周囲の状況を把握した巨人は曲げた左腕を胸の前に運ぶ。
左腕の一部分が青く光ると直後巨人の全身に波紋が広がり、姿が変化する。
両肩に鎧の肩当てのような物が備わり、奇妙な形をしている胸の結晶体の上には新たに青い雫の形状の結晶が加わり、体の色が銀色を主体にしていたものから紫(パープル)になった。

「アイラの色…」

アイラのパーソナルカラーでもある色に巨人の体の色が変わったことにエリーは驚くと同時に、先の行動と合わせて巨人がアイラその人であると確証を得た。
巨人はビームを撃とうとしていたネウフェルの動きに気付いて、それよりいち早く右手から矢の形をした銀色の光を発射する。
光には行動を鈍くする麻痺効果が付与していたようでネウフェルは思うように体が動かせず、せっかく撃とうとしていたビームの発射も中断された。

「シュアア…」

その間に巨人は次の動作を行う。
右の拳を拳を上に向けて立てている状態の左腕の側面に重ね合わせるように動かし、両腕で十字を作る。
すると右の拳に青い光が生まれる。巨人は上半身を右腕へと捻るのと同じ動作で右の拳を戻し、腰の辺りでピタリと止めた。

「ハアッ!」

巨人は自らの頭上に青い光を撃ち出した。
打ち上げられた青い光は空中で黄金の光となって拡散。上空から地上へドームの屋根を作るかのように降り注ぐ。
そして地上からも巨人の足元を中心に黄金の光の泡が浮き上がり、光が辺りを侵食する範囲が大きくなっていく。

「綺麗な光…」

「で、でもこれ、私たちこの中にいて大丈夫なのかな?」

幻想的な美しい光にジニーは素直な感想を呟く。いのりも彼女と同じ感想を持っていたのだが、光の範囲内にはネウフェルもいて、その中に自分たちもいたままで大丈夫なのかと不安に思う気持ちの方が強かった。
そんな彼女の不安に構わず黄金の光は巨人とネウフェル、そしてルミナスウィッチーズの八人を包み込むと今度は収束。
中心部で一度星を思わせる輝きが生まれると、黄金の光は完全に消失。
そこには巨人もネウフェルもルミナスウィッチーズも、誰一人として存在していなかった。

「消えた…?ソフィー、貴女は見える?」

「見えません。私にも…」

自然以外何も見えていないグレイスは怪我をして地上に降りたソフィーに寄り添いながら、彼女に質問をした。
ウィッチでない自分では見えなくても、ウィッチである彼女ならば使い魔と同様にルミナスウィッチーズたちや巨人たちの姿が見えているのではないかと。
しかし返ってきた答えはグレイスと同じ。ウィッチであるないに関わらず、姿が見えていないようだ。

「皆、アイラ…無事でいて」

どこに消えてしまったのか皆目検討もつかない。
ただせめて何事もなくまた自分の目の前に戻って来てくれることを願うしかなかった。




「ウッ、アアッ……」

警告音のような音が空間内に響き渡り、巨人が背中からゆったりと大きな音を立てて暗赤色の地面に倒れる。
警告音の間隔が短くなり、巨人の胸にある雫の結晶が赤く何度も点滅を繰り返していた。
巨人は左腕を上げて起き上がろうとするが、それができず左腕はまた地面に落ちる。
両目からは光が消え、顔も地面に触れたまま動かなくなった。
そして胸の雫の結晶の輝きと音も失われた。

空間内に唯一残された音。それは勝ち誇るようなネウフェルの高笑いと

「アイラ様…アイラ様ー!!!!」

巨人を慕う少女の喉が張り裂けそうな程大きな叫びだった。

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