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#8 こんなことがあった(空き巣)

弟は就職してからも自宅から通勤していたが、当時はバブル経済が崩壊したとはいえまだワークライフバランスが唱えられる前なので帰宅は21時過ぎ、場合によっては接待や飲み会で終電で帰ってくる有様だった。

そして、私が大学生の頃に買い替えた家は駅から距離がある高台にあって、駅から歩けなくはないけれども、まあ車で駅まで送迎する人が多い場所だった。送迎は基本的に母、時に私が代打として駆り出される感じだった。

その前に住んでいた家も父たちを駅まで母が車で送迎していたので、それ自体は問題はなかったのだが、父と異なり弟は帰宅予定時間を連絡しないと送迎や食事の支度に支障が生じることが何度いっても理解しない人だったので、体が強くないらしい母から「しんどい」という愚痴をよく聞かされていた。だったらそのしんどいということを直接弟に伝えて妥協点を検討すればいいと思ったのだが、戦後生まれとはいえ男尊女卑の家に育ったから仕方がない(母談)らしく、また、家計を支えることはしていなかったとはいえ稼いでいる人にはそのぐらい尽くして当然と思っていたみたいで、弟が家を出るまでそのあたりが改善することはなかった。私の方は大学院生ということで「(稼ぎが無い)穀潰し」と度々皮肉を言われていた時期ということもあって、また、そのあたりの母と息子の共犯関係みたいなものにはもう手遅れだなという感じだったので、私が特に強く言うことはなかった。

事態が急転したのは、父が定年退職で赴任先から引き揚げてきて家で長時間過ごすようになったことで、父の弟に対する視線が厳しくなった頃、ようやく弟は家よりは職場に近い場所にワンルームの部屋を借りて出て行った。その手伝いや、その後の掃除みたいなものには何度も駆り出されたものだった。弟とはいえ社会人の部屋を何で私が掃除しているのかなと思ったものだった。ここまでが前置き。

ある日、珍しく弟から連絡があった。
曰く、弟の部屋を含む複数の部屋のドアスコープが壊される(スコープの部品が抜かれる)という事件が発生し、大家さんからその旨連絡があったとのこと。大家さんが至急工事を手配してくれることになったが、隣に住んでいた女性は退去を決めたとのこと。

それは不気味なことがあったね。でも、大家さんがすぐに動いてくれて良かったね。などと母か私が返事をした記憶がある。

それから1週間が過ぎたか過ぎなかったぐらいの頃、弟の部屋を含む数部屋が一斉に空き巣の被害にあったという連絡が来た。帰宅したら部屋が荒らされていて、さすがに気味が悪いので今日はそちらに帰りたいということだった。

ドアスコープを攻撃することが犯行の様子見みたいな感じで、その後の対応をどこかで見ていたのだろうか。そして、ワンルームの居住者は学生でも社会人でも昼間は部屋にいないことが多いので、隙をみて一斉に犯行に及んだようだった。ドアスコープへの被害の段階でそのあたりの危険を察知して退去した隣の女性の判断は素晴らしかったわけだ。

翌日会社を休んで空き巣の被害に関して警察とやりとりした弟によれば、空き巣対応はメンドクサイらしくて応対してくれた警察官の雰囲気がとても不愉快だったとか、別のところに住んでいる大家さんが大変気の毒がってくれたらしい。前者については、もともと掃除や整理整頓が得意な方ではなかったので、何が盗られたか正確には思い出せないところはあったけれど、部屋の中で高そうなもの(多分、腕時計やゲーム機器類)はごっそり盗られていたらしい。

大家さんはいい人だったけれど、さすがに空き巣に入られた部屋に住み続けることは不安だったので、それからほどなくして弟はより駅に近く、新築だった1DKの部屋に引っ越したのだった。

なお、当時、弟の契約していた保険などの書類の整理は私がしていたので、職場にきた営業さんに乗せられてよく検討せずに入っていた保険の内、損保が盗難に対応していたので、しかるべく手続きを行い、多少は保険がおりたと聞いたような気がする。

空き巣ってビジネスのようにターゲットを分析し、違法行為ではあるけれども最小限で最大限の利益を得ることを考えているんだな、賢いなと思ったり、何かおかしいと思った段階で引っ越しを決める判断力が大事なのだなと、そんなことを思った話。