220425

◆しれつきょうせい

去年から歯の治療をはじめた。
開咬という困った噛み合わせを直すためだ。
この上の歯が下の歯をしっかり覆えていない噛み合わせでは、
歯が左右に動きすぎるのだそう。
左右に動きすぎると横の運動に弱い奥の臼歯が壊れてしまうらしい。

そこで勧められたのが、
前歯6本を厚いセラミッククラウンで覆って理想的な歯列になおす治療だった。

治した方が良いのは理解したが、
歯をいっぱい削らなければならないなら、それはこまる。
そう歯医者さんに言ったら、
「大丈夫ほとんど削らないよ。
 貼るだけ。うすいジルコニアを貼るだけ。」
「ほかの患者さんはみんな治してよかったって言ってるよ。」
と教えてくださった。

ならばやってみようかとおもった。
非課税もののわたしには、父の生きている間でなければ、
高額治療なんてできないものな。
いまのうちだ、と。

◆めそめそ

しかし、この治療が不安で不快でずっと凹んでいた。

不安ポイントそのいちは、
「ほとんど削らない」と言われた前歯を思ったよりたくさん削られたことだ。
実際には見せてもらえていないからわからぬが、
舌で触ったかんじ、以前と形状が変わっていることがわかる。
セラミックさんを装着しなくては過ごせなくなってしまった。
先生を疑いたくはないけれど、話が違うと思ってしまった。

そして、セラミッククラウンを仮で装着した状態は
歯にものが挟まっているみたいな感覚が不快だった。
前より厚くなった前歯は唇の裏側で異様な存在感を放つのも不快だし、
舌で触るセラミックの感触も不快だし、
厚くなった前歯では歯茎音の調音もままならなくて、お話もしづらい。
かなしい。

本付けすれば、慣れてしまえば、不快感はなくなるというけれど、
一生このままだったらどうしよう、と考えてしまう。

不安を拭い去るために、
同じ症状のひとはこの不快感をどうやって乗り越えるのかしら、と
インターネッツの海を泳いで同志を探してみれば、
その先には「セラミック矯正の闇」とか、
「歯医者自身は絶対にやらない」とか、「後悔」とか、
こわいことばがたくさん浮かんでいた。
おそろしくて溺れ死ぬばかりだった。

ああ、わたしはなんて愚かなのだろう。
もっと考えてから治療すればよかった。

この不快感が一生続いたらどうしよう。

そんな考えがぐるぐるとめぐり、
考えれば考えるほどもやもやして、
半年近く、毎日を半泣きで過ごしていた。

かかりつけの先生や技工士さんは
やさしく丁寧に根気強く接してくださっているのに、
疑って不安になる自分がほんとうに嫌だった。

◆ぱっちり

先週、はたと気づいた。

どれだけひとりで落ち込んでも、
愚弟どんに愚痴をぶつけても、
おうちにこもってモヤモヤしているだけでは、
わたしのお悩みは解決のしようがないのだ。
インターネッツに漂う言葉は
100%わたしにフィットするわけでもない。

ならば、専門家に相談すれば良いではないか。
調べたら、30分5,000円くらいでお話はきいてもらえるらしい。

思いきって、別の歯医者さんに予約のお電話を入れてみた。
セカンドオピニオンをください、と。

もっとはやくこうすればよかったのだ。
セカンドオピニオンという言葉はずっと脳裏にあったのに、
なんかこわくて採用できなかった。
コミュ障なおのれが呪わしい。

◆ふっかつ

いただいてきた。
セカンドなオピニオンを。

オピニオンさまは、とてもいい先生だった。
わたしの歯を診て、不安を聞くと、
いちばんほしいことばを下さった。

「大丈夫ですよ」
「とてもいい状態で、やってよかった治療です」
「セラミック矯正には心配な類のものもありますが、
 これは良い方の治療です」
「慣れるまで半年はかかるかもしれないけど、
 一生そのままってこともないです」
「もうすこしがんばってみましょう」

とっても丁寧にわかりやすく説明してくださって、
とってもとっても安心した。
不快感は変わらぬが、不安は完全に消え去った。

・「何しに来たんですか?」
・「手の施しようがありません」
・「そんなこと聞かれても知りませんよ」
・「一生そのまま生きていくしかありませんね」
みたいな、言われたら傷つくであろう最悪な言葉を想定して、
心の準備も整えていたけれど、
そんなことばは、ひとっつも発せられることはなかった。

ちょういいひとだった。
すばらしきお言葉をいっぱいいただいた。
お足が想定の4分の1以下だったというのも、とてもありがたい。
お会計を終えて、歯医者さんの扉を開けると、目の前がキラキラした。

よーかったー。
よーかったよー。
生きられる。わたし、まだ生きられる。

めそめそで、しばらくなにもやる気になれなかったけど、
元気になった記念におひさしぶりのニッキも残す気になれた。
めでたしめでたしだ。

新しい歯に対する不快感が、はやくなくなりますように。。