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昔の運送屋で出会った破天荒な人たち①

僕はとにかく酒が好きです。
 なんでも飲みます。
 本音は毎日自分の限界まで飲みたいタイプです。
 15年ぐらい前、精神病院でアル中(アルコール依存症)の診断を受けたこともあります。

 そんなこともありましたねぇ
 貞山放送 鉄生です。
 日曜日の昼下がりみなさんいかがお過ごしでしょうか?
 僕は朝の仕事が終わり、家で酒を飲んでおります。
 とにかく時間が空けば酒を飲みます。
 酒こそ人生です。
 運転手には向きませんね。

 今日は何のテーマもない適当な話をします。
 なぜか?
 それは酒を飲んでいるからです。
 テーマに沿った理論だった話は出来ません。

 最近の運送屋はアルコールチェックが義務付けられていますが、昔は結構ざるでした。
 なので悲惨な事故がたくさん起こってしまったんです。
 これはひとえに運転手の意識の低さによるものです。
 今は大分改善されてトラック運転手の飲酒運転は少なくなりました。
 少なくなりましたが、根絶までには至ってないのが現状です。
 僕は酒を愛してますが、飲酒運転はしません。
 なので逆に飲めるときはとことん飲みます。

 
 大分昔になりますが、ある豆腐の工場で配送の仕事をしていたことがあります。
 横浜の田舎のほうにありました。
 その会社はおかしな奴の宝庫で、一日中酒を飲んでいる和田さん・・・
 いや、仮にWさんと呼びましょう。
 Wさんは朝から酒を飲んでいました。
 長い髪を後ろで結んでお洒落な上着を着ている爺さんでした。

 僕は密かにWさんを『田舎のマイク真木』と呼んでいました。
 本人も絶対意識していたと思います。
 彼は酒を欠かしません。
 必ず水筒を二つ持って出社します。
 中身は焼酎のお茶割りでした。
 それを朝からぐいぐい飲みます。
 仕事は豆腐の配送です。
 つまり車の運転の仕事です。
 荷物の積み込み前後も運転中もぐいぐい飲みます。
 砂漠で遭難した旅人がオアシスを見つけたみたいにぐいぐい飲みます。
 豆腐の配送は朝が早く4時頃から始まりますが、ずっと酒をぐいぐい飲んでいました。

 僕は新人の頃、そのWさんに仕事を教わりましたが、
 最初は水筒の中身がまさか酒とは知りませんでしたので、
 よくお茶を飲む人だなぁ くらいに思ってました。

 配送も午後くらいになるとWさんの挙動が怪しくなります。
 居眠りしたり、フラフラしたりと安定感を欠き始めます。
 あまりおしゃべりな人ではなかったので呂律は分かりません。
 ただ、運転を代わってあげると喜んでくれました。
 何もしゃべらず、ただニコニコしながら水筒の酒をぐいぐい飲むだけです。

 仕事が終わり事務所に戻るころには、2本もあった水筒の酒も尽きています。
 だけどWさん流石に年季が違います。
 事務所の茶箪笥の奥に焼酎のボトルを隠してありました。
 それを自分の水筒にどぼどぼ注ぎ入れ、急須の出涸らし茶で割っていきます。
 それをまた美味そうにぐいぐい飲みます。
 事務所のおばちゃん連中も分かっていますので、
 「Wさん、あまり飲みすぎると体壊すわよ」
 なんて言いますが、wさんの答えは
 「うるせぇ ババア!」でした。
 完全に自分より年下のおばちゃんでしたが、常にババア!と呼んでいました。

 僕はそんなWさんが好きでしたし、
 Wさんも何故か「てっちゃん」と僕を呼び可愛がってくれました。
 僕は意外と几帳面な性格で、酒と車の運転は分けるタイプだったので、
 飲酒運転はしませんでしたが、Wさんを批判はしませんでした。
 Wさんはみんなから疎まれていたのは知ってましたが、
 僕には関係ないというスタンスだったのが彼にはうれしかったのかもしれません。

 夕方退社するころにはもうべろべろのWさん。
 「じゃあな!」
 そう言っていつものくたびれたカローラで家に帰っていきました。

 そんな日々を繰り返していると、これが永遠に続くかのような錯覚に陥ります。
 ですが、終りはきます。
 物事には必ず終りがあります。

 ある日、Wさんは会社に来ませんでした。
 次の日も、また次の日も。
 運転手仲間に聞いても誰も理由を知りません。
 そもそも、みんなから嫌われていたWさんが来ないことを喜んですらいました。
 
 一週間以上来ない日が続き、僕の不安は限界に達しました。
 もしかしたら病気になったとか、家で突然倒れたりしてないかとか。
 事故にあっている可能性もあります。
 あれだけ酒を飲んでいるのだから、
 飲酒運転で人をはねたりしたんじゃないか、とかもう色々考えました。

 僕は事務所のババアを問い詰めました。
 このババアは経理担当で社長の愛人です。
 会社の全社員公認の愛人でした。
 この北川のババア・・・
 いや、ここでは仮にKさんと呼びましょう。
 
 「わたし、知らないわ」
 問い詰める僕に、超知ってるオーラ全開でそうすっとぼけました。
 このババアはWさんとは違う意味で嫌われてます。
 完全に社長の遺産狙いで愛人になっているのが全員にばれてます。
 僕もこいつは大嫌いでした。
 普段は口を利くこともありませんが、この時ばかりは別です。
 そうとう激しく問い詰めました。

 当時の僕はまだ若く、ちょっと暴力的な人間でした。
 スチール製の机を思いっきり蹴っ飛ばして怒鳴る僕に、ババアはちょっと怯んであっさり喋りました。
 Wさんが来なくなった理由。
 それは病気でも酒でも事故でもなく、
 社長の気まぐれでWさんに長い髪の毛を切れ、と言ったことでした。
 「髪を切らなきゃクビだ」
 そういった社長に、腹を立てて帰ったそうです。
 それ以来、来なくなりました。
 ただ、それだけです。

 僕は気が抜けてしまいました。
 なんだか全部どうでもいい気分です。
 
 はい、それ以来Wさんには会ってません。
 
 昔の運送屋にはこんなおかしな連中がたくさんいました。
 他にも奇妙な人がたくさんいましたし、必然トラブルや喧嘩もありました。
 でも、面白かった。
 昔の運送屋は本当に毎日変な事件があって面白かったです。

 今は規則にがんじがらめで、したいこともできない、言いたいことも言えない。
 みんな黙って仕事をするだけ。
 もちろん酒を飲みながら仕事をするWさんを肯定はしません。
 でも・・・

 あの頃の破天荒な連中は今どうしているか、たまに気になります。

 Wさん、僕はいまでも運送屋にいます。
 元気に酒を飲んでます。
 いつかもし、奇跡的に会うことができたなら一杯奢らせてください。

 

 貞山放送 鉄生でした
 ごきげんよう。

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