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昔の運送屋で出会った破天荒な人たち②

 YouTubeで猫や犬の動画をよく観ます。
 昔から動物が好きで、いつかは自宅で飼いたいと思ってますが、
 うちのマンションはペット禁止です。
 いつまで動画で我慢できるか不安です。

 最近は鳴かない蛇を飼おうか真剣に悩んでます。
 どうも、みなさんお疲れ様です。
 貞山放送 鉄生です。
 今日も酒を飲みながら書いています。

 今回の話題は旧友との再会です。
 つい先日の話になります。

 朝のトラックの仕事が終わり、コンビニでおにぎりとカップラーメンを買いました。
 大好きな日清のチリトマトです。
 すぐに車の中で食べるので、その場でお湯を入れていました。
 「おい、鉄っちゃんじゃねぇの?」
 横からそんな声が聞こえました。
 確かに僕は鉄っちゃんと呼ばれることが多々ありますし、
 場所は川崎でしたので、そこら中に知り合いがいます。
 はっきり言って声をかけられることは珍しくありません。

 見ると同年代くらいで、細身の洒落たスーツを着た男でした。
 ??
 知らないぞ・・・
 と一瞬怪訝な表情をした僕に、そいつはちょっと傷ついたようでした。
 「俺だよ、昔YS運輸で一緒だった・・・」
 そこで頭の中に稲光のように閃きました。
 「もしかして、若月か?」
 「そうだよ。久しぶりだなぁ」
 そう言って若月、いや、ここからの話は色々と差しさわりがあるので、
 あえてW君と仮称することにします。
 W君は昔と変わらない屈託のない笑顔を見せました。
 『そうだ、この笑顔にみんなやられるんだよなぁ』
 昔を思い出して、僕も笑いました。

 20代の半ば頃、僕は川崎にあるYS運輸(仮)で働いていました。
 そこはメインの鋼材輸送の他にも、
 機械ものやアルミ、インゴット、果ては産廃まで何でも運ぶルール無用の会社でした。
 その会社はなぜかアウトロー気質な人間が多くて、
 元やくざ者、現やくざ者、近未来のやくざ者などロクデナシがたくさんいました。
 『各種ロクデナシを取り揃えております』
 みたいなロクデナシのデパートです。
 そこで僕とW君は出会いました。
 
 ほぼ同期入社で同学年だったこともあり、すぐに仲良くなりました。
 当時流行していたビッグスクーターも、
 僕とW君は主流のマジェスティではなく通好みのフュージョンだったんです。
 基本、会社の人間とは付き合わない僕もW君とは打ち解けました。

 「俺は、BIGになる」
 それがW君の口癖です。
 彼は坊主頭を金髪に染めていました。
 まくった作業着の腕には龍の入れ墨が見えます。
 歩くときは肩で風を切って歩きます。
 彼の特徴を上げるとするなら大きく二つです。
 ①喧嘩っ早い
 ②女にもてる
 とにかく気の短い男でした。
 その割に女には優しく、甘く、とにかくモテました。

 W君のエピソードはたくさんありますが、半分以上ここには書けません(笑)
 書ける範囲のエピソードを紹介します。

 僕たちは車庫が一緒で、同じ20t超の平トラックに乗っていました。
 新入りだったので二人とも古くてボロい車です。
 ちなみに僕はFUSOで、彼はISUZUでした。
 ある日の夕方車庫にいると、仕事を終えたW君が帰ってきました。
 「よう、おつかれ」
 「ういっす」
 なんて会話を交わしながら彼の車を見ると、なんとなく違和感がありました。
 なんか、トラックの左側が『素っ気ない』感じです。
 しばらく悩みました。
 何とも言えない気持ち悪さを感じながら見ていました。
 「何? 気づいた?」
 トラックから降りてきたW君が僕に言いました。
 「なんかおかしくねぇ?」
 「やっぱ、分かるかなぁ」
 「なんだよ?」
 「バンパー落としてきた。千葉の16号で」
 はぁ?
 そうなんです。違和感の正体はそれでした。
 左側のサイドバンパーがないんです。燃料タンクがむき出しでした。

 「お前、マジかよ。それでどうしたの?」
 「どうしたって、なにが?」
 「なにがってバンパーだよ」
 「あぁ 知らねぇよ」
 W君は面倒くさそうに言います。
 セブンスターに火をつけて、とてもリラックスしているように見えました。

 確かに古くてボロいトラックだったので、
 腐っていたのか、ネジが緩んでいたのか、バンパーはいつもガタガタ揺れていました。
 W君曰く、千葉の16号で思いっきり右折したら外れて落っことしたらしいです。
 彼はすぐに気づき、ミラーで落ちたバンパーの存在を確認していました。
 確認して、そのまま帰ってきたそうです。
 
 「なんで拾ってこねぇんだよ?」
 「はぁ? だって面倒じゃん」
 こんな感じです。そのうち「鉄っちゃんは神経質すぎるよ」と窘められてしまいました。

 もう一つ彼のエピソードを紹介します。
 YS運輸はメインが鋼材輸送のためシート掛けが必須でした。
 大型トラックのシートは大きく重いものです。
 そこでW君は考えました。
 要は、掛けてあればあればいいんだろ?
 何も前から後ろまで余るぐらいの長さはいらねぇ。 余分な分は切っちまえばいい。
 そう考えたW君、貰ったばかりの新品のシートを三分の二ほどハサミで切ってしまいました。
 切り取っていらなくなった短いシートは、車庫にある倉庫の裏にぶん投げるという雑な仕事です。

 「軽くて楽だよ、鉄っちゃんもやったら?」
 W君ごきげんです。
 おススメしてくれましたが、僕はもとからある短いシートと軽いブルーシートの二枚掛けなのでやりませんでした。
 トラックのシートは何気に高価なものです。
 数日後、社長にばれました。
 誰かがチクったのかもしれませんが、分かりません。
 とにかくW君は本社に呼び出されました。
 
 YS運輸の社長は叩き上げの人で、地方から出てきてYS運輸を一人で立ち上げた男でした。
 典型的な昔の運送屋のオヤジです。

 呼び出されたW君は社長と向かい合いました。
 場所は本社前の駐車場です。
 僕もついていきました。
 そこにたまたま本社に来ていた元やくざ者のNさんもいました。
 Nさんは優しい人で、おかしな雰囲気を察して来てくれました。
 ちなみに彼の小指は先がありません。

 「お前、新品のシート切っただろ?」
 社長は声の大きな人でしたが、その時の恫喝を含んだ声は普段より2割増しで大声でした。
 ですが大声ごときで怯むW君ではありません。
 「知らねぇっす」
 彼は涼しい顔ですっとぼけに出ました。
 「知らねぇって事ねぇだろ!」
 「何の話ですか?」
 「だからシートだよ!」
 「だから知らねぇっすよ」
 「余ったシート、倉庫の裏に捨ててあったぞ。あれお前のだろ」
 どうやら社長は捨ててあるシートの切れ端を確認していたようです。
 シートは普通に車庫で切っていたので何人か目撃者もいます。
 とにかくW君、仕事が雑な男でした。
 『細かい事は気にしねぇ』が信条でもあります。

 「見ていた奴もいるんだぞ!」
 社長の言葉に僕はちょっと舌打ちしました。やっぱりチクりか。
 でも、W君動じません。
 「見間違いじゃないっすか?」
 さらりと言ってのけます。
 「とにかく俺じゃないっすよ」
 こいつ凄いな・・・
 僕と隣のNさんは呆れてしまいました。

 「こ、この野郎!」
 社長が切れました。
 そもそも口下手なオヤジです。
 「てめぇ ふざけんなよ。こら!」
 W君の胸倉をつかんで更に大声で怒鳴りました。
 ですがW君全く怯みません。
 逆に社長の胸倉をつかみ返して、怒鳴ります。
 「やんのか、この野郎!」
 君たち中学生かい?
 僕はなんだかおかしくなって笑ってしまいました。

 そこで、すかさずNさんが割って入ります。
 元やくざ者のNさん、こんな時は頼りになります。
 「二人ともやめねぇか! ガキじゃねぇんだからよ!」
 Nさんが社長を引きはがし、僕はW君を抑えました。
 二人はにらみ合ってます。
 「このガキ、ふざけやがって!」
 社長の怒りは収まりません。
 「社長、Wはやってないって言ってるじゃないですか。なんか証拠はあるんですか?」
 Nさんは冷静です。
 ちなみにW君がシートを切っているところをNさんも見ています。
 「そんなことするの、こいつしかいねぇだろ!」
 社長は口下手です。前回のバンパーの件もうやむやにされています。
 多分今回こそはと意気込んできているのでしょう。
 
 ところが、ここからおかしな展開になります。
 大声で怒鳴りあっていたので、何事かと社長の奥さんが事務所から出てきました。
 「さっきから大声で、なにやってんの!」
 ドスが効いてます。
 明らかに社長の表情が曇りました。
 「こいつが、新品のシート切りやがったんだよ」
 「だからやってねぇって言ってんだろ」!
 間髪入れずにW君が切り返します。
 すると社長の奥さん、
 「Wちゃんはそんなことしないよ」
 はぁ?

 もう一度言います。
 彼は女にモテる男です。 
 老若男女問わず女にモテます。
 社長の奥さんはすでにW君の味方でした。

 社長はしぶしぶ引き上げていきました。
 いたずらをした猫が飼い主に首根っこを摑まれるような感じで。

 残された僕とW君とNさんは力なく、なんとなく笑いました。
 この件はそれで終わりました。

 数か月後、僕はYS運輸を辞め、しばらくは関係が続いていたW君とも疎遠になりました。
 


 あれから約15年。
 当時と同じ笑顔でW君が目の前にいます。
 「鉄っちゃん、今何やってんの?」
 「運送屋にいるよ。午後は軽バンで仕事受けてるけど」
 「マジで? 独立したの?」
 「まぁ 半分ね。それよりお前は?」
 「俺? 今、先輩と運送屋立ち上げてさ。専務だよ。鉄っちゃんウチ来る?」

 いつも「俺は、BIGになる」と言っていたW君は起業していました。
 聞けばそれなりに儲かっているようです。
 結婚して子供も二人いるとか・・・
 もう、坊主頭を金髪に染めたW君ではありません。
 黒髪をサラッとさせた好青年に見えます。
 
 お湯を入れたチリトマトが気になったので、そこで別れました。
 W君の笑顔はあの頃のままでしたが、中身は別人でした。
 僕は・・・
 あの頃からちょっとは成長したんでしょうか?
 今度W君と飲みに行ったら聞いてみたいと思います。

 はい、今回は以上になります
 貞山放送 鉄生でした
 みなさん、ごきげんよう。

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