【掌編400文字の宇宙】森は木に宿り、森が宿った木は森に隠す
暗証番号は12桁あり、機械でこれを計算するとそれほど時間はかからない。ただし半角の英数字の場合。大文字でも小文字でも。あるいは記号が入っていても。
しかし、ここは亜細亜で、さらに日本なので平仮名片仮名、また漢字も、羅馬字もある。半角も全角もある。漢字は十万字以上あると云われているので、さすがの機械もお手上げのようであった。
「で、その暗号は覚えているんだろうな?」
「えっと、忘れた」
「馬鹿な。たかが12文字だろう」
「えっと、魔訶般若……それから498…。えっと」
「あと5文字だろう。思い出せ」
「いやちがうんだよ。組み合わせもそれじゃないかもしれない。それに、梵字も入ってるんだ」
「ぼんじ? なんだよぼんじて」
「和姦内(わかんない)よ」
メモはないのかと訊くと、木の根っこに埋めたという。
「どの木だよ」
「弁ヶ嶽の木だよ。でもその日は大雨で、夜だったし」
車で、弁ヶ嶽に行った。
「思い出せよ。頼むから」
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