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【SF短篇】青姦於首里半男半女(後半)

 というか、何かが変だ。何だか常識では割り切れないことが、ここでは起きているということが何となくだが、はっきりと分かっていた。


 もういいの。何があっても、もういいの。

 誰かに盗られるぐらいなら、今ここで、痴漢に遭ったと通報しても、いいですか。

 女というか男の身体の反応は真剣だった。居酒屋のカウンター越しに、男?女の肩の向こう、焼き場には獣肉の脂の落ちた火柱が立っていた。

 佐司笠樋川(サシカサフィージャー)に、行こう。

 と、女は言った。

 神妙な、大きな声であったので、店に居る人の全員が、え、となってこちらを見た。私は慌てて女の股から手を離し、おしぼりで貝汁を拭った。

 私たちは席を立ち、会計を済ませて店を出た。日もすっかり、暮れて県道28号線の歩道に中年男性の影がふたつ、からみあうようにして、あった。

 私たちは夜道を歩き、たがいの舌を貪るようにして舐め、時々躓きながら歩いた。歩いて、歩いて道を渡り、坂道をのぼり、まっくらな、佐司笠樋川の前に居た。

 男の息は、煙草臭かった。男は私よりも三十センチほど小さく、私よりも筋肉に包まれていた。

 月光があたりの影を全て降ろすようにして、水場のまえの、石造りの広場に落ちていた。

 脱がせて、と男は言った。

 まず上着を落とすと、肌着が白い。両腕を上げさせ、これを取り払うと、逞しい中年の胸があらわれた。毛に覆われ、乳首の色素が闇に濃くのこっている。

 私はその乳首をすこし、やさしく摘まんだ。

 あ、と男が洩らした。

 舌が伸び、また舌が伸びて、べろべろと互いに舐め回した。

 ちゃり、ちゃりと音をさせながらベルトを抜いて、男の作業ズボンを下にした。女物の下穿きが月光に浮かんだ。下穿きのなかに手を入れると、蕩けた粘液が充満している。

 女の下半身は、よく脂が漲って、形のよい尻肉から太ももに向かって独特な曲線を描いている。手術は丁度、半分なのだろう。いかにも男くさい上半身と、半月のような中年女の下半身。

 女は自分が宇宙人だと言っていた。たしかにそうだ、と私は思った。べろべろと顔を舐められながら。

 男の作業着を地面に敷いて、男の半身と女の半身を仰向けに寝かせた。

 舐めて、と女の声が言う。

 私は茂みの中に鼻を埋めて、強くならないように、舌の力をゆるめるように意識しながら、ふたつに分かれる女貝のあいだに舌の真ん中あたりを這わせた。

 ああ、あっ、あっ。

 私が下になり、二人の男の影は69となった。

 男の上半身が、男の顔が夢中で私の股間を晒し、武者振るのが分かった。ああ、うまい。渦巻いている。バキューム。と私は感じた。

 一方女の下半身は、私の鼻の上で第四コーナーを廻り、さいごの直線をひた走っていた。ゆるい坂道がつづく。

 ぁああ、もっと、もっと。

 鞭打たれるようにして、白い尻肉が震える。バキュームが滅茶苦茶に吸引の、出力を上げていく。

 あんっ、あんっ……これ、きもちいい……ああ、いいところに当たっている。

 女の身体が浮く。比喩ではなく、本当に浮いているのだ。地面から二十センチぐらい。ふわふわと。私は慌てて、これ以上浮かせまいと女の腰を抱き締めて女貝に武者振りつく。

 信じないかもしれないけど……わたしね、宇宙人なの

 あんっ、あんっ……気持ちいい。おかしくなる。わたし、へんになる……。

 女はブリッジしながら、両手で私の腿つかみ、男の上半身を月夜にのけぞらせた。

 ねえ、イキそう。わたし、イク……イッてもですか?

 いいですよ。イッて。

 イクっ

 女の尻が痙攣し、男の上半身がのけぞりながら、がくん、がくん、撥ねた。

 女の尻が天高く浮遊し、百八十度回転し、男の顔と、体毛の濃い上半身が頭上にこちらを向いた。

 いれて

 と男が言う。目が潤んでいる。

 私は急に我にかえったみたいになる。下を見ると、私の一部はすでに、元に戻っている。ふにゃふにゃ。私は半身を起こし、荒れている下半身の服を整えようとする。

 と、上空から男の頭が襲い掛かり、また、私の下半身を吸おうとしてくる。ゾッとした。右手が暗い地面をまさぐり、こぶし大の石をつかんだ。

 やめろ

 私は石で、男の横顔を思いっきり殴った。

 飛び散る液体。男の血。私のTシャツに、手に、頬に返り血。

 ぐ……んっ……んぐぐ……

 男は地面に落ち、顔を抑えて蹲る。

 私は立ち上がり、ふにゃふにゃ、小さくなった自身をしまい、チャックを上げる。そして一目散にその場を去った。

 県道28号線を走り、一気に走って自宅に帰った。

 玄関で、自分にかかった血を見ると、それは緑色だった。臭いはとくにない。が、ひどく化学的な独特なにおいがした。

 私はトイレに駆け込み、便器を前に吐いた。全部吐いた。吐き気がやんだと思ったら、また吐いた。吐いて、吐いて、胃の中が空っぽになってもまだ吐いた。

 便器を前に蹲り、しばらくそのままでいた。血の気がめぐって、人心地つくまで15分ぐらいかかった。


引用:『湯けむり若女将』霧原一輝(日刊ゲンダイ連載13回)

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