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カリグラフィーの醍醐味、アラベスク

文字につけるクルクルした曲線の唐草模様の装飾に憧れてカリグラフィーを習いに来られる生徒さんは多くいらっしゃいます。
この装飾をフランス語ではアラベスク、英語圏や日本ではフローリッシュと呼ばれています。
文字を装飾するアラベスク、作品の周りを華やかに囲むアラベスクがありますが、どちらもカリグラファーの技を魅せる大事な箇所、構成力やデザイン力も必要になります。

文字にアラベスクを付けることがはじまったのは16世紀ごろからです。
その時代に生まれた書体、オランダのフラマンド体(英語系や日本語ではフラミッシュと呼ばれています)には線を目で追うのも難しい複雑なアラベスクが沢山見られます。バロック時代ということもあって、彫刻、絵画、文学、建築、音楽などあらゆる芸術で凝った装飾が流行し、過剰な装飾はその影響もあるかと推測します。

フラマンド体と同時期のイタリック体でもアラベスクがありますし、その後に生まれたフランス書体には円形のアラベスクが多く付けられています。18世紀生まれのイギリスのアングレーズ体は楕円形のアラベスクを斜めに付けることが多く、19世紀に生まれたスパンサリアン体には大きめの楕円形のアラベスクが多く見られます。

当時オランダは海外との交易で急速に発展し、商業用に美しく書くことが重要とされていました。そのため子供の頃から学校のカリキュラムにカリグラフィー、ラテン語、数学が組み込まれていて、年に一度カリグラフィーのコンクールも行われていました。そのおかげで沢山のカリグラファーが育ち、17世紀のオランダには世界の80%のカリグラファーが存在していました。オランダでカリグラファーは、画家たちと同様にアーティストとして見なされていて、貴族や裕福な人々が作品をコレクションしていました。その他の国でカリグラファーは書くことを教える教師という捉え方でした。
オランダではカリグラフィーにまつわる本が多い時で15冊ほど出版され、カリグラフィーを学んでいる人や裕福な人々が買っていたといいます。

私が1番好きなカリグラファーは16世紀に活躍した、フラマンド地方出身のJan van de Veldeです。彼は作品を書く前に綿密な計算をしていたのでしょう、文字とアラベスクの配置がいつも完璧。そこに感動します。
彼はサインの代わりに完璧な円を書くこともありました。完璧な円はシンプルなだけにとても難しく、かなりの練習量が必要になります。
彼の作品の特徴でもある大胆な大きいアラベスクと米粒の様な小さい文字のと対比が素晴らしく、一文字一文字が美しく活かされています。

アラベスクをどう学ぶかということですが、お手本だけが載っている本は今まで存在しません。先生から生徒へ伝えられたり、先人が書いた古い資料から学びます。

カリグラフィー用のペン先は押すと広がるようになっており、上に上がる線は細い線ができ、下がる線はペン先を押すので自然な太い線ができます。
自然な細い線、自然な太い線、そして少し押して書く太い線と、アラベスクの線の太さには3つあります。
ルールはありませんが、太い線と太い線がクロスしたり、線と線がぴったりくっついているのは美しく見えないので避けたい注意点です。

一つの書体の小文字、大文字を習得したら、アラベスクだけの練習も必要です。ペン軸を横持ち、逆さ持ちにする書き方もあり、線のどの部分をどれだけ太くするかという強弱、円形や楕円形の連なりをイメージして書く練習をします。
文字の黒い部分よりも白いスペースの部分を見て、どうやって線を進めるか空間のバランスを考えます。
アラベスクのお手本だけが載っている本は今まで存在しません。先生から生徒へ伝えられたり、古い書類を見て学びます。

アラベスクの書き方ですが、ペン軸を軽く持って手を腕ごと回すようにすると大きいアラベスクが書けます。うまく書こうと緊張するとどうしても手に力が入ってしまいますが、そうすると線がブレてしまいがちです。また呼吸を止めながら書く方が多いですが、しっかり呼吸をして長いストロークは息を吐きながら書くと腕の筋肉が硬直せず線はブレにくくなるというのを私の体験からお伝えします。

毎回白い紙を前に、イマジネーションを働かせてアラベスクのデザインを考えるのは楽しい作業です。

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