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【エッセイ】2023年6月 初めてのドルフィンスイム本番

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前日は興奮のためか全然寝れなかった。私は竹下桟橋に到着してから船を待ってる間、ずっとベンチでうたた寝をしていた。その後インストラクターとツアー客と合流し、夜10時30分頃に私に乗り、船は竹下桟橋を出港した。


次の日の朝5時半に三宅島に到着した。私たちは寝ぼけ眼を擦りながらインストラクターの指示に従い船を降り、宿泊先の宿へ向かい、朝ごはんは程々に食べ、6時半には機材を持ち宿をから港へ向かっていた。これからドルフィンスイムの聖地、御蔵島へ向かう予定だった。

私たちは港でスーツに着替え、現地のガイドからのブリーフィング(ドルフィンスイムの説明)を行った。ドルフィンスイムはシュノーケリングで行うため、タンクを背負う必要がない。ゴーグル、シュノーケル、フィンさえあれば良いので準備してが楽だ。私たちはブリーフィング後にボートへ乗り込み、日差し避けのあるベンチに座った。

三宅島から御蔵島まで小型船で約1時間ほどかかる。この後さらにアクティブなことをすると考えると、例え船酔いに強くても酔い止めは飲んだ方が良い。私は他のツアー客と共に船の後部席に座り、ぼうっと海の景色を眺めていた。微かに霞んで見える島に向かってボートはモーター音を立て、右へ左へ揺られながら進んでいった。ボートに備え付けられたスピーカーからは最近流行りの「アイドル」が流れていた。

「誰もが 目を奪われてく 君は完璧で究極のアイドル♪」

軽快な音楽に合わせて、隣に座っていた同じツアー客である三人組のおばちゃんたちが曲を聴いてぶち上がっていた。

超絶暇だからかそれとも船酔いのためか、参加者の半数ほどは寝ていた。私は船で寝るのが苦手なので海を眺め続けた。カモメが気持ちよさそうに飛んでいた。

段々と、影しか見えなかった御蔵島がはっきり見えるようになってきた。もうすぐ野生のイルカに初めて会うことができる。私の気持ちがやっと昂りだした。

「イルカいないですね〜。」

船長とガイドは海を見ながらぼやいていた。

「もうちょっと島に近づきましょう!」 

まさか、ここまで来てイルカ見れませんでしたっていうこともあるのだろうか? 私は些末な不安を持った。ボートはさらに御蔵島へ近づいた。

「あっ、いた!」

船長が指差す方向を見ると、海面からぴょこっと背びれが飛び出していた。

「皆さーん、イルカに近づいたらすぐに降りれるように準備して下さーい!」

イルカの群れが確認でき次第、私たちはゴーグルを着けてフィンを履いてすぐにボートから海に落ちなくてはならない。イルカが船の下を通り過ぎるのは一瞬だ。

「ああ、ダメだ!離れちまった!」

どうやらイルカが離れていってしまったらしい。また、群れではなく一頭だけだったようだ。

「またイルカが来ると思うので、皆さん待機してて下さーい!」

私たちは「イルカの生息地」に侵入したという事実に興奮していた。すぐ近くに他のイルカがいるかもしれない。私たちはまたもや海を向いて首を伸ばしていた。

「あっ、いました!」

ガイドが指を刺した。船長はイルカの進行方向を予測しながら船を操縦した。

「すごい、いっぱいいる!」

今度は海面から複数の背びれが見えた。群れだ。

「潜る準備をして下さーい!」

私たちはボートが停止し、ガイドの合図が出た瞬間に海へ飛び込めるように舷を跨いで腰掛けた。私はゴーグルをかけ、頭を左手で押さえゴーグル本体を右手で押さえ、入水した時にゴーグル内部に水が入らないように構えた。船が停止した。

「それでは3、2、1で飛び込んで下さーい!行きますよー!3、2、1!」

私たちは一斉に海へ飛び込んだ。透視度は素晴らしく良く、底まで見えた。

「イルカがこっちから来てまーす!」

ガイドが指指す方を向くと、イルカが2列に隊列を組んでこちらへ向かって来ていた。イルカは海底ギリギリを這うように進んでくる。シュノーケルのみではとてもじゃないけどその深さまで潜ることはできない。私は息を整えてイルカをなるべく近くで見るべく海へ潜った。私は耳の鼓膜が弱く、一度素潜りで破けたことがあるので、2mほど潜ってから耳抜きをしてさらにもう2、3m潜っていった。

(イルカはクルクル回るモノに興味を持つよ。)

私は前回の練習でインストラクターに教わったことを思い出した。私はその場で輪を描くように旋回してみた。

イルカたちは私たちの存在など無いかのように海底を真っ直ぐ進み、私の下方を通過して行った。

私は息が苦しくなり、急いで海面へ戻った。20秒も潜っていられなかった。私は海面から顔を出すと、他のダイバー達も息を切らせながら顔を出していた。その間もイルカ達は列を成して私たちのいる場所の真下を通過していく。私は息を整えてもう一度潜った。

イルカは道路を走る車のように、まっすぐ私たちの真下を通過していく。底を這うように進むイルカ達に近づくことができず、私は3m程度潜ったところで様子を窺った。正直イルカを見るより息苦しさの方に集中力を持っていかれていた。イルカの列の最後尾が見え、あっという間に私の真下を通過していった。イルカの尾を見送りながら、私は急いで海面へ上昇した。

海面へ戻り、大きく深呼吸しながらイルカが向かった方を眺めた。透明度が非常に高いので30m程度先でもイルカの尾が確認できたが、それもすぐに見えなくなった。

「皆さーん、ボートへ戻ってください!」

声がする方を振り向くと、いつの間にか船が私たちがイルカを追って泳いだ場所まで近づいていたことに気づいた。

私たちはハシゴを登ってボートに戻り、すぐさま水分補給をした。シュノーケルを加えているので海水は口の中へ入ってきにくい。しかし息を一定時間止めながら泳いでいるためか、口の中は上顎と舌がひっつく程度に乾燥していた。

「いやあ、すごいですね!」

隣にいたダイバーが話しかけてきた。

私たちは自然の中で生きるイルカたちを初めて見て興奮していた。自律的に集団行動を取りながらこちらのを見向きもしない貫禄と迫力に圧倒されていた。もっとイルカを近くで見れないものだろうか。

「イルカ来ました!」

えっ、もう?私たちは先ほどと同じように舷に跨った。

「それでは3、2、1で飛び込んで下さーい!行きますよー!3、2、1!」

私たちは海へ飛び込んだ。ガイドの指示に従って、私たちはイルカの進行方向を確認した。イルカがまたも底を這うように、私たちがいる方向へ列を成して進んできた。私はもう一度呼吸を整えてから海へ潜り、輪を書くように旋回した。

またしてもイルカは無視して底を進んでいった。1回目に見たときと全く同じ光景だったのかというとそうではなく、一つだけ違いがあった。何頭かのイルカの腹には、さらに小さいイルカが懸命に泳いでいた。イルカの子供だった。

私たちはイルカの最後尾を見送って、私たちはボートへ戻った。私はボートへ戻るなり水分補給した。

「イルカの親子がいたね!」

みんな疲れているが、それ以上に普段の生活では見れない光景に興奮していた。ダイビングもそうだが、海の中で何らかの発見や変化を見つけられる事自体が楽しい。なぜ1回目のイルカの列には小イルカがおらず、2回目の列には親子イルカがいたのだろうか。海はわからないことだらけである。謎だらけだからこそ楽しいのかもしれない。

「イルカ来ましたー!準備してくださーい!」

3回目にもなると、結構ヘトヘトになる。でもイルカをもっと見たいという意欲に押されて私たちは舷に腰掛ける。そしてガイドの合図と共に海へ飛び込んだ。

飛び込んでから気づいたが、海底までの距離が1回目、2回目より近いことに気づいた。今まで潜った所より沖に近かった。私はイルカの群れを見つけた。イルカたちは今までよりも浅く泳いできた。この距離なら至近距離まで近づけるチャンスかもしれない。私は呼吸を整え、顔を海面につけた。上体は海面と平行になっている。この状態から頭を下げ、体が海面と垂直になるように気を配りながら足を真上へ高く上げた。私の体は頭から吸い込まれるように沈んでいった。2mほど潜ってから一旦耳抜きをし、さらにそこからバタ足しつつ、回転しながらイルカがいるところまで進んでいった。

とうとう私は至近距離でイルカを見ることができた。触ることはできないが、雄大に泳ぐイルカたちを間近に感じることができた。イルカは水中で頭のてっぺんに付いている鼻の穴から空気を出して泡になった。その後、小さな泡たちがくっつき合い、次第に輪っかになり水面へ向かっていった。イルカはゆっくり泳いでいた。私は置いてかれないように懸命に泳いだ。今までの感じとはまるで違っていた。まるでイルカが私たちのレベルに合わせて一緒に泳いでいるかのようだった。私たちは段々と疲労が蓄積し、ついていけなくなった。イルカ達は泳ぐ速度を上げ、列を成して大海原へ向かっていった。

その後もう2本ほどイルカを見つけては海へ潜った。口の中は乾燥して喉の奥までカラカラになり、疲労は限界を超えていた。海からボートへ上がるのに足が重く、ボートの上でヨチヨチ歩きをしながら水分補給へ向かった。何人かは隠れてボートから海に向かって吐いていた。

帰りは全員寝ていたと思う。疲労と船酔いのダブルパンチでとてもじゃ無いけど起きていられなかった。私たちは良い歳して、外で遊び疲れた子供のようだった。

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