続・彼女たちの夏
今年の俳句甲子園で大旋風を巻き起こして準優勝した
東京家政学院高校俳句同好会の部誌『Phenomenon』vol.3を読んだ。
彼女たちの準優勝の瞬間を配信で見届けた後に
去年書いた前号、vol.2の感想のnote
https://note.mu/tefcomatsumoto/n/n2360f92de988
のページをツイートしたところ、アクセス数が跳ね上がり
彼女たちがどこか遠いところに行ってしまったような、
好きなバンドが売れてしまうといつも感じていたあの感情を
久々に思い出していたが、
先日某所で会った彼女たちはやっぱり人なつこくて賑やかで、
でも時々卑屈になる、私が知っている彼女たちだった。
部誌を読むと、去年からいるメンバーは作品の強度を増し、
自分が詠みたいものを掘り下げているようだったし、
今年から入部したメンバーは今自分の中にあるものを
全力でぶつけているようだった。
春の日をわすれたひとと森で会ふ 大西菜生
すしと花並べて日本文化のおはり
藍浴衣ことばは人間を使ふ
↑思索的かつガーリーな感性と落ち着いた詠みぶりで
チームを引っ張ったキャプテン。
二句目のしとやかな諧謔ににやりとさせられた。
夏草よ身体に地平線なんてなく 神田くるみ
痣だらけの宇宙になりし夏野かな
俳句より好きだと言はれたかつた季語
↑ダイナミックな取り合わせと挑戦的な切り口が持ち味。
定型のはみ出し方に独自のいびつさがある。
二句目は、季語と自己との距離感を常に模索し続けた
御中虫の作風を思い起こさせた。
神童のつまらぬ顔や明易し 清水朱里
苺切るたびに手相を暗くせり
鳥渡る祖父のあるいは禁色か
↑俳句甲子園での敗者復活戦からの勝ち上がりの立役者が彼女だ。
作品のタイトルが「タイラントであるとまたよい」。かっこいい。
異国情緒と俳句形式とが妖しく絡まったような読後感が面白い。
藤原月彦に心酔していると聞いたが、なるほどと思った。
苺煮て男尊女卑の君が好き 古田聡子
炎天の処女膜縫ってもう一回
林檎齧るはじめなければよかったね
↑俳句甲子園史上に残るであろう怪作
〈利口な睾丸を揺さぶれど桜桃忌〉の作者。
相対的に見ればつまらないと切り捨ててもいいはずの
「君」という存在に固執してしまうがために
男女の恋愛のありがちな枠組みから抜け出せず、
自分を低い位置に置かざるを得ない自嘲の念を
愛らしさとグロさの間で軽やかに詠った一句目、
処女性崇拝を軽やかに笑い飛ばす二句目があったかと思えば、
批評性を抑え、感傷の念のみをぽつりと漏らした三句目のような句もある。
なきがらの青さを眠る子猫かな 八品舞子
胃袋の茶漬くづるる花菜風
↑定型を守りながら妙な発想をぽんと盛り込んでくる、要注意の作者。
一句目のようなリリカルな句もあるが、
二句目のようなまったりした世界観こそが彼女の真骨頂かな、と思う。
釘すこしあまりたるとや夜の秋 児島豊
降る雪にやさしき父の鼠講
↑引率の児島先生の、ほろ苦さと脱力感のある句は
部誌のかくれ名物である。
俳句甲子園で大暴れしたメンバーが軒並み卒業する来年は
どのようなチームがこの学校から飛び出すのであろうか。
今年のメンバーは今後、どのように俳句を続けてくれるのだろうか。
俳句甲子園を楽しむいち視聴者として、俳句読者として、
家政の俳句と今年のメンバーの今後を楽しみにしている。
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