前田攝子『雨奇』

前田攝子『雨奇』(角川書店)

最近せっせと句集を読んでは何かしら書いているのは、

とにかく積ん読を減らして、ハイペースでバンバン読んで

俳句の処理能力(というとなんかヤな感じですが)を高めていこう、

となんとなく思うようになったことも関係してるんですが、

この句集は結構読むのに時間がかかりました。

10日くらいかかってますね。

この試みを始めた時は2〜3日ですぱすぱ読了してたのに、

『雨奇』はなんだかすぱすぱ読み進めることを

暗に拒んでくるような作風と言いますか…

この書き手と私が出会ったのは、角川「俳句」の鼎談で

彼女の12句「山葡萄」を読んだ時(2017年10月号掲載)

だったかと思います。

『雨奇』にも12句中7句が掲載されています。

  ぼんやりと眺めてをれば風澄めり

  いつもの木仰ぎ白露と思ひけり

  慶事あり一抱へ挿す秋桜

白露の句は鼎談でも「季語がすごく効いてますね!!!」と

結構力を込めて語りました。

  相続に話飛びたる湯冷めかな

  太刀舞の巫女若からず春祭

  包帯に花粉の汚れ原爆忌

彼女は私の両親と同学年(1952年生まれ)、

子供もある程度自立した年齢になっているのでしょう、

夫の死や遍路などドラマチックな出来事は

句集の中でたくさん起こっているようなのですが、

彼女自身の心の動きは出来事に流されすぎず、

ゆっくりと悲しみを噛みしめ、

その中から前に進んでいこうとしていて、

なかなかこうは書けないですよね…えらい…と、

何様感がすごいですがそう思わざるを得ませんでした。  

  春宵の呼べばすぐ来る救急車

  唐突に来る晩年や小夜時雨

  春宵や朗らに笑ひみんな寡婦

  種採りて子の欲しがらぬ家に住む

自分を見切ってないとこうは詠めないな、と思う句がちらほらあり、

鼎談でこの作者を読めてよかったな、としみじみ思いました。

  極月の忘れ物めく日向かな

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