「庫内灯」を読む(散文編)

俳句について書いたから他のパートについても書かないと

平等でないなと思って他のパートのことも書こうと思ったのだが、

小説について何か文章を書くのは大学時代のレポート以来であった。

何年ぶりだ!数えたくない!ので本題に入る。


〈死んで俺が水の中にすんでる夢だつた 河本緑石〉の小説化

まったりした同居ものだな~、いいな~こういう距離感…

でも元ネタが超不穏だよね…なんてのんきに読んでいたら

最後にずどーんときた。


〈また嘘を君が笑って蛾が傷む 佐藤文香〉の小説化

同じ作者の俳句同様、初々しい自虐の香りが漂う短編である。

元ネタの俳句の、マンガのモノローグめいたリズム感が

踏み出せない登場人物の心情に寄り添うようで、せつない。


〈きぬぎぬの金魚が死んで浮いてゐる 種田山頭火〉の小説化

不穏な元ネタには気を付けろ、と思って読みはじめた。

山頭火元ネタだったらやぶれかぶれエンドになるかなーなんて思ってた。が。

若々しさと図太さがまぶしい。


〈九月の少年の一途に話しかけてくる 堀保子〉の小説化

俳句も一途、お話も一途。出てくる二人がどっちも一途。

か!わ!い!い!


〈深く深く湖底に沈め夏休み 実駒〉の小説化

この小説の作者の作風として、叶わない気持ちを抱えながら

愛する他者に優しく接する人物をこだわりをもって書いている、

ということがあげられるように思う。

諦念とほんの少しの諧謔で自分を守りながら

他者への優しさを忘れない登場人物が美しい。


〈墓のうらに廻る 尾崎放哉〉の小説化

逢うとほっとするんだけど、さみしさから逃れられない関係性。

切り口はシンプルかつストレートだが、

最終的には作者の世界にぐいっと引っ張り込まれた気分。

童話のもつ官能性を思わずにいられない掌編。


〈筍哉虞美人草の蕾哉 正岡子規〉の小説化

ヒロインの生命力というか、

死から圧倒的に守られている神々しさがぐいぐい迫ってきて、

これは抗えないなーと思いながら読んでいた。

物語の真の主役たちを見守りながら、

小説の中にひとりだけ真っ赤な色で佇んでいるような女の子。


〈生命線を透かせば西日病室に 寺山修司〉の小説化

私はこの小説を理解できているのだろうか、と

終始不安な気持ちで読んでいたのだが、

理解するためにただ文字を追うだけじゃなくて

この小説で舞台を演出するなら、とずっと考えていて。

舞台にガーゼみたいな生成色の布をはりめぐらして、

クライマックスにはそこにばばっと鮮血が飛ぶのかなーとか、

そういうことをずっと考えていた。


石原ユキオ、なかやまななの評論はそれぞれ

とても読みやすく堅苦しくないので嬉しい。

ユキオの笑いとシリアスさの両方をストイックに追い求める文体、

ななのマイペースに自分の答えを見つけようともがく文体、

ネットプリントでコンビを組んでいた二人の好対照ぶりが面白い。


関悦史と久留島元の対談、金原まさ子と佐々木紺の往復書簡は、

固有名詞が飛び交うという面では似通っているのだが

読後感はこれほど違うのか、と奇妙な清々しさを覚えた。


ワンドロのイラストは作風や切り口の違いが本当に楽しいので

とにかく見てみて下さい、としか言いようがない。

拙作もいたいけな少年たちの恋のワンシーンに変身していて

とても嬉しかった。


BLメール句会レポートとBL句会実況記事の感想を言ってもらえると

一番自分は嬉しい(自作のページの何倍も!)。

俳句の話をしながら腐った話をも出来てしまう、という状況が幸福すぎて

調子に乗り過ぎ、ともすれば内輪受けのノリを持ち込んでしまったかも、と

反省もしているのだが、萌えを人に伝え、

読み取ってもらうことの難しさと楽しさを

自分の貧しい語彙で必死に伝えたつもりだ。

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