岡本眸『一つ音』

岡本眸『一つ音』(ふらんす堂)2005年

JR浦和駅から10分ちょっと歩いたところに

「金木書店」という古本屋さんがあります。

結構品揃えがよくてちょくちょくのぞくのですが、

先日会社帰りによりましたらなかなか収穫がありまして。

その中の一冊がこちらです。(いきなり余談なのですが、

長谷川秋子が主宰を務めていた昭和45〜46年ごろの『水明』が

お店に20冊以上あったんで、気になる人は

お店に電話したりなんだりしてみてもいいかもしれません…)

岡本眸というと私の中では、

某若手俳人が愛して止まない作家という印象が強いです。

彼がすごい推してるなーということで、

何かの折に何かの句集を読んだんですけど(全然覚えてないじゃん…)

うーーーーーん……言葉を選ばず言うと、

親しみやすさ以外に良さを見つけにくい人だなと思いました。

人としての慎み深さや女性としての愛らしさ

(ジェンダーバイアスバリバリなワードですが、

戦後日本のあらまほしき女性像が嫌味なく詠まれており、

そこは評価すべきだと思いまして)はすごく感じました。

あまり関係ないかもしれませんが、

青木亮人氏が「円座」での連載で菖蒲あやと辻桃子を比較して

俳句への心構えの違いがこんなに違う!というポイントを

明快に指摘していたことなどを思い出しました。

菖蒲あやと岡本眸は同じ、富安風生-岸風三楼門下ですね。

年齢も菖蒲あやが四歳年上で、職場の句会で俳句を始めた経歴も一緒。

…いかん、話の論点がずれた。句集の紹介をしますね。

この句集はふらんす堂ホームページでの

一日一句の連載をまとめたものです。

現在では俳句日記シリーズとして、

個性的かつシックな装丁で出されていますが、

そういえば05年当時は文庫サイズで出されていましたね。

好きだった句を挙げます。

以前何かの句集を読んだ時よりも、

いいなと思った句が多かったように思います。


  寒晴の風を翳りと思ひけり

「わかるわー」と思った。

わかるんだけど、詠もうと思ってなかった。なるほど。

  螢見し夜の目薬を差しこぼす

動詞の使い方が過不足なくていい。真似したい。

  わくら葉の一枚といふ数を焼く

すごいあわれを感じる。

  別れ来て露けき人と思ひをり

侘しい色気を感じる。こういう面をもっと見せてほしかった。

  日射しいま肌着のいろや枇杷の花

「俳句は日記」が信条の作家だけれど、

読んでいても生活感って意外となくて、

うーんそんなもんなのか?と思ったけれど、

この句は把握に生活感(しかも割と生々しい)が

急に滲み出るところがいいなと。

なんか、ある景を私はこう解釈した、という

解釈の部分が面白い句ばっかり取ってしまって

私の選句がまずいのかもしれないな…とちょっと反省しかけています。

この句集で興味深かったところは、鳥の句がとっても少ないこと。

具体的に詠まれている鳥って鴨くらいなのではと思います。

あとは「鳥渡る」など、種類を書かずに「鳥」とだけ書いています。

私は鳥に疎くて疎くて、俳人として

これではまずかろうと写真入りの鳥の本を買ったりするんですが

買って満足してしまったりして

なかなか覚えられずに苦悩する日々を過ごしているので、

「岡本眸だって鳥の句少なかったし…」と自分を甘やかす材料に

してしまいそうです。

そういえば「俳句王国がゆく」で夏井いつきさんとご一緒した時、

夏井さんも鳥の句苦手っておっしゃってたな…。


あ、1ヶ所これ大丈夫かな?って思ったところがあって。

10月17日の句が

  踏む草のすでに香のなき十三夜

で、10月31日の句が 

  草踏んですでに香のなき露しぐれ

なんですね。ちょっとこれは…いかがなものかと……。


なんか後味の悪い〆になってしまいました…。

女性俳人に興味を惹かれることが多いたちなのですが

ちょっと優等生風の作風の作家はそれだけで

どうしてもちょっと敬遠してしまいがちだったんですが、

変な先入観はなるべく持たないように読むと楽しいですね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?