意外と知らない Bruno Mars
Anderson .Paakとのユニット〈Silk Sonic〉による『Leave The Door Open』が絶賛ヒット中のBruno Mars。2010年代、そして2020年代のポップ・ミュージックシーンを語る上で彼の存在は欠かせません。今回は意外と知らないであろうBruno Marsの生い立ち、経歴をご紹介します。
産まれた時からエンターテイナー
Bruno Mars(本名;Peter Gene Hernandez)は、1985年にハワイ州ホノルルで、音楽一家の下に産まれました。兄姉5人も音楽に取り組んでおり、兄のEricはThe Hooligansのドラマーでもあります。
※The Hooligans=彼のライブでコーラス、ダンス、演奏すべてをバックアップする超マルチ集団。
世界有数の観光地ホノルルでBruno Marsは、Elvis Presleyのインパーソネーター(ものまねパフォーマー)として4歳からステージに立ち始めました。当時の映像も残っています。
多様な音楽的アイデンティティ
尊敬するアーティストとして彼がよく挙げるアーティストが4人います。1人目はもちろんElvis Presley。彼の最初の音楽体験だったようです。2人目はご存知、Michael Jackson。Elvisと同じく、彼はMJのパフォーマンスもしていました。本人に似ているかは別として、『Billie Jean』は歌も踊りも超ハイクオリティです。
3人目はJames Brown。MJのメンターでもあったJBです。納得でしょう。『Runaway Baby』のライブヴァージョンでは、JB並みのステップを披露しています(02:23~)。
4人目はPrince。Bruno Marsに宿るギターのスピリチュアルやセクシネスはPrinceに由来でしょう。ギター、キーボード、ドラムなどを操るマルチプレイヤーな点も共通しています。2017年のグラミー賞では、前年に亡くなったPrinceへのトリビュートとして『Let's Go Crazy』をパフォーマンスをパフォーマンスしました。歌声含め、圧巻の完成度です(映像はリハーサルです)。
また『Marry You』のライブヴァージョンでは、『Purple Rain』のギターリフを見事に引用しています(03:36~)。
ここでは4人のアーティストを挙げましたが、Bruno Marsはブラックミュージック以外からも様々な影響を受けています。例えば、Nirvanaの『Smells Like Teen Spirit』とMichael Jacksonの『Billie Jean』のマッシュアップは、初期のステージの定番ソングでもありました。
クオリティは別として、NirvanaとMJをミックスするという型破りで挑戦的な姿勢は、彼の人種的なアイデンティティも少なからず影響していると思います。と言うのも、ハワイ産まれの混血のプエルトリカンであり、産まれながらに自らが所属する人種的音楽がなかったBruno Marsだからこそ、全ての音楽に色眼鏡なくアクセスできたのです。
鮮烈なメジャーデビューからハーフタイムショーまで
大人になったBruno Marsは迷うことなく音楽の道を進み続けるのですが、最初のキャリアはシンガー/パフォーマーではなく、ソングライターとしてでした(と言っても普通に歌っていましたが)。最初のヒットは2010年、B.o.Bの『Nothin' On You(feat. Bruno Mars)』です。これYouTubeで3.6億回も再生されていたんですね、驚きです。
同年2010年、ソロアーティストとして『Just The Way You Are』でデビューしました。同曲はアメリカやイギリスなど世界各地で1位を記録、2010年に最も売れたシングルとなりました。ド直球なポップ・バラードがここまで売れたとはもはや信じ難いですが、鮮烈なデビューとなりました。
1stに続き2ndアルバム『Unorthodox Jukebox』も成功を収め、ポップ・シンガー/エンターテイナーとしての地位を固めていきます。今も色褪せない70年代のディスコチューン『Treasure』なども2ndからのシングルです。
そして2014年、メジャーデビューからとてつもないスピードでスーパーボウルハーフタイムショーに出演します。持ち曲こそ少なかったものの、冒頭のドラムパフォーマンスから破天荒なRed Hot Chili Peppers、そして花火をバックにしたフィナーレまで、彼のエンターテイナーとしての素質が存分に発揮された14分間になりました(ちなみにレッチリを呼んだのはBruno Mars本人だそうです)。
超ド級ヒット 『Uptown Funk』
前述の2ndアルバムで共に作業したプロデューサー/DJのMark Ronsonに、Bruno Marsは再び声をかけます。「ファンクチューンをつくりたい」と。対してMark Ronsonは「ただのモータウンサウンドみたいなファンクならつくりたくない」と難色を示しましたが、「それを超える」と彼は自信を見せ、結果リリースされたのが2014年の『Uptown Funk』です。Bruno Mars、Mark Ronson共に最大のヒットとなりました。
2010年代 最高のダンスアルバム 『24K Magic』
70〜90年代のR&Bを全面にフィーチャーした3rdアルバム『24K Magic』が2016年にリリースされました。3枚目にして初めてのジャンル&時代にこだわったコンセプトアルバムと言えるでしょう。
しかし、同アルバムより2017年にシングルカットされた『That's What I Like』は収録曲中で唯一、現代のクラブシーンに適応したビートミュージックであり、最も評価されている彼の楽曲の一つです。クリエイティブなMVも注目です。
蛇足かもしれませんが、『24K Magic』に収録されている、80年代の都会的で洗練されたメロウな『Versace on the Floor』の2017年のライブヴァージョンは個人的に彼のキャリアベストのステージだと思っているので是非観てみてください。
最強の2人
Coldplayがメインパフォーマーを務めた2016年のハーフタイムショーでは、Bruno Mars & Mark RonsonとBeyoncéがゲストとして登場しました。Bruno Marsは『Uptown Funk』、Beyoncéは当時リリースされたばかりの『Formation』を披露。黒と金の衣装は、Michael Jacksonが1993年にハーフタイムショーに出演した際のアウトフィットをオマージュしたものです(かつてのブラックパンサー党の衣装でもあります)。2010年代のR&Bシーンを代表する2人が対峙するシーンでは、ブラックミュージックがもつ圧倒的なパワーを見せつけられます。Mark Ronsonによるミックスも完璧です。メインのはずのColdplayの存在感は皆無だと言わせてください(ちなみにBruno Marsたちを呼んだのはColdplayです)。
Silk Sonic 結成
『24K Magic』のワールドツアーが終わりひと段落したBruno Marsは、客演の楽曲こそリリースしていたものの、彼自身の新作の知らせは一向にこちらに届きませんでした。ところが今年2月26日(日本時間)、Anderson .Paakとユニット〈Silk Sonic〉を結成し、アルバムを一枚つくりあげたとの知らせが突如飛び込んできました。Anderson .PaakはBruno Marsと同世代のR&B/ソウルのシンガー/ラッパーで、前述の『24K Magic』のワールドツアーの前座を務めており、そこからの縁のようです。間も無くして先行シングルとしてリリースされた『Leave The Door Open』は、70年代初頭に隆盛したスイート・ソウル/フィラデルフィア・ソウル(フィリー・ソウル)を完璧にコピーした楽曲です。
また3月に開催された今年のグラミー賞授賞式では全くノミネーション対象でもないのにも関わらず、プロモーションの一貫として堂々パフォーマンスしました。噂によると、他にパフォーマンスしたどのアーティストよりもレコーディング・アカデミー(グラミー賞を主催する団体)へのアクセスが集中したそうです。フィラデルフィアのソウル・コーラスグループ The Stylicticsを思わせるスタイリングと振り付けが見られるライブパフォーマンスは必見です。Silk Sonicのデビューアルバムは、今年下半期にリリース予定です。
終わりに
Bruno Marsは世界中にファンがいる“ポップ・シンガー”です。だからこそ、一部の音楽ファンからは「ただのポップ・シンガーでしょ」や「何も新しいことやってないでしょ」と言われることもあります。その通りです。しかし、今この21世紀、彼ほど当時のブラックミュージックを正確に、エキサイティングに、且つポップに届けてくれるアーティストが他にいるでしょうか?70年代以降の音楽をリアルタイムで体験してきた方にとっては彼はただの“インパーソネーター”と写ります。ただ21世紀に産まれた私たちにとって、彼は原体験になってくれます。Bruno Mars自身も、Michael JacksonやPrinceは超えられないと断言しています。彼の目標はそこではなく、ただリスナーを楽しませることなのです。
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