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【インタビュー】現役Jリーガーが経営者になった!一流選手の「言い訳をせず伝えたい思い」とは

サッカーJ3・福島ユナイテッドFCの選手として、現役でピッチに立ち続けている山本海人さんには、経営者というもうひとつの肩書があります。
2022年10月、山本さんは現役選手のまま「株式会社KAITO STYLE」(カイトスタイル)を設立しました。
プロのアスリートと会社経営、このふたつを両立するのは、生半可なことではありません。
今回のインタビューでは、山本さんが「KAITO STYLE」に込めた、強い決意についてお話を伺いました。


山本海人さんプロフィール

山本 海人(やまもと かいと)

1985年7月10日、静岡県清水市(現・静岡市)生まれ。
清水エスパルスでプロデビュー後、ヴィッセル神戸やジェフユナイテッド千葉などのクラブを経て、現在は福島ユナイテッドFCのキャプテンを務める。
日本代表に選出された経験を持つ、一流のゴールキーパー。
2022年に株式会社KAITO STYLEを設立し、現在は二足のわらじを履いて活躍している。

1.覚悟を決めた現役選手の起業

――それでは、簡単に自己紹介をお願いします。
 
株式会社KAITO STYLE代表、山本海人と申します。
現在は福島ユナイテッドFCに所属しながら、講演会や運動教室などを行う会社の経営者として奮闘中です。
38歳で、プロ生活は20年目になりました。

――山本さんが、現役選手や個人としてではなく、起業して活動しようと思った理由を教えてください。

会社を作ることで、僕が本当にやりたい、人の役に立つための活動を自由にできるからです。

僕にはもともと「誰かの役に立ちたい」という強い思いがあって、そのためにはどうすればいいかを考えていました。
サッカー選手は、人に夢や希望を与える存在ではあります。でも、それは僕達を見に来てもらうことを前提とした、受動的なものなんです。

プロ20年の長いキャリアの中で、僕は何を伝えられるだろう。
もっと能動的に、こちら側から人の役に立つには、どうすればいいんだろう。
いろいろ考えた結果、自分の意志で人との距離を縮めていけるように、会社を作ることにしました。

――個人ではなく、組織として活動するということですか?

はい、組織としてやっていきます。
まだ先の話ですが、夢を追いかけた経験があるアスリートを、僕の会社で受け入れたいと考えているんです。
セカンドキャリアの選択肢として、KAITO STYLEに興味を持ったアスリートを、僕が雇用する。そんな未来を見据えています。

引退した、僕の同世代の盟友たちも、次の仕事には悩んでいます。本当にやりたい道に進める人って、実はあまり多くないんです。
そんな中、やりがいや目標を持って働く道のひとつとして、KAITO STYLEがあったら面白いですよね。

プロという夢を追いかけたアスリートは、集中力がものすごく高いんです。でも、スポーツを引退したら、その集中力も行き場を失ってしまいます。
僕は、彼らをもう一度奮い立たせる場所として、自分の会社を提供しようと考えています。

――山本さんご自身は、引退を待たずに会社を立ち上げました。どうして現役中だったんですか?

コロナ禍をきっかけに、自分の伝えたいことを伝えられなくなった状況が、まるで引退後のようだと感じたからです。
僕は、人と触れ合うのがすごく好きなんです。人と人とが触れ合うことに価値があるし、そこから生まれてくるものもあると思っています。

自分が引退してしまえば、コロナ禍の今と同じように、人と触れ合う機会もなくなってしまうだろう。
じゃあ、僕は現役をやめるまで、他の仕事をするのを待たなきゃいけないのかな。
自問自答してみたときに、それは自分の力量次第だと気づいたんです。

そこで昨年あたりから、ワクチンを打つなどの感染対策をした上で、人と接する機会を作るようになりました。
でも、一個人のボランティアじゃなく、ちゃんと会社を立ち上げたほうが、一般の方からの信頼度が上がります。

言い訳をせず、どちらの仕事にも覚悟を持って取り組めば、僕の思いは必ず伝わる。
だから、コロナ禍が明けて、一般の方とコンタクトが取れるようになった時点で会社を始めよう。
僕は最初から、そう覚悟を決めていました。

――山本さんは今、KAITO STYLEを通して、人に何を伝えようとしているんでしょうか。

僕が具体的に伝えたいのは、姿勢の大切さです。
日常において、姿勢がどれだけ大切なものかを知ってほしいんです。

たとえば姿勢の矯正を、高齢の方にも無理なくできるように工夫すれば、自分の足で歩ける健康寿命を延ばせます。
僕が理解している正しい姿勢を、みんなに伝えられれば、いろんな人の役に立てますよね。

それを伝えたい大きな理由が、僕自身の経験です。
4年前、僕は腰椎ヘルニアという大怪我を負って、下半身がまひしてしまいました。サッカー選手どころか、障がいが残るかもしれないという話も出たほどの負傷でした。

でも、姿勢を見つめ直して矯正することで、怪我から回復できたんです。
動かなかった足の指が動き、足首が動き、膝が回るようになっていきました。
その経験があったからこそ、姿勢の大切さや矯正のやり方を伝えることで、誰かの役に立ちたいと願っています。


2.姿勢を正すことによる効果

――体を健康にするには、ジムで筋肉を鍛えるより、姿勢を正すほうが大切なんですか?

健康とは、重いものを持てることじゃなく、体を自由に動かせることですよね?
それならジムに行くより、姿勢を良くするほうが、健康になる確率が高くなります。

実は、僕も大怪我からの4年間、ジムの重い器具を使ったことがないんです。
それでも、姿勢を正すことで、ここまでサッカーができています。

世の中の人が、筋肉を鍛えることが必要だと思うのは、ごく普通のことです。
でも、ジムに行かない人たちが、必ずしも不健康というわけではありません。
それに、姿勢を良くすることには、うつ病を予防したり、記憶力と集中力を上げたりする効果もあるといわれています。

――姿勢の悪さとうつ病に、つながりがあるということですか?

例えば猫背のように、体が丸まってしまうと、人は必然的に下を向きます。
そして、自信がないときや不安なときも、自然に目線が下がりますよね。
人は下を見ると、気分が上がらなくなります。
気分を晴らすためには、顔が上がっていることが大切なんです。

逆に、胸を張ると、顔が上を向いて気分が晴れます。
常に堂々としている人たちは、みんな胸を張れているでしょう?

――姿勢を正すことで、記憶力や集中力が上がるのも、上を向くからなんでしょうか。

もっと詳しく言うと、記憶力と集中力には、首が関係しています。

下を見ると、首も前に出てしまいます。
猫背だけを直せばいいというわけではなく、前に出ている首もまっすぐにならないと、いい姿勢とは言えないんです。

姿勢を正すことで、首のあたりが集中的に刺激されます。その刺激に、記憶力と集中力を上げる効果があるんです。
僕は、体をすべてひっくるめて「姿勢を正す」という位置づけにしています。

―――姿勢を見直すことで、体を正しく使えるようにもなりますか?

はい、それが運動機能向上の部分ですから。
たとえば足が速くなる、バランス感覚が良くなるなどの効果が出てきます。

スポーツ競技を学ぶときも、最初にすべてのベースとして姿勢を正すと、体が良い状態になります。
努力はその後から必要になりますが、姿勢から入るほうが早いんです。
体の状態を整えてから、特化した競技を学び始めれば、努力の効果が上がるからです。


3.業務内容の3つの軸

写真提供:株式会社KAITO STYLE

――現在、KAITO STYLEではどのような業務を行っていますか?

「講演会」「高齢者向けの健康教室」「子どもたちに対する運動教室」
この3つを軸に活動しています。
対応できる地域は、福島県全域です。

――3つの軸の決定と、会社設立を決めたのは、どちらが先だったんでしょうか。

3つの軸が先です。
それを最初に決めてから、次に会社を立ち上げました。

実は起業する前に、福島市立矢野目小学校で、運動教室と講演会を開催していたんです。
お話が来たときには、もう3つの軸が決まっていたので、先行してやらせていただきました。

自分がどういうことをしたいのか、人に何を貢献できるのか。それを考えたことが、すべての始まりです。
業務案はいくつか出てきたんですが、実際に現役中でも伝えられるのは、この3つの軸でした。
だから今は、ここに限定して活動しています。

――子どもたちや学生向けに行っているのは、どんなことですか?

運動教室と講演会です。
運動教室は、準備運動を姿勢矯正の時間として使って、後半は各学校のリクエストに応じたことを臨機応変にやっています。
講演会は僕の実体験を織り交ぜて、夢を追いかける素晴らしさや、挫折からの立ち直り方を伝えることが多いです。

講演会も、会社の認知や地域貢献には必要ですが、僕が一番伝えたいのは姿勢の取り組みです。
だから、基本的に講演会のときも、姿勢矯正の時間を組み込ませてほしいと打診しています。

――では、大人向けにはどうでしょう。

社会人には講演会、高齢者には健康教室を開催しています。

今年は3月に「目標達成へのモチベーションの維持」というテーマで、(福島県)国見町で講演会を行いました。
僕がダブルキャリアのモチベーションを保つために、意識していることなどを踏まえて、お話させていただいたんです。

高齢者向けの健康教室も、趣旨は姿勢矯正です。健康になるために姿勢を正しましょう、ということですね。

――講演会や運動教室の依頼は、週に何件くらい受けられるんですか?

週1回から2回です。
週末は試合がありますから、平日の午後を中心にお受けしています。
チームの休日が、週に1回ありますので、その日なら午前中でも大丈夫です。

――KAITO STYLEに問い合わせや依頼をしたいときの、連絡先はどこでしょう。

僕の会社にメールをいただければ、お返事を差し上げます。
kaitostyle.jimukyoku@gmail.com


4.アスリートと共に目指す会社の未来

写真提供:株式会社KAITO STYLE

――2022年に始まったKAITO STYLEですが、10年後はどのような会社でありたいですか?

今は福島県内に限っている活動を、お世話になった人たちがいる地域に広げていきたいです。

お世話になった人から依頼を受けたとき、たとえその方が海外にいたとしても、僕の会社の活動を届けられるようにしたいんです。
そういう形で、皆さんに恩返しをしたいと思っています。

僕自身、受け入れる場所の範囲をもっともっと広げるつもりです。
そうすることで、よりいろいろな経験ができますから。
だから3年後には全国、10年後には世界中に、活動の場を広げていきたいです。

――最初に、KAITO STYLEを元アスリートの受け入れ先にしたいというお話がありました。実際のところ、セカンドキャリアの現状はどうなんでしょうか。

サッカー選手の場合は、引退後そのまま指導者になるケースが多いです。

でも、本当に教えたくて指導者になるのは、その中の半分くらい。あと半分の方は、生活のために仕事が必要だから、指導者の道に進んでいます。
サッカーに限らず、元アスリートは職を選ばなければ、何かしらの仕事には就けているんです。

でも、今の世の中は何でも仕事になるので、現役中から広い目で見たり、調べたりするほうがいいですね。
僕の会社も含めて、もっといろんなものがあることを、知ってほしいと思います。

――現役の若い選手たちは、セカンドキャリアのことを考えているんですか?

最近は、考えている選手が増えてきたと感じていますが、それでも全体の2割くらいです。
そういう選手は練習の後、通信の大学で学んだり、企業のオンラインセミナーに参加したりしています。

どちらかと言うと、危機感を持って考えているのは、下のカテゴリーの選手に多いんです。
下に行くほど、苦労している選手が多いので、近くにいる人の話をリアルに聞くからでしょうね。
サッカーで生活が賄える選手たちは、どうしても今だけになりがちです。

――引退したアスリートの雇用を始めたら、彼らにどのような役割を与えようと考えていますか?

僕が今、福島でやっている事業内容を、そのまま各地域の元アスリートに任せるつもりです。
そうすることで、元アスリートは自分の地域に社会貢献ができるし、存在価値を上げられると思っています。

どのスポーツにも、誰かに助けを受けながらやれている、エンターテイメント的な部分があります。
だからこそ、その土地への恩返しとして社会貢献をするのは、間違いなく必要なことなんです。

じゃあ、その土地の人の生活に入り込んだ「人のために役立てること」は何かと考えて、僕自身がその効果を自分の体で知っている、姿勢矯正に目を向けました。
アスリートは体を動かすことがウリですから、彼らが輝けるような動ける仕事を、僕の会社が提供していこうと考えています。


5.福島ユナイテッドFCとサポーターへの思い

写真提供:株式会社KAITO STYLE

――これから会社の規模を広げるにあたって、スタートの地である福島と、どう関わり続けて行きたいですか?

具体的な方法は定まっていませんが、何らかの形で関わり続けて行きます。
ここには、怪我を抱えた僕にオファーを出してくれた、福島ユナイテッドFCというクラブがあるからです。

キャンプは1月の後半から2月に始まりますので、選手のギャランティもそこから発生します。
一方、僕は歳も30を過ぎていて、怪我は5月か6月まで治らない。
そんな選手と新規に契約するなんて、普通はありえません。

でも、福島ユナイテッドFCは僕を獲りたいという熱量をもって、オファーを出してくれました。
僕は、そのことに対する恩返しをしたいと、ずっと思い続けているんです。

――山本さんが考える、福島ユナイテッドFCへの恩返しの方法とは、どのようなことでしょう。

一番の恩返しは、もちろんJ2への昇格だと思います。
でも、試合の入場者数が少ない福島ユナイテッドFCにとって、応援してくれる人を増やすことも、大きな貢献になるんです。

クラブの価値を上げるために、僕は引退しても、常に福島ユナイテッドFCのOBだと伝え続けるつもりでいます。
僕にとって、福島ユナイテッドFCは新たなスタートの場であり、次につなげるための道標になったチームです。
だから、絶対に何かを残したいし、つなげていきたいと思っています。

――福島ユナイテッドFCを支えている、サポーターへの思いはありますか?

福島ユナイテッドFCのサポーターは、僕と同じように、チームを大きくしたいという熱い思いを持っています。
そして、彼らはその思いを、ちゃんと表に出しているんです。
そのことに、僕はもう感謝しかありません。

もし、今は700人くらいのサポーターが、たとえば2,000人に増えたらどうでしょう。
一緒にワクワクできる仲間が多ければ、今よりもっと楽しくなりますよね。
だから僕は、サポーターを増やすための施策や、歩み寄りをしたいと考えています。

700人のサポーターたちは、みんなが必死になって、J1クラブの10,000人と同じ応援をしてくれています。
つまり、一人一人にとんでもない労力がかかっているということなんです。
それを踏まえて恩返しをするなら、彼らに共感できる、新しいサポーターを増やすことだと思います。

――そのために今、KAITO STYLEには何ができるでしょう?

僕の会社を通して、福島ユナイテッドFCを近くに感じてもらうことで、チームに興味を持ってもらえます。

例えば、福島ユナイテッドFCを応援する機会がなかった子どもの学校で、僕が運動教室をしたとします。
それをきっかけに、子どもが興味を持ってくれれば、家族で試合を見に来てくれるかもしれませんよね。

どこでどう引っかかるかは分かりませんが、今まで福島ユナイテッドFCが触れてこなかった枠組みに、KAITO STYLEは触れることができています。
そこから一人でも多くの方を福島ユナイテッドFCにつなげて、興味を持っていただくことは、既にできているはずです。

――最後に、ひとことお願いします。

僕が今、現役のサッカー選手と会社経営を両立しているのは、特別なことだと思っています。
だから、それを許してくださっている、福島ユナイテッドFCには心から感謝しているし、恩返しをしていきたいんです。

プロである以上、このチームで結果を残すことにこだわらなければなりません。
ただ、結果が良かろうと悪かろうと、地域に根差した活動は絶対に必要です。
だから僕は言い訳をせずに、福島ユナイテッドFCとKAITO STYLEを、しっかりと両立させていきます。


おわりに

山本さんが現役のまま、引退を待たずに会社を立ち上げた背景には「誰かの役に立ちたい」「恩返しがしたい」という、強く優しい思いがありました。

「選手だけでやっていきたい気持ちもあるけれど、それだけじゃなく、もっともっといろんな人の役に立ちたい」
まだインタビューが始まる前に、山本さんからあふれ出た言葉です。

サッカープレイヤー・山本海人は、数えきれないほど大勢のファンに愛されています。
いずれ現役引退の時を迎えたとしても、ファンたちはきっと、株式会社KAITO STYLE代表・山本海人を応援し続けていくことでしょう。


(取材:さわきゆり)

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