スピンとテッド

スピンとテッド

ノナーカは心配していた。
お嬢様の様子が最近おかしい。

代々続くブルーム家
社長令嬢のスピンもまた、代々の例に倣い、
ブルーム福祉施設の政略結婚に供されようとしていた。

そのこと自体はそれほど珍しいことではない。
代々仕えてきた執事のノナーカも特段いつものことと疑うこともなかった。

スピンは社会を経験したかった。
そして、関連会社の施設長に頼んで社会人を経験することが決まった。

大学を卒業し、社会人を経験し、一人暮らし、そして男性を経験したいと思っていた。

厳格な家庭に育ったスピンにとって、最後の一つはとても難しい挑戦だった。

ノナーカも可哀そうだと思っていたが、成す術もなく、自ら申し出ることも
考えはしたが、行うことはためらわれた。今回お嬢様からのご相談が無ければだが、

ノナーカはとても信頼できる執事だった。
業務全般から家庭内のことまで、いたるところで、何から何まで気が利き、そして有能だった。すべてをスマートに賢く、手早く、処理した。

スピンはノナーカに相談した。

一人暮らしの手配から、すべての手筈をノナーカは調整した。
問題は、相手だった。
良家の令嬢が人目を憚り、相手を探すのは、至難の業、しかし、ここであるサイトに注目した。

後々悪影響が少なく、秘密を守れて、しかも女性経験が豊富そうな男性。
老齢でも貧乏でも、それは関係なかった。
むしろ、先ほどの条件に合うことのほうが重要だった。

ノナーカはサイトからある人物を選定した。
それがテッドであった。

テッドはしばらくfacebookをしていたが、すぐに飽きてやめてしまった。
そして今回の転職で、ある外国人と出会う。
彼は親しみやすく、英語も堪能で、もちろん日本語も、
自己紹介の時フェイスブックでつながろうという話になり、テッドはフェイスブックを再開した、新しいアカウントで。

すぐに友達登録依頼が殺到した。
最初のうちは面白いと思ったが、あまりに多くの友達申請に、だんだん面倒になっていく、
そして、そこで紹介されていた広告、無料につられ、サイトに登録した。

テッドは、好奇心旺盛で、転職も半端ないぐらい、
その旺盛な好奇心で、あるサイトと巡り合う。
それがスピンとテッドの出会いの場になった。

最初は面白半分で投稿や閲覧をしていたが、ふと、綺麗で清楚で可憐な姿を目にする。
それがスピンだった。

ノナーカの投稿とスピンの投稿から、テッドは参加し始めた。
スピンにメッセージを送ったのだ。

スピンとテッドのやり取りは、時にはちぐはぐ、時には熱々、よくわからないけど、
楽しんでいるようだった。お互いに、
何度か交流が途絶えそうになったが、そのたび修復して、結局交流は続いていった。

サイトのやり取りから進歩がないまま、スピンは一人暮らしを開始した。

お互いの時間が合わず、会えないまま、二人の恋は進行した。

テッドは過去に嫌な経験があり、それが原因で独身主義になっていた。

こちらはスピンとは真逆で、親が決めた相手を拒絶ではないけれど、
自分の意志ではないので、拒み続け、結局独身主義になってしまった。

二人の背景は真逆かもしれないが、ある意味共通点があるようにも見て取れる。
そして相性はバッチリ、最高級、満点である。お互いにファーストネームを呼び捨てで交流するぐらい、親密な関係は続いた。

まるで、訪れる悲劇を、台風の目をやり過ごすかのように気づかないふりで、
二人は近づいて行ったのだった。

スピンは自分の運命を受け入れる代わりに、一時の純愛を、
テッドは過去の運命を恨みつつ、次第にスピンへの愛を深めていった。

しかし二人には制約があった。

スピンが一人暮らしできるのは、2か月のタイムリミット、その後は親の決めた相手と結婚生活をしなくてはいけない。

2か月の間に思いを遂げるには、あまりにも時間が限られていた。
しかも、現時点でほとんど1か月が過ぎようとしていたのである。
まだ会ってもいないのに、

スピンはデートがしたかった。
初期の目的である背伸びしたデートも求めていたが、手つなぎデートや、ハグなど、純粋な愛情を感じる恋愛も希望していた。
あまりにも新鮮なリクエストに、テッドは微笑んだ。
ただ、今の時点では、会う事さえかなってはいなかったのだが、

2か月のタイムリミットとは別の問題もあった。
まず、社長をしているお父様にばれないように、あと、結婚予定の相手にも内密にしなければならなかった。
もし、明るみに出たら、どういう目に合うのか、スピンのことを思うと、テッドは二の足を踏んでしまう。

このままサイトで連絡しあうだけ関係だけでいいのではないか、とも思う時がある。
でも、いとしいスピンには、二人の大切な思い出を胸に、これからの人生を送ってほしいという気持ちは、強かった。

悶々とした、日々の中で、テッドは深い思索を巡らせるのであった。

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