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紙芝居『ヤミクラ』
9歳の少年、ライトは、公園ですっかり遊んだ後、家を目指し歩いていた。
時刻はすでに午後6時を回っている。まだ少し幼いライトは、だんだんと暗くなる空に僅かながら恐怖を感じつつ、歩を進めていた。
その道中。ふと、ある見慣れないものが目についた。
そこには見たことのない種類の標識が立っていた。
連なった四角が何を表しているのか、ライトにはさっぱりわからなかった。
その隣には路地の入り口。路地と言っても、建物の間にできた隙間のようなモノだ。
この道は、どこにつながっているのだろう。
もちろん、迷ってしまうかもしれない、知らない場所につながっているかもしれない、という不安はあった。
しかし、ライトにとってはそれよりも好奇心が勝った。彼はその路地へと足を踏み入れた。
その先は、初めは何の変哲もない裏路地だった。
しかしライトは進むにつれだんだんと暗くなっていくその路地に確かな違和感を感じていた。
何かに見られているような感覚がハッキリとあるのだ。
姿は見えないが、辺りを包む暗闇からは確かな気配を感じられた。
その感覚がだんだんとライトの精神的な余裕を奪っていく。
ライトは膨らむ不安感に耐えきれずだんだんスピードを早め、とうとう走り出した。
それに呼応するかのように、周りの気配も強く大きくなっていくのをライトははっきりと感じた。
恐怖も増してゆき、追ってくる「それ」に対抗しようという気など起こるはずもない。
「逃げなきゃヤバい。」そんな思考が彼の頭を支配していた。
彼は夢中で走り、なんとか細い路地の先へと逃げ込んだ。
その先でもライトは安心することはできなかった。
そこには黄緑色の人魂のような、ぼんやりと光る妙なものが浮いていたのだ。
ライトにとってそれはとても不気味なものに映った。
しかし、少し離れて様子を見ていると、かなり弱っている上、どうやら敵意はないらしいことがわかった。
見たところ、ここはゴミ捨て場のようだ。電子レンジや冷蔵庫など、電化製品が多く捨てられている。
もしかして、ここはアイツにとっての餌場のようなものなのだろうか。
そう思った彼は…
ポケットにしまっていたゲーム機から電池を取り出し、差し出してみた。
人魂は、最初怪訝そうに見つめていたが、おもむろにそれを体内に取り込むと…
電力を取り込んだのだろうか、その体は煌々と光り出した。
その心強い光に少し安心したのも束の間、背中にはっきりとした嫌な気配を感じた。意を決して振り返ると…
さっき自分を追っている気がした「何か」が、間近に佇んでいた。
竜のような姿をしたその怪物は、赤い瞳でライトをじっと見つめている。
その後ろにも多くの赤い光が見える、きっと後ろにもかなりの数が控えているのだろう。
「もう駄目だ」と感じたそのとき、人魂が突然怪物の目の前に向かい、
今までよりずっと強く眩しい光を発した。
それは辺り一面がはっきり見えるようになるほどの光だった。
一瞬目がくらんだものの、その光に怯んだ怪物たちの間をライトは反射的にかい潜り走り出した。
ライトは怪物たちから逃れようという一心で、向こうに見える光を目指して走り続けた。
後ろを振り返ると、依然として怪物たちの瞳が見える。それを見てより一層足に力が入った。
なんとか元の場所に戻ってこれたライトは強く安堵するとともに不思議なことに気付いた。
先ほど入ったはずの路地の入り口が消えているのだ。
それだけではない。標識に書かれていた妙な模様も消えている。
さっきまでの場所は一体なんだったのだろう?結局標識の意味は一体?
そんな疑問を抱きつつも、さっきよりも少し暗くなった空の下、
すっかり懐いてしまった心強い明かりとともに、ライトは帰路に着くのだった。
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