Applied Materials

要約

Applied Materials(アプライド マテリアルズ)は、米国カリフォルニア州サンタクララに本社を置く、世界最大の半導体製造装置および関連ソフトウェアのサプライヤーです。同社は、半導体チップ、フラットパネルディスプレイ、ソーラーパネルの製造に使用される機器の開発・製造・販売を行っています。半導体製造装置市場で約25%のシェアを持ち、ライバルのLAM Research、東京エレクトロンと並ぶ大手3社の1つとして、業界をリードしています。

企業情報

  • 設立:1967年

  • 本社:カリフォルニア州サンタクララ

  • CEO:ゲイリー・ディッカーソン

  • 従業員数:27,000人以上(2022年10月現在)

  • 上場取引所:ナスダック(AMAT)

沿革: Applied Materialsは、1967年にマイケル・マクヴェイとその仲間によって設立されました。当初は半導体メーカー向けの製造装置を開発・製造していましたが、徐々に事業を拡大し、ディスプレイ製造装置、ソーラーパネル製造装置へと領域を広げていきました。1970年代から1980年代にかけて、同社は半導体製造装置市場でのプレゼンスを強化し、1990年代には海外市場へ積極的に進出。現在では、世界各地に拠点を持ち、グローバルに事業を展開しています。

トップマネジメント:

  • ゲイリー・ディッカーソン(社長兼CEO)

  • ダン・ドーラン(シニアバイスプレジデント兼CFO)

  • アリ・サラヒ(シニアバイスプレジデント兼CTO)

  • ブレンダン・チャン(シニアバイスプレジデント、半導体製品グループ総括)

大株主:

  • ヴァンガード・グループ:8.41%

  • ブラックロック・ファンド・アドバイザーズ:7.96%

  • ステート・ストリート・コーポレーション:4.49%

  • フィデリティ・マネジメント&リサーチ・カンパニー:2.97%

  • キャピタル・リサーチ・グローバル・インベスターズ:2.75%

(2023年4月時点の情報であり、保有比率は変動する可能性があります。)

事業内容

Applied Materialsの事業は、以下の3つのセグメントに分かれています。

  1. 半導体システム(Semiconductor Systems):半導体製造装置の開発・製造・販売。主要製品は、エッチング装置、PVD(物理蒸着)装置、CVD(化学蒸着)装置、CMP(化学機械研磨)装置、インスペクション(検査)装置、メトロロジー(測定)装置など。

  2. 応用グローバルサービス(Applied Global Services):半導体製造装置のメンテナンスサービス、パーツ、アップグレードの提供。

  3. ディスプレイとAdjacent Markets:ディスプレイ製造装置、コーティング装置、ソーラーパネル製造装置の開発・製造・販売。

同社の製品は、ロジック、DRAM、NAND、その他のメモリチップなど、幅広い種類の半導体デバイスの製造に使用されています。主要な顧客は、インテル、サムスン電子、TSMC、SKハイニックス、マイクロンテクノロジーなどの大手半導体メーカーです。

サプライチェーン: Applied Materialsは、自社の製造拠点に加え、外部のサプライヤーからも部品や材料を調達しています。主要なサプライヤーとしては、日本の日立ハイテク、アドバンテスト、ドイツのアイリンクス、米国のMKSインスツルメンツなどが挙げられます。同社は、サプライヤーとの緊密な関係を維持し、品質と安定供給の確保に努めています。

市場シェアと競合状況: 半導体製造装置市場において、Applied Materialsは約25%のシェアを持ち、LAM Research(約20%)、東京エレクトロン(約15%)と並ぶトップ3の一角を占めています。競合他社との差別化要因としては、幅広い製品ポートフォリオ、研究開発力、グローバルなサポート体制などが挙げられます。

業績動向

直近の業績概要(2022年度通期):

  • 売上高:256億2000万ドル(前年比19%増)

  • 営業利益:69億1000万ドル(同35%増)

  • 純利益:63億1000万ドル(同38%増)

  • 1株当たり利益:6.80ドル(同40%増)

セグメント別売上高(2022年度):

  • 半導体システム:197億9000万ドル(前年比23%増)

  • 応用グローバルサービス:51億8000万ドル(同8%増)

  • ディスプレイとAdjacent Markets:6億5000万ドル(同5%減)

四半期業績推移(2022年度):

  • Q1:62億1000万ドル

  • Q2:64億5000万ドル

  • Q3:65億2000万ドル

  • Q4:64億4000万ドル

通期業績予想(2023年度): Applied Materialsは、2023年度の業績予想を以下のように公表しています。

  • 売上高:265億ドル~275億ドル

  • 1株当たり利益:6.84ドル~7.64ドル

ただし、半導体業界の需要動向や世界経済の不確実性などにより、実際の業績は予想から乖離する可能性があります。

中期経営計画: 同社は、2024年度までに売上高300億ドル、営業利益率30%以上を目指す中期経営計画を掲げています。この目標達成に向けて、次のような戦略を推進しています。

  1. 研究開発投資の強化により、先端プロセス技術への対応力を高める。

  2. 成長市場であるロジック、ファウンドリ、メモリ分野でのプレゼンス拡大。

  3. サービスビジネスの拡充による収益基盤の安定化。

  4. 生産性向上とコスト削減による利益率の改善。

長期業績推移(過去5年間):

  • 2018年度:177億3000万ドル

  • 2019年度:149億2000万ドル

  • 2020年度:178億2000万ドル

  • 2021年度:215億1000万ドル

  • 2022年度:256億2000万ドル

同社の業績は、半導体業界の景気サイクルに大きく影響されます。2019年度は米中貿易摩擦の影響で売上高が減少しましたが、2020年度以降は半導体需要の回復により業績は拡大基調にあります。

損益計算書(2022年度):

  • 売上高:256億2000万ドル

  • 売上原価:140億8000万ドル

  • 売上総利益:115億4000万ドル

  • 研究開発費:30億ドル

  • 販売費及び一般管理費:21億7000万ドル

  • 営業利益:69億1000万ドル

  • 税引前利益:69億3000万ドル

  • 法人税等:6億2000万ドル

  • 当期純利益:63億1000万ドル

貸借対照表(2022年度末):

  • 現金及び現金同等物:47億1000万ドル

  • 売上債権:51億7000万ドル

  • 棚卸資産:56億3000万ドル

  • 有形固定資産:30億9000万ドル

  • 総資産:464億8000万ドル

  • 買入債務:28億4000万ドル

  • 未払費用:24億2000万ドル

  • 社債及び長期債務:58億4000万ドル

  • 株主資本:292億5000万ドル

キャッシュ・フロー計算書(2022年度):

  • 営業活動によるキャッシュ・フロー:74億8000万ドル

  • 投資活動によるキャッシュ・フロー:-12億2000万ドル

  • 財務活動によるキャッシュ・フロー:-66億5000万ドル

  • 現金及び現金同等物の増減:-3億9000万ドル

  • 期首現金及び現金同等物残高:51億ドル

  • 期末現金及び現金同等物残高:47億1000万ドル

主要指標(2022年度):

  • 売上高成長率:19.1%

  • 売上総利益率:45.0%

  • 営業利益率:27.0%

  • 純利益率:24.6%

  • 自己資本比率:62.9%

  • ROE(自己資本利益率):21.6%

  • ROA(総資産利益率):13.6%

配当方針: Applied Materialsは、安定的かつ継続的な配当の実施を基本方針としています。2022年度の年間配当金は1株当たり1.04ドルで、配当性向は15.3%でした。また、同社は機動的な自社株買いも実施しており、2022年度は87億ドルの自社株買いを行いました。

市場環境

関連市場の動向: Applied Materialsの事業は、半導体、ディスプレイ、ソーラーパネルなどのエレクトロニクス製品の需要動向に大きく左右されます。特に半導体市場は、同社の売上高の8割以上を占める最重要マーケットです。

半導体市場は、データセンター、5G、AI、自動車、IoTなどの分野で需要が拡大しており、中長期的な成長が見込まれています。一方で、景気変動の影響を受けやすく、需要の波動性が高いことが特徴です。

市場規模と成長性:

  • 世界の半導体製造装置市場規模は、2022年に約900億ドルに達しました。

  • 2023年から2030年にかけて、年平均成長率(CAGR)6.5%で成長し、2030年には約1,500億ドルに達すると予測されています。

(出所:Allied Market Research, "Semiconductor Manufacturing Equipment Market")

規制環境: 半導体製造装置業界は、国際的な貿易規制の影響を受けやすい分野です。特に、米中貿易摩擦により、一部の中国企業への製品販売が制限されるなど、事業リスクが高まっています。また、環境規制の強化や、顧客企業からのサステナビリティ要求への対応も重要な課題となっています。

技術動向: 半導体の微細化や3D化の進展に伴い、より高度な製造装置が求められています。主な技術トレンドとしては、以下のような点が挙げられます。

  • EUV(極端紫外線)リソグラフィ技術の実用化

  • 先端パッケージング技術(2.5D/3Dパッケージ)への対応

  • IoTやAIの普及に伴う、新しい材料や製造プロセスの開発

  • プロセスの自動化・最適化に向けた、AI/機械学習技術の活用

Applied Materialsは、これらの技術トレンドを見据えた研究開発に注力し、競争力の維持・強化を図っています。

競合分析

主要競合企業の概要:

  1. LAM Research(ラムリサーチ)

    • 米国カリフォルニア州に本社を置く半導体製造装置メーカー

    • エッチング装置、CVD装置、洗浄装置などが主力製品

    • 2022年度の売上高は194億ドル、営業利益率は34.6%

  2. 東京エレクトロン

    • 日本の半導体製造装置メーカー

    • コーティング/現像装置、エッチング装置、洗浄装置などを提供

    • 2022年3月期の売上高は2兆229億円、営業利益率は30.2%

  3. ASMLホールディング

    • オランダに本社を置く、リソグラフィ装置の大手メーカー

    • EUV露光装置で高いシェアを持つ

    • 2022年度の売上高は219億ユーロ、営業利益率は30.7%

競合企業との比較:

  • 製品ポートフォリオ:Applied Materialsは、エッチング、PVD、CVD、CMP、インスペクションなど、半導体製造プロセスの幅広い工程に対応した装置を提供しています。対する競合他社は、得意分野に特化する傾向にあります。

  • 市場シェア:半導体製造装置市場全体では、Applied Materialsが約25%でトップシェアを持ちます。LAM Researchは約20%、東京エレクトロンは約15%のシェアを持つと推定されます。

  • 強み:Applied Materialsの強みは、総合力と研究開発力にあります。同社は、幅広い製品ラインアップを持ち、顧客のニーズに応じたソリューションを提供できます。また、高い研究開発投資により、最先端の技術動向に対応した製品開発が可能です。

    • 弱み:Applied Materialsの弱みとしては、特定の製品分野で競合他社に後れを取っている点が挙げられます。例えば、リソグラフィ装置ではASMLが圧倒的な強みを持っています。また、景気変動の影響を受けやすく、業績の安定性に課題があります。

リスク要因
事業に関するリスク:

  1. 半導体業界の景気サイクル:半導体市場の需要変動により、同社の業績は大きく影響を受ける可能性があります。

  2. 技術革新への対応:半導体の微細化や3D化など、技術進化のスピードが速い分野において、技術動向への対応が遅れると競争力を失うリスクがあります。

  3. 顧客の設備投資動向:半導体メーカーの設備投資計画の変更や延期により、受注が減少するリスクがあります。

  4. サプライチェーンの混乱:部品調達の遅れや、サプライヤーとの関係悪化により、生産に支障をきたす可能性があります。

経営に関するリスク:

  1. 国際的な貿易摩擦:米中貿易摩擦など、地政学的リスクの高まりにより、特定の国や地域での事業に制限が生じるリスクがあります。

  2. 為替変動:グローバルに事業を展開していることから、為替レートの変動が業績に影響を及ぼす可能性があります。

  3. 人材の確保と維持:高度な技術を持つ人材の獲得競争が激化しており、優秀な人材の確保と維持が課題となっています。

  4. 知的財産権の保護:特許侵害などの知的財産権に関する紛争のリスクがあります。

今後の戦略
成長戦略: Applied Materialsは、以下のような成長戦略を推進しています。

  1. 最先端技術への投資:EUVリソグラフィ、3Dパッケージング、新材料などの分野で、研究開発投資を強化し、技術リーダーシップを維持します。

  2. 注力市場でのプレゼンス拡大:ロジック、ファウンドリ、メモリなど、成長が見込まれる市場でのシェア拡大を目指します。

  3. サービスビジネスの強化:装置のメンテナンスや消耗品の提供など、サービス事業を拡大し、収益基盤を安定化させます。

  4. デジタルトランスフォーメーション:AI/機械学習を活用し、製造プロセスの自動化・最適化を推進します。

事業ポートフォリオ戦略: 同社は、半導体製造装置事業を中核に、ディスプレイ製造装置、ソーラーパネル製造装置など、関連分野にも事業を展開しています。今後は、半導体製造装置事業により経営資源を集中させる一方、ディスプレイやソーラー事業は選択と集中を進める方針です。
M&A・アライアンス戦略: Applied Materialsは、成長分野での事業拡大や、技術力強化を目的としたM&Aを積極的に推進しています。2021年には、半導体製造プロセスの最適化ソフトウェアを手がけるOptimal Plusを買収しました。また、産業用AI企業のBonsaiとの提携など、オープンイノベーションにも取り組んでいます。
研究開発戦略: 同社は、売上高の約15%を研究開発に投資しており、業界トップクラスの研究開発体制を誇ります。主な研究開発テーマとしては、以下のような点が挙げられます。

  1. 次世代の半導体製造プロセス技術の開発

  2. 新材料や3Dパッケージングなど、先端パッケージング技術の開発

  3. AI/機械学習を活用した製造プロセスの自動化・最適化

  4. 新たな成長領域(ディスプレイ、ソーラーなど)での技術開発

海外戦略: Applied Materialsは、グローバルに事業を展開しており、北米、欧州、アジアなど、世界各地に拠点を持っています。特に、半導体市場の成長が著しいアジア地域では、中国、台湾、韓国、日本などに重点を置き、顧客サポート体制の強化や、現地パートナーとの協業を進めています。
ESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組み
環境への取り組み: Applied Materialsは、自社の事業活動における環境負荷低減と、顧客の環境対応支援の両面で、積極的な取り組みを行っています。

  1. 温室効果ガス排出量の削減:再生可能エネルギーの導入や、省エネ設備の導入により、CO2排出量の削減を進めています。

  2. 水資源の効率的利用:製造工程での水使用量の削減や、水のリサイクル率向上に取り組んでいます。

  3. 製品の環境配慮設計:製品の省エネ性能向上や、有害物質の削減など、環境に配慮した製品設計を推進しています。

社会への取り組み: 同社は、従業員の多様性の尊重や、地域社会への貢献など、社会的責任を果たすための取り組みを行っています。

  1. ダイバーシティ&インクルージョンの推進:性別、人種、国籍などにかかわらず、多様な人材が活躍できる職場環境の整備に努めています。

  2. 人材育成の強化:従業員のスキル向上を支援する教育研修プログラムを拡充しています。

  3. 地域社会への貢献:事業拠点がある地域での教育支援や、災害復興支援など、社会貢献活動を行っています。

ガバナンス体制: Applied Materialsは、コーポレートガバナンスの強化に取り組んでいます。

  1. 取締役会の独立性:取締役会の過半数を独立社外取締役で構成し、経営の監督機能を強化しています。

  2. 株主との対話:株主総会での建設的な対話や、IR活動の充実により、株主との良好な関係構築に努めています。

  3. コンプライアンスの徹底:行動規範の整備や、従業員教育の実施により、コンプライアンス意識の浸透を図っています。


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