見出し画像

時差との闘い ー すべては地球が丸いのがいけない

 Vketには世界中から出展者や来場者が集まります。このため、およそ「時間」が関わる案内をするときは、常にヨーロッパやアメリカなどの標準時を併記する必要があります。これが案外ややこしいのです。今回は、私ななななが英語の案内文を書くときなどに困っている話を書きます。

地球は丸かった

 日本の標準時「JST」は、協定世界時「UTC」に9を足した時間です。イギリスがお昼の12時のとき、日本は夜の9時です。これは日本がイギリスから「9分の24」ほど東に行った場所にあるからで、東経135度の経線が「日本標準時子午線」として明治時代に定められています。
 ちなみに「協定世界時」というのは「国際天文学連合」が定めているもので、ロンドンのグリニッチ天文台の近くにある「IERS基準子午線」が基準になっています。元々は17世紀以降に航海のために星図を作った際にグリニッチ天文台を基準にしていたためにこの形になっていて、1884年の「国際子午線会議」で世界標準として定められたものです。その後もフランスはしばらくパリ子午線を使っていたりしました。
 下の地図のとおり、世界の他の場所では、日本みたいに標準時が経線に沿って自然になっているとは限りません。たとえば中国は西部も含め全部UTC+8で定めていますし、EU圏もだいたい同じ標準時を採用しています。逆に、ロシアやアメリカみたいに地域によって標準時が異なる場合もありますし、インドのようにUTC+5時間30分という標準時を定めているような場合もあります。

画像1

 さて、Vketでは、開会時間とか閉会時間とか入稿締切とかポスター入稿とかイベントとかその他諸々、実に様々な時間を表示する必要があります。しかし、世界の標準時の種類は24を超えます。全部列挙していたら大変なことになってしまいます。

 すべては地球が丸いのがいけないのです。

 PTやESTなど6つ表示したり、JSTとUTCだけ表示したり、と試行錯誤の末、現在は「日本時間JST」「協定世界時UTC」「東海岸時間Eastern Time」の3つを表示する形式が定着しています。ちなみにニューヨークの時間は「東海岸時間」なのに、サンフランシスコの時間は「Pacific Time」つまり「太平洋時間」です。ややこしや。

 以下の画像は、Vket2021のお知らせの英語版です。JST、UTC、Easternで表示しています。ETでもよかったかも。

画像2

 たとえば、Vket系のイベントの開会時間は、多くの場合日本時間で午前10:00は、UTCでは午前1:00、冬のアメリカ東海岸時間では午後8:00です。……前日の。東海岸時間はUTC-5なので、UTC+9の日本時間から見ると「14時間前」になります。ComicVket2、MusicVket3の開会は11月6日の日本時間午前10:00ですが、東海岸時間では11月5日の午後9:00になるのです。
 ん?1時間ズレている…?

怪奇!夏時間の恐怖

 ただでさえややこしい時差の話をごっちゃごちゃにするのが「Daylight Saving Time」、つまり夏時間です。夏の間はアメリカなどの国々の時間が1時間早くなります。たとえば東海岸時間は、夏時間の期間だけは日本時間の「13時間前」になります。日本時間の午前10:00は、東海岸時間の標準では午後8:00ですが、夏時間の間は午後9:00になります。
 元々はエネルギー節約のために作られた制度。第一次大戦中のドイツやヨーロッパ諸国ではじまったもので、夏の間は陽が沈むのが遅いので、時計を1時間進めて早寝早起きするようにしようという試みでした。
 「夏時間」という名前ですが、だいたい3月から11月のはじめまで続きます。夏ってけっこう長いんです。2021年の場合は11月7日に夏時間が終わり、アメリカでは時計が1時間巻き戻ります。ここでいう11月7日というのはつまり日本時間の11月8日。
 ComicVket2、MusicVket3は11月6日スタートですが、その2日後に夏時間が終わってしまいます。夏時間の終わりがイベント期間内にぶつかると、ややこしさが天元突破します。開会時の時間は夏時間で計算して、閉会時は標準の時間で計算します。
 なお、EU圏の夏時間の終わりは10月31日です。アメリカと違うのです。

 ちなみに、東海岸の「夏時間」と「標準の時間」は、それぞれEDT(Eastern Daylight Time)、EST(Eastern Standard Time)と表現できます。この辺の話は複雑なので、Vketのグローバルチームに確認を取ったりしています。

「表現としては単に『Eastern』と書くのが無難じゃないかな。」
「あと、アメリカのすべての州や地域が夏時間を採用しているわけではないんだ。」
「たとえばネイティブ居住地は例外だし、ハワイやアラスカなどの州も夏時間は採用していない。」

 とのことでした。
 これに加えて、州によってはCentral Time Zoneが混在してくることもあるんだとか。カナダではアメリカの時間に合わせに行っていたりと、北米はなかなかに大変らしいです。

 それから、英語の時間表現でもう1つややこしいのが「正午」の表現。11:00は11:00 a.m.ですが、その1時間後の正午は「12:00 p.m.」で、そのさらに1時間後の13:00は「1:00 p.m.」だそうです。12:59 p.m.から1分経つと1:00 p.m.。これまたややこしいので、最近のVketのウェブサイト等では正午は「12:00 noon」、日付が変わるときは「12:00 midnight」と表現しています。

日本の朝はヨーロッパのお昼、アメリカの夜

 時差が厄介なのはメールやウェブサイトの記述だけに留まりません。海外の方が参加するようなイベント企画をやるときは、アメリカやヨーロッパからでも参加しやすい時間を選ばないといけません。
 日本時間の14:00は、EU圏(夏時間じゃない方)は午前6:00、アメリカ東海岸の冬の時間は深夜12:00です。イベントをやるには非常に辛い時間帯。日本時間の20:00にイベントをやろうとすると、EU圏(冬の時間)は午後2:00、アメリカ東海岸の冬の時間は午前6:00です。まだやっぱり、若干都合が悪いです。日本時間の23:00に設定すれば、EU圏(冬)は午後5:00で、アメリカ東海岸(冬)は午前9:00です。だいぶ参加しやすくなります。この辺のバランスを取った時間を考えないといけません。
 日本は自分で「日の出づる国」を名乗るだけあって、ユーラシア大陸のさらに東の端っこにあります。ですので、日本の朝は太陽が太平洋上にある時間帯ですし、日本の深夜は太陽が大西洋側に回っている時間帯になります。時計をぐるりぐるりと回していると、日本もヨーロッパもアメリカ大陸も都合が良い時間というのは結局、日本の朝か深夜のいずれかになってきます。海外参加者がいるようなイベントを朝の10:00とか夜の23:00とかにやっているのは、海外の都合も考えているためなのです。

 すべては地球が丸いのがいけないのです。

 その点バーチャル空間は良いです。
 平らです。
 ワールド内の端から端まで移動しても時差がありません。太陽のようにまばゆく輝くDirectional Lightの方向は、どこにいても常に一定です。
 ひょっとすると、人々がバーチャル空間の可能性に惹かれるのは、時差に悩まされないからなのかもしれません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?