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【TEALABO channel_15】「足元を見つめながら、価値観を広げ続ける」-株式会社製茶工房ちらみ 西野千洋さん-

鹿児島のブランド茶である「知覧茶」の作り手を直接訪ねて、その秘めたる想いを若者に届けるプロジェクト「Tealabo Channel」。

日本茶は全国各地に産地があり、各産地で気候や品種、育て方が違います。そんな違いがあるから「知覧茶」が存在します。一年を通して温暖な気候がもたらす深い緑色と甘みが特徴である知覧茶の作り手の話を皆さんにおすそ分けします。

第15回目は、『株式会社製茶工房ちらみ』の西野千洋さんにお話をお伺いしました。

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創業への不安

中学校時代、お兄さんが畑を開墾し、お茶農家として就農されたパイオニア精神に魅了され、茶業をやってみたいと思った西野さん。高校卒業後、一度は別の分野へ就職しましたが「茶業を手伝ってほしい」とお兄さんたちから声をかけられ、昭和54年に『西野製茶』の一員として加わることになります。

西野さんは経営側ではなく、元々茶業試験場の技師だったお父さんと一緒に製造側でお兄さんたちをサポートしていく立場で茶工場を30年程支えていきました。

しかし、時代の変化とともに、人手不足等の問題が浮き彫りになる茶業界。この状況では経営が難しくなるのではと感じていた西野さんは、個人農家が集まった形態で茶業ができないかと思い、自分の考えに賛同した仲間たち3人と創業することを決意します。

「このタイミングで新しい茶工場を始めるのは厳しいのでは?
「今からでも遅くないから考え直してみたらどうか?」

西野さんの想いとは裏腹に周りからは心配の声ばかりで、次第に創業に対して不安に気持ちが大きくなっていったといいます。そこで、息子さんが研修生として学びに行っていたお茶の生産地でもある静岡へ、足を運ぶことにしました。

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まずは一歩踏み出すこと

静岡では若手のお茶農家さんが集まる研修会に参加。そこで西野さんは、前向きな考え方や取り組みをしている多くの若手農家さんに出会うことができました。

「すごい。俺は何をやっているんだ…。悩んでいないで、もっと勉強や行動をしないと。世の中には俺の知らない世界がたくさんあるんだな。俺が見ていた世界はまだまだ狭かったんだ。

それまで知覧から出る機会が少なかった西野さんにとって、研修会で出会う若手農家さんたちとの出会い1つ1つが非常に刺激になったといいます。

その時に一番学んだことは「まずは一歩踏み出すこと」

「「不安だから何もしない」ではなく「まずは一歩踏み出す」ことで道が切り拓けるのではないかと思うようになりました。今の会社の経営や色々な取り組みができているのは静岡で良き出会いがたくさんあり、そこで一歩踏み出す大切さを教えてもらったからです。」

その1年後、『株式会社製茶工房ちらみ』(以下:ちらみ)として創業することができました。

西野さんは創業後から行ってきた事があります。それは、富士山へ登り山頂の郵便局から鹿児島のお茶屋さんに、封筒にお茶を詰めて送ること。きっかけは息子さんが静岡でお世話になっていた方から勧められたことからでした。

最初の1〜2年は会社が無名だったこともあり全くリアクションは無かったそうです。しかし、3年目以降になると、茶市場に行けば制服に書かれた会社名を見て「“ちらみ”さんですよね。いつも美味しいお茶を送ってくださる方ですよね。」と声をかけてもらうようになります。

西野さんにとって静岡で過ごした時間は、その後の道を切り拓く大きな転機となったのです。

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お茶に触れることは特別ではなく、普通

“ちらみ”ではお茶摘み等の農業体験を行っています。きっかけは創業1年目に地元の保育園の先生から相談があったことからでした。年長の子たちにお茶の苗を植えてもらい、その後、彼らが小学校5年生になったらその苗で育ったお茶の葉摘みをする。そのような体験してもらったといいます。

そこから口コミで農業体験に関する評判が広がっていきました。今では霜出小学校での恒例行事にもなっているそうです。これから体験する予定の児童からは「楽しみ」「早く体験したい」と嬉しい声も。

その取り組みの背景には「子供たちにお茶を好きになってもらいたい」という西野さんの想いも込められていました。実際に自分たちの手でお茶を摘み、「美味しい」と飲んでもらうことで故郷・知覧のことを自慢してもらいたい。

それが色々な人に広がっていくことで知覧茶を気軽に飲んでもらえる人が増えてほしい。そのために、子供たち自身にお茶の製造の一部を体験・体感して、お茶を身近に感じてもらうことが大事だと考えるようになったのです。

「小学校の頃、お茶摘み体験で機械に乗ったんだよ。」
「お茶の淹れ方はこうするんだよ。」

そのような感覚を持つ子供が一人でも増えることで、お茶に触れることは体験という特別ではなく、日常生活の中で触れるという普通になるのではないか。西野さんはそのように考えています。

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固定観念を持たないからこそ

知覧では、家族経営や同じ地区の人たちが集まる組合経営がほとんどです。“ちらみ”では、他の組織と違い、知覧の様々な地区のお茶農家が9組集まった形で経営しています。知覧でも地区によって考え方等も違うので、そのメンバーを取りまとめるのは大変なのではとよく言われるそうです。

「色々なタイプの仲間が集まることで、他の組織にはない色を出せるし、それが会社の特徴でもあり強みになると思うんです。」

「メンバーには「とにかくやってみよう」と伝えています。ダメなら同じことを繰り返さないように改善すればいいし、良かったら継続できるように更に精進していけばいい。

また、西野さんは日々の情報に対して常にアンテナを張っています。お茶の栽培法や販売法等、時代の流れと共に変化していくので、固定観念を持たないようにしているそう。

最近だとメンバーから「お茶の小売に力を入れたい」と声があったので、会社全員で流通部会に入り、勉強を頑張っていると話されていました。

「今までやってきたから」と現状に満足せず、自分と違った周りの考え方や声、そして時代の変化に柔軟に対応する姿勢の西野さん。だからこそ、今いるメンバーと歯車を合わせながら“ちらみ”を経営できているのかもしれません。

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足元を見つめながら

最後に西野さんにとって原点となる茶畑へ案内してもらいました。現在63歳で写真の場所は40歳の時に生まれて初めて持つことになった畑になります。

“ちらみ”を創業するまでは中々外の世界を見たり触れたりすることができなかった西野さん。創業してからは、この畑を起点に栽培面積や販路、交流関係を広げていったので思い入れのある場所だと話されていました。

インタビュアーから「気になる産地はありますか?」と質問があった時のこと。

「知覧では整備された綺麗な土地でお茶を作らせてもらっていますが、県外では産地によっては危なそうな地形で作っているエリアもあります。」

「青森のリンゴ農家さんの農園へ行ったことがあるけど、リンゴの木から1つ1つ手でたくさんのリンゴを収穫すると聞きました。でも、お茶は機械でビューと収穫するのでリンゴとは労力が全然違います。今置かれている状況に文句を言っている場合じゃないですよね。」

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創業されてきてから西野さんが見てきた世界は、ご自身もですが、一緒に働いている会社のメンバー、地元の子供たち、“ちらみ”に触れてきた人たちの既存の概念から外へ一歩踏み出すきっかけを作ってきたように感じました。

常に足元を見つめながら価値観を広げ続ける西野さん、そして、“ちらみ”の皆さん。また次回お会いするときは、私たちの想像していない、枠からはみ出した何かが始まっているかもしれません。

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【プロフィール】
西野 千洋(ニシノ チヒロ)
1958年南九州市知覧町生まれ。地元の高校卒業後、一度は別分野へ就職するが、昭和54年に兄の経営する茶業に携わる。時代の流れに対応した経営を自分でしたいとの思いから、同志と共に平成20年株式会社製茶工房ちらみを創業。会社代表として63歳となる現在も現役として奮闘中!!!

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