都立国立高校 推薦入試 令和4年大問2(理系)の設問に関する補足

この問題は、混乱した受験生も多かったと思います。なぜなら、必要な条件(前提)が提示されていないのです。もし、純粋に論理的な思考力や基礎的な理系の力を測るのであれば、少なくとも次の項目に関する説明を加えるべきです。

●人間が必要とする”空気の量”
本問では地上における呼吸において必要な空気の量は書かれています。しかし、ダイビング中のものは書かれていません。「同じだって分かるだろう」というのは、あまりにも乱暴な意見であり、根拠に基づく思考をすることを求めるのが入試です。

● 呼吸で必要なのは「酸素分子の量(物質量(mol))」なのか「空気の体積なのか
中学生の範囲であれば、呼吸により酸素が吸収され、二酸化炭素を排出することは知っています。また、全ての酸素を消費するわけではありませんが、だからといって少ない酸素でよいわけがありません。この問題では、早い段階で、空気の分圧の説明の際に、「酸素のみ」のケースに触れています。
これは、空気だけでなく、酸素に着目することを必要性を示唆しています。もし、そうでなければ、何らかの条件を課すべきでしょう。

● 容積が変化しないタンクについて
この問題は高校で習う状態方程式(気体に関する式)を前提にしています。条件には「温度」について言及があり、一定であることが”あえて”説明されています。

PV=nRT(P:圧力、V:体積、n:物質量、R:気体定数、T:温度)
このタンクでは、V、R、Tが一定ですから、
P=kn(kは比例定数)とまとめることができ、タンク内の分子量(厳密には物質量(mol))で圧力が変化します。よって、消費されるごとにタンク内の圧力が変化します。

使用するほど、内部の空気が減り、圧力は小さくなります。その使用が連続的なものと仮定すると、高校の数学で扱うような関数になるはずです。もちろん、それを出題するはずはありませんが、「見る順序などは考えなくてよく」というところが予防線だったのかなとも思います。

しかし、です。人間が一回の呼吸で消費する物質量、少なくともそれを推論するヒントはありません。さらに、タンクから空気が出たときに、それが水深○mのときにどう変化するのか記載がありません。これを推論させることは、暴論です。論理力を問うべき問題で、根拠のない思いつきで解かせるのはふさわしくありません。

今回のポイントは「すべて地上で必要な空気の量に換算する」こと、でした。むしろこれ以外に解く方法がありません。しかし、私は上記のことを考えた上で「中学生が」解ける要素を考えた上での判断です。

では、本問ではどういう条件を課すべきだったのか。私が思うに、次のことに言及してあげるだけで、時間内に解ける問題設計になったはずです。

「人間が地上で呼吸するときの同じ体積の空気が必要です。水圧で肺がつぶれないようにするためです。つまり、地上で10Lが必要なら、水中でも同じ体積が必要になります」

私はダイビングをしたことがありません。そこで、調べたところ上記のような記載がありました。これで合点がいきました。この説明があるだけでかなりスッキリと解くことができます。この条件があれば、

1分間に必要な空気の体積を「地上で測定した場合の体積」で考えます。例えば水深10m地点では、圧力(水圧)が地上の2倍となるため、必要な空気の量は2倍になります。(ややぼかし気味のヒント)

これで、小学生でも解ける問題になります。

こういうとオーバーな表現と思うかもしれません。ですが、大げさではなく、難関都立中では、もっと難しい問題が出題されています。

補足は以上になります。

普段は、批判めいたことは言わない、書かないようにしています。国立高校には多くの教え子が進学しており、みんな国立高校に対する愛校心が強いです。

それを知っているのですが、日々苦労している受験生やご家庭のことを考えると、言わざるを得ないと思います。何よりも都立御三家である名門校として問題としては残念に思います。なお、他の都立名門校では、このような誤読を誘うものではなく、しっかりと理系的な視点で思考力を必要とする問題が出題されていることを付しておきます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?