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幻想体・ねじれの大罪属性に関する考察②燃え尽きた少女編

序論

Project Moon作品に登場する幻想体は、シリーズオリジナルの背景ストーリーを持っているものと古典的な童話や伝説にモチーフを持っているものの二つに大別される。その中でも燃え尽きた少女は、童話にモチーフを持つ幻想体の中で、レガシー版『Lobotomy Corporation』から最新作『Limbus Campany』まで登場している幻想体である。今回はこの燃え尽きた少女の大罪属性について、モチーフである『マッチ売りの少女』との関係を含めて考察する。なお旧翻訳版の名称に「マッチガール」があるが、本稿では新翻訳版の名称「燃え尽きた少女」に統一することにする。

本論

燃え尽きた少女の特性

燃え尽きた少女は『Lobotomy Corporation』(現行版・レガシー版)、『Library of Ruina』に登場し、『Limbus Company』においてもE.G.Oの抽出元として言及される幻想体である。黒く焦げた炭でできた少女のような外観を持ち、胴体はマッチ棒が貫いている。マッチ棒の先には火が灯っており、彼女の機嫌に応じて大きさが変化する。

燃え尽きた少女の肖像

『Lobotomy Corporation』では脱走すると特定の職員に向かって一直線に進み、爆発して致命的なダメージを与える。この最中周囲の職員には無反応で、攻撃に対して反撃することはない。作業適性は現行版では洞察>抑圧>本能>愛着、Legacy版では暴力>栄養>清潔>交渉>娯楽となっている。

E.G.Oは「4本目のマッチの火」で、『Lobotomy Corporation』では大砲型、『Library of Ruina』『Limbus Company』では剣型をしており、共通して一撃で大きなダメージを与えるデザインがなされている。

ここから燃え尽きた少女の罪悪属性を推測する。最初に目に付く炎の特徴は典型的な憤怒属性の特徴であり、彼女の属性が憤怒であることを視覚的によく表している。また攻撃やE.G.Oに表れている、爆発・噴出・一撃が大きいといった特徴も、憤怒属性の特徴として明示的である。これは『Limbus Company』の憤怒大罪の観測情報に詳しい。

鋭そうな口を人の身体にブッ刺して…その赤い水を身体に入れてくんだよ!(中略)それを受けたヤツらの何人かは爆発したんだが、出来ることならオレは経験したくねぇな。

Limbus Company

しかしゲーム内の記述にはあまり直接的な怒りはみられない。そのため他の観測情報から憤怒属性と燃え尽きた少女の本質的な特徴との関連性について考察していくことにする。

燃え尽きた少女のバックストーリー

燃え尽きた少女の観測情報において、炎に関連付けられた記述として、以下の一文が特徴的である。

子供の焦げた体は壊れた希望を表し、燃え続ける炎は愛情への強い渇望を表しているようだ。彼女の心は、現在でもこの二つに振り回されていることは明白である。

Lobotomy Corporation

ここから、憤怒属性の特徴としての炎と、愛情への渇望が強い関連性を持っていることが分かる。

幻想体ページ「マッチの火」

ここで、Legacy版Lobotomy Corporationの最終観測の文章に注目する。この文章からは憤怒と愛情への渇望の2つが相互に作用しあっていることが推測できる。

おそらくあの煌々と輝く火は、私の体を飲み込んだことに対する対価だ。

Lobotomy Corporation (Legacy)

ここで言う「あの煌々と輝く火」は、刻み込まれた温もりの対価として燃え盛る怒りという解釈と、己が身を焼く苦しみの対価として希望を抱かせる温もりという解釈が可能であり、互いが補完的な関係にあると言うことができる。すなわちこの2つが表裏一体の関係にあり、燃え尽きた少女の感情に応じて容易に反転しうるという関係にあることを意味している。

裏付けとしてもう1つ最終観測から取りあげたい。

炎が私の全てを燃やし尽くし、灰になったとしてもあなたは私のことに気付いてほしい。

Lobotomy Corporation (Legacy)

前段で「あなた」は燃え尽きた少女を遠くから見ていると記されているが、この一文で燃え尽きた少女は「あなた」に気付いてもらうことを希望しているとわかる。彼女を焼いている炎は彼女の怒りの表れではあるものの、その光が遠くの星や灯台の明かりとしてでも、「あなた」に気付いてもらえることは彼女にとって希望なのである。ここからも、彼女の怒りと愛情は、表裏一体の関係にあることがわかる。

燃え尽きた少女とマッチ売りの少女

最後に元となった童話『マッチ売りの少女』との関係を整理しておく。『マッチ売りの少女』はH.C.アンデルセン作の童話の一つで、ある年の大みそかの夜を舞台としている。主人公の少女は大みそかの日の朝からマッチを売りに出たものの、一つも売れずに日が暮れてしまう。父親からの暴力から逃れるため、帰宅せずに家屋の隅に縮こまって過ごすことにする。寒さを凌ぐためマッチを取り出して点けると、炎の中にストーブや豪華な食事、クリスマスツリーの幻を見る。最後に優しかった祖母の幻を見ると、少しでも長く祖母といようと持っていたマッチをすべて燃やし、幻の方へ手を伸ばす。少女は祖母の幻に抱かれ、神の元へ召される。翌朝少女は凍え死んでいるのが見つかるが、その表情はとても幸せそうであった。

A. J. Bayesによる挿絵 (1889)

原典との明確な関連性としてE.G.O「4本目のマッチの火」が挙げられる。原典において4本目に燃やしたマッチに現れた幻は少女の祖母の幻である。これより燃え尽きた少女にとってもこの「祖母」は重要な存在であり、観測中に現れる「あなた」と同一の存在であることが強く示唆される。

一方で魂が神の元に召されつつ、肉体は凍え死んでいた原典と異なる点として、燃え尽きた少女は炎に焼かれて死んでいることが挙げられる。幻想体のストーリーとしてラストは明示されてはいないものの、救済があった描写は見られない。ここから、原典と幻想体との間にある分岐点を考えた場合、幻の中の「祖母」から手を受けとめてもらえたかどうか、という点が分岐点になると思われる。また幻想体としての少女はこの受け止められなかった愛情への渇望が怒りへと反転して現れており、存在への原動力になっているのだと考えられる。

結論

本稿では燃え尽きた少女の大罪属性について考察した。その属性は憤怒属性であることが考えられ、Limbus Companyで表されている炎との関連性に強く一致するものであった。またこの憤怒は愛情への渇望と表裏一体のものであることが示された。原典の童話とはラストにつながる展開に相違点があり、幻想体としてのストーリーはこの点から膨らませていることが示された。

補遺

燃え尽きた少女の大罪属性の候補としてもう1つ挙げられるのが嫉妬属性である。嫉妬属性は『Limbus Company』で大罪として登場していないため、考察が難しい部分があるが、燃え尽きた少女については比較的明示的であるため、ここで取り上げておく。

特徴的な記述はLegacy版最終観測にある。

今までずっと苦しかった、これからもずっと苦しいのだろう。
なのに、なぜあなたはまだ幸せなの?

Lobotomy Corporation (legacy)

ここで表れている感情は明確に嫉妬感情である。そのため、燃え尽きた少女の構成要素として、嫉妬の罪が大きく含まれていることが支持される。

ここで嫉妬属性について深掘りしておく。最終観測ではこの後「あなたが苦しんでるのを見たい」と続く。これは嫉妬というよりは、憎悪や敵意、害意といった方が適切である。しかしながらこの一文につながっていくことは、嫉妬と憎悪が非常に深い関係にあると考えられる。そのため憎悪と嫉妬属性の関連性は、今後の考察において重要な役割を果たすことが期待できるのである。

画像出典
ゲーム内画像の権利はproject moonに帰属します。

マッチ売りの少女の挿絵:A.J. Bayes; - A.J. Bayes, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=9090215による


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