【Singer-003】明日をかけて〜壊れそうな僕の心の「メイクルーム」〜※歌詞付き
どれくらいの駅を過ぎれば 窓の僕は笑うのだろう
プラットホームの白い光が 寂しくこの瞳に映る
(【Song-006】明日をかけて)
学生の頃、車を持っていなかった僕の移動手段は電車だった。また、僕にとって電車は遠くへ運んでくれる「乗り物」以上の役割を果たしていた。
僕の生まれ育った故郷は茨城県の片田舎。東京の自宅から実家へ帰るときに上野駅から乗る常磐線。今は少し変わってしまったかもしれないが、ブロック席があり、車窓のところへ肘をつきながら、ぼんやり窓の向こうと、窓に映る自分とを重ねながら、ゆらりゆらり帰るのが好きだった。
あれだけ沢山の人が乗り、すれ違う電車の中で、僕は「一人」になることが出来た。
窓に映る自分の顔を確認しながら、向こうに見える景色と自分の顔をなじませながら”実家用の顔”を作っていく。その顔とは”親を心配させない顔”だ。
「全然大丈夫」
と、口に微笑みを含んだ顔。今思えば母にはバレバレだったのかもしれないが。
そして、実家から東京へ帰るときの電車では、だんだんと田舎から都会へ移り変わる景色に、車窓の自分をなじませながら、今度は”よそ行きの顔”を作っていく。
アダルトチルドレンの僕にとって電車は”降りて会う人達用の顔”を作るための「メイクルーム」だった。
だから、ほんの少しの時間だけど、電車の中だけは「素顔」に戻れた。
このままどこかに行けばいい 期待とも言えぬこの想い
握りしめた切符を見つめ 青いシートに深く座るよ
友とすれ違い、悔し涙を流して「何が伝わらなかったのか」を考えながら帰る電車。
仲間とふれあい、嬉し涙を浮かべて「何が伝わったのか」を噛み締めながら帰る電車。
恋人と出逢い、その人の笑顔を思い描いて「何を伝えたかったのか」を思い倦ねて帰る電車。
自分に立ち返れる電車、その空間は心の「休憩室」であり、
”過去”と”未来”
”現実”と”理想”
”嘘”と”真”
を繋ぐ「ワームホール」だ。
降りて行く人の笑顔に 僕は何故に不満なのか
決して消えないあの傷に 僕は何を怯えてるのか
気持ちの切り替えが苦手で、つい引きずってしまう僕。
心の表情が上手く隠せず、顔に出てしまう僕。
そんな僕にとって、この「時空」はとても重要な場所である。
ここまで書いて、ふと思い出したことがある。それは二つの夢だ。しかも、どちらも”電車にまつわる夢”だ。
1つは、「正義の喜劇王チャップリン」が晩年、母国アメリカから亡命し、傷ついた心を癒し、終生その場所を愛したという、スイスのレマン湖の辺りを登山列車で旅をするという夢。
2つは、行き先は国内でも海外でもどこでもいいので、寝台特急に乗ってどこかに旅してみたいという夢。
もともと出不精な僕は、旅が好きではなかった。が、「母の遺言」の答え探しの旅に、ギターを背負って出発してから、沢山の人々との出逢いを経験させてもらった。
その”出逢い”が”思い出”になり、
その”思い出”が電車の”ひととき”を楽しくさせ、
その”ひととき”が僕を”旅好き”にさせた。
次の駅で降りてみよう そこにはきっと…
あてもない旅路だけど 今よりきっと…
車に乗るようになった今、余程の遠出ではない限り、僕は電車に乗らなくなってしまった。それでも、僕にとって電車はいまだに、大切な「時間」だし、特別な「空間」なのは、これからもずっと変わりはしないだろう。
だからこそ、僕はいつかまた”明日をかけて”あの電車に乗るに違いない。
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