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【Mother-000】母の遺言〜人持ちになれ〜

 「20歳まで生きられない」と医者に言われて生まれた母。そんな母親が、僕を産んでくれたのは40歳の時だった。そして62歳の時、末期の肝硬変で倒れ、入院して1ヶ月で亡くなった。僕が22歳の時だ。

 母は常々大好きなビールを飲みながら僕にこう語った。

「人生100歳までだとしたら、人は50歳から一人で歩き始めるんだ。そうすると、それまでの飲み仲間や仕事仲間、趣味仲間はみんな離れていく。何故か分かるか?話が合わなくなるのさ。みんな嫌でも折り返し地点過ぎるとゴール、つまり”死”を意識し始める。”どう生きるか”を考えてきた人生から”どう死ぬか”を考え始める。」

 こう始まると僕は、心のなかで、ああ、また始まった…これで13回目だ…とつぶやく。そんな僕のことなどお構いなしに母親は話を続ける。

「だけどな〜ひろぼ、そんな一人歩きの人生でも死ぬまで離れない”人”がいるんだ。それは50歳までに”生命と生命のぶつかり合いをした人”だけなんだ。」

※ここで念の為に「50歳までに」と母が言ったのは事実だが、僕が今思うに、「最後を意識した付き合い」をすることが大切なのだと思う。そういう意味では50歳を過ぎても、出来る付き合いであることをここに追記させていただく(6月7日)

 そしてここまで聞くと次に続く言葉は決まっていた。

「ひろぼ、金持ちの時代は終わった。これからはそういう”人”を何人つくれるかで残りの人生決まるんだぞ。おまえは金持ち以上にそういう”人持ち”になれ。」

 母が亡くなって約10年が過ぎた。時が経つほど母が言っていた”人持ちになれ”という言葉の”重み”が分かってきた。

 昨今大ヒットしているアニメや映画、ドラマ、音楽の共通するテーマはみな「絆、チーム、仲間の大切さ」だ。それだけ皆、孤独を感じてるのかもしれない。

 とりわけ最近、僕がハマった闇金関係の漫画に出てくる不幸な人たち。彼らの1番の不幸も共通している。それは孤独である以上に”孤立”している。”誰からも必要とされていない”のである。

 当時は酔っぱらいの戯言のように聞き流していた母の言葉。しかし死に目に会えなかった悲しさもあり、また、母親にろくに親孝行も出来ないうちに先立たれてしまった悔しさもあり、気が付くと母親が残してくれた言葉の意味を探す旅に出ていた。そしてその意味が分かるほどに生きていく上での重要さが増して行く。

 これから書く出来事はそんな母から頂いた、なぞなぞにも近い遺言の答え探しの旅日誌である。

 そして母から教えてもらった大切なことを、これから自分が出会う人達へ伝えていくことが、亡き母に対し”これから出来る親孝行”だと信じ、これからここに書き留めてみようと思う。

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