2020年11月8日「風をよむ~大統領選から見えたもの」
当選確実としたのは、民主党のバイデン氏でした。
史上まれにみる接戦となったアメリカ大統領選。
投票者数は、およそ1億6千万人に迫り過去最多。
投票率も66.4%とおよそ100年ぶりの高い水準に達するとみられています。
ところが、そうした“民意”に対して…
トランプ大統領「我々は連邦最高裁で争う。すべての票を止めるよう求める!」
現職の大統領が、選挙に疑問を投げかけ、支持者たちも開票をやめるよう訴える異例の事態となるなど、アメリカが揺れています。
ペンシルベニア:トム・ウルフ州知事「民主主義のプロセスを妨げようとする、こうした企ては恥ずべき事。有権者の権利を奪おうとするすべての企てと我々は戦う」
「自由」と「民主主義」を掲げるアメリカで、民主主義の根本的制度である「選挙」が否定されかねない今の状況。なぜ、こんなことが起きているのでしょうか。専門家は・・・
五野井郁夫教授(高千穂大学:民主主義論) 「『票を数えるのをやめろ』なんていうのは、まさに民主主義の破壊。 民主主義の弱い部分につけ込んで破壊している。しかし今、アメリカのみならず世界中で、民主主義というものがどんどん後退してって、非常に弱くなっている」
今、世界中で後退しているとされる「民主主義」。それを裏付けるデータがあります。
今年、スウェーデンの調査機関が発表した報告書によれば、現在世界に「民主主義の国・地域」は87、片や「非民主主義の国・地域」は92を数え、人口でも54%に上るなど、18年ぶりに非民主主義の勢力が上回っています。
また、世界人口の3分の1、およそ26億人は、独裁や専制などの権威主義のもとに暮らしているといいます。
その調査報告書の中で2018年、非民主主義国に逆戻りしたとされた、ハンガリー。オルバン首相は以前から、こう断言しています。
ハンガリー:オルバン首相「民主主義は、自由主義である必要はない」
選挙という民主主義の制度によって2010年に発足したオルバン政権。ところがその後、選挙制度を自分に有利に変えたり、批判的メディアを弱体化させ圧力を強めるなど、独裁体制を固めつつあります。
また、8月から反政府デモが続くベラルーシでは・・・
ベラルーシ:ルカシェンコ大統領「もし、私が民主的な、フワフワした態度をとったらこの国を失ってしまうだろう」
大統領選での不正得票の疑いがあるにもかかわらず、司法を牛耳り、強権政治を進める、ベラルーシのルカシェンコ大統領。国際的批判を浴びながらも一歩も引かない構えを見せています。
さらに近年、イタリアやドイツなどEU諸国の中で、排他的なポピュリズム政党が急激に躍進。
また、ブラジルのボルソナロ大統領や、フィリピンのドゥテルテ大統領など、強権的・独裁的な政治を行うリーダーが増えています。
選挙という民主主義の制度で選ばれた国民の代表が、民主主義を自ら後退させている矛盾。なぜなんでしょうか・・・。
五野井郁夫教授(高千穂大学:民主主義論) 「そもそも民主主義というのは、議会でじっくりと議論をして、合意を積み重ねていくというプロセス。だけれども、格差社会が広がって余裕がなくなってくると、待てないという人が出てくる。面倒臭くなって、耐えられなくなって、政治がどんどん『ファスト化』している。そうすると、強い意見だったり、威勢のいい主張が正しいんじゃないかと思ってしまう。まさに、民主主義の危機そのものに直面している」
そして、こうした民主主義の危機が象徴的に表れたのが、今回のアメリカ大統領選だと言います。
支持者「We Love You! We Love You!」トランプ大統領「レーガンは愛されたけど、こんなこと言われてないはずだ!政治史上初めてだ」
選挙結果を見ても、過激な発言を繰り返すトランプ大統領を、多くの国民が支持したのもまた事実。こうした傾向が、今後さらに深刻化する危険性を示す研究もあります。
アメリカの政治学者ヤシャ・モンク氏は、著書の中で、アメリカでは若い世代ほど、「民主主義のもとで生きる」ことに価値を見いだすという人が減っており、また、すべての世代で、「権威主義体制」を求める傾向が強まっているといいます。
5日、バイデン氏はこう語りました。
民主党・バイデン氏「民主主義は、ときに手間のかかるものです。それは、しばしば忍耐を要求する」
世界のあちこちで正念場に立つ「民主主義」。今後、それはどこへ向かうのでしょうか・・・。
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