1216_風10

2018/12/16 風をよむ「今年のノーベル平和賞」

10日、スウェーデンのストックホルムで行われたノーベル賞授賞式。日本の本庶佑さんの医学生理学賞受賞が話題となりました。

その一方で、同じくノーベル賞を受賞した、この二人のことは…?

(街の声)「知らないなぁ、どこかの大統領?」「あれ? 見たこと…どなたですか?」

分からない、と答えた人も多かったようですが…ノルウェーのオスロで行われた、ノーベル平和賞の授賞式に登場したのが、先ほどの二人でした。

コンゴ民主共和国の産婦人科医、デニ・ムクウェゲ医師。そして、もう一人は、紛争地帯における性暴力と闘う、イラク出身のナディア・ムラドさんです。

2人の授賞理由は「戦争の武器としての性暴力」の終結に向けた努力。今なお多くの女性が、戦争や紛争のさなか、性暴力の被害に苦しむ現状を訴え、その救済のための長年にわたる活動を讃えたのです。

ムラドさん「グローバル化と人権が叫ばれるこの21世紀という時代において、6500人以上のヤジディ教徒の子どもや女性が捕らわれて売買され、性的にも心理的にも虐待されています」

ムラドさんは、イラク北西部に住む少数派ヤジディ教徒。過激派組織 「イスラム国」に連れ去られ、性奴隷にされたと被害体験を証言し、性暴力の根絶を訴えてきました。

そして、もう一人の受賞者、ムクウェゲ医師は、虐殺や略奪が続くコンゴ民主共和国の現状を訴えます。

ムクウェゲ医師「レイプ、虐殺、拷問、広範囲な社会の不安定、教育機会の甚だしいほどの欠如は、過去にないほどの暴力の連鎖を生み出しています」

コンゴ民主共和国東部では1990年代から、政府軍と武装勢力の戦闘が続き、女性に対する人権侵害は世界最悪レベルといわれます。ムクウェゲ医師は、特に治安の悪い地域に病院を設立し、これまで5万人以上の性暴力の被害者に寄り添ってきました。

被害者「助けて。とても苦しいの…」

ムクウェゲ医師によると、被害者は、成人女性だけではなく、子どもや、1歳の幼児まで、非道な暴力にさらされてきたといいます。

ムクウェゲ医師「彼女たちは皆、過酷な境遇に苦しんでいる。家族から見放され、夫に逃げられたものもいる。深い傷を負い孤独な自分と向き合っている」

今回、改めてその残酷さが訴えられた「戦争の武器としての性暴力」国連難民高等弁務官事務所の職員として、コンゴ民主共和国で難民保護にも関わった米川さんは…

米川正子さん(立教大学・特定課題研究員) 「そもそも武器っていうのは人を殺す、破壊するために作られたものですけれど、性暴力も、同じ目的で使われている。性的要求を満たすために行われる行為だという認識があるかと思いますが、それだけではなく、精神的に恐怖を植え付けるという目的がある。被害者一人だけじゃなく、その家族、コミュニティに対しても、かなりダメージを与えるという意味で、影響力、破壊力がある、そういう武器なのです」

「武器」として使われる「性暴力」。それが今、世界に広がっているのです

ナディアさん「数十万人、いや数百万人の子どもや女性が世界中で迫害や暴力に苦しんでいるのです。シリアやイラク、イエメンの子供たちの叫び声が聞こえてきます」

紛争地で見られる、女性や子どもたちへの深刻な性暴力…。

多くの女性が、性奴隷として売買されたイラクでは、「イスラム国」が壊滅した今も、3千人以上が行方不明となっています。


また、ミャンマー西部で生活する少数民族ロヒンギャは、虐殺や暴行を逃れて、隣国のバングラデシュに大量に避難。70万人に上る難民の中には、性暴力による被害が、深い心の傷となっている人が、数多くいるのです。

「性暴力」による被害の深刻さについて、米川さんは…

米川正子さん(立教大学・特定課題研究員)「ムクウェゲ医師は『性的テロリズム』という呼び方をしてるんですけども、性暴力は、女性の機能を壊す、出産できなくするという目的を持っている。人口減少するとその地域を益々支配しやすくなる。もう一つは、性暴力ですと、なかなか証言する人も少ないですし、実体が見えにくい」


ノーベル平和賞を受賞した2人は、改めて「性暴力」の悲劇に目を向けるよう、世界に訴えました。

ムクウェゲ医師「この問題は手術室では解決できないと私は思い至りました。こういった残虐な行為をもたらす、根本的な原因と闘わなければならないのです」ムラドさん「不正義や抑圧と闘うために団結し、一緒に声を上げましょう。暴力にNO、平和にYESと―」


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?