風_27

2018/12/02 風をよむ「自動車産業の現状」


28日、アメリカ・ロサンゼルスで開幕した自動車ショーで、日産自動車は新型モデルを披露。しかし、駆けつけたメディアの注目は…

記者「ゴーン容疑者逮捕の影響は?」

もっぱらゴーン容疑者逮捕に集中。たまりかねた広報担当者からは…

広報担当者「新モデルへの質問は? 他の質問は受け付けませんよ」

いまだ広がる“ゴーン・ショック”の波紋。ゴーン容疑者逮捕から10日たった29日には、日産自動車、ルノー、三菱自動車の3社連合トップによる協議が行われ、コメントが出されました。

「3社は“アライアンス(提携)”の強い結束を維持する。引き続き“アライアンス”の取り組みに全力を注いでいく」(3社コメント)

“アライアンス”=提携の重要性を強調した3社。背景には、自動車産業を巡る大きな変化がありました。

1908年、T型フォードの大量生産によって、本格的にスタートした自動車産業。20世紀の製造業の中心的存在として、各国メーカーはしのぎを削り、その国の経済を支える産業に成長します。

その後、東西冷戦の終結で、自動車のマーケットは世界規模に拡大。メーカー同士の合併・吸収など世界的再編が起こります。さらに、2008年のリーマン・ショック以降、金融危機が訪れると、経営の再建や合理化などのため、その動きはより加速したのです。

ドイツを代表するメーカー「ダイムラーベンツ」と、アメリカ・ビック3のひとつ、「クライスラー」が合併。

この合併が解消されると、イタリアの「フィアット」が「クライスラー」を統合します。

また高級車の代名詞、イギリスの「ロールスロイス」はドイツの「BMW」の傘下に。

さらにスウェーデンの「ボルボ」は中国メーカ-の傘下。

イギリスの「ジャガー・ランドローバー」は、インドの「タタ自動車」の傘下に入ります。

世界を股に掛けた自動車メーカーの変遷について、街で聞くと、

(街の声)「何でロールスロイスがイギリスで生まれたかとか、それなりの 理由があって生まれたわけだけど、今はそういう垣根がないから」「昔みたいな遊び心がないのがね、今のデザインなんで、つまんない感じはしますね」「個性が失われているのは事実ですよね。どこでも受けるような車を作ることに、経営は向かうんでしょうね」

聞かれたのは辛口の声…。その背景について専門家は…

経済ジャーナリスト:井上久男氏 「統合によるコスト削減、 単に効率だけを求める。これではお客さんに見放される。一番最たる例が、ドイツのダイムラーベンツとアメリカのクライスラーの合併なんです。規模の利益を追求する、グローバルな補完を追求しようということで、一緒になったんですが、哲学が違う会社。その辺が全く合わずに離婚した」

さらに今、自動車産業は「未曾有の変革期」を迎えているといわれます。

電気自動車や、AI=人工知能を使った自動運転技術の開発のため、業種の枠を越えた合従連衡が進み、連携先はグーグルなどIT企業から、配車サービス企業まで。もはや1社で全てまかなう「自前主義」は過去のものとなりました。

日本でも10月、自動運転のクルマを使った、新しい移動サービスの実現に向けて、トヨタとソフトバンクが、提携を発表。

トヨタ・豊田章男社長「トヨタが車を作る会社であった時には実現しな かったソフトバンクとの提携が、必要不可欠なものになっていたのです」

ところが今、その自動車産業を翻弄する、新たな波が…

1990年代、貿易摩擦の象徴として国と国との矢面に立たされた自動車産業。そうした国と自動車産業との関係が、今新たな局面を迎えています。

26日、アメリカのGM=ゼネラル・モーターズが5つの工場の生産を停止し、1万5千人近くの従業員を削減するリストラ策を発表。削減した人件費などを電気自動車や自動運転の開発にあてるとしたのです。しかし…

トランプ大統領「オハイオに工場を建て直すべきだ。GMに、どんどん圧力をかけ続ける」

トランプ大統領はGMに強い不満を示し脅しともとれる発言を。さらに…

高い失業率などで国民の不満が政府に向けられるフランス。30日、マクロン大統領は安倍総理と急遽会談し、ルノーと日産の関係を巡り、ルノー優位の連携維持を訴えたといいます。

一国の大統領が、相次いで特定の自動車メーカーの経営に口をはさむ現状を、専門家は…。

経済ジャーナリスト:井上久男氏 「自動車というのは、国力を象徴する産業。失業率や税収などにも影響を与えてくるので、自国の経済優先主義、経済ナショナリズムいう観点から取り込もうと大きなターゲットしている。こういう政府の意向が民間企業に働いて混乱を招くことは、ルノー・日産の問題だけでなく、他メーカーにも十分起こりうる」

自動車産業は、過熱する経済ナショナリズムに翻弄されています…

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