中国芸能界への第一歩は 大学受験?
【ホット検索ワードから見る中国 vol.5】
ドキュメンタリー監督 竹内亮
中国版Twitter“微博(ウェイボー)”で話題になっているホット検索ワード“热搜(rè sōu)”をもとに、「中国の今」を紹介していきます。
今回のホット検索ワード「中国の芸能界」
最近、なにかと話題になっている「中国芸能界」のニュース。今回は中国の芸能界の仕組みについて、すこしだけ紹介したいと思います。
素人とは隔離された世界
(映画「芳华」より)
昨年中国でヒットした映画「芳华」。1970年代に、戦地の兵士を鼓舞するために組織された、歌劇団の団員達の青春をテーマにした映画です。
描かれる青春模様の美しさもさることながら、私が何より惹きつけられたのは、出てくる女優達の踊りのレベルの高さでした。素人の私ですら、撮影のために練習したものではなく、長年の訓練によって鍛え上げられたものだと一目でわかりました。
なぜそんなにレベルが高いのか。中国の芸能人が生まれる場所に、その秘密がありました。
話題になった集合写真
(微博 より)
「美人しか映っていない」などと最近微博で話題になったこの写真。決してドラマのオフショットではありません。大学に入りたての一年生が、寮のルームメイト達と撮った写真です。
彼女たちが通うのは「北京電影学院」。俳優や監督、ダンサーなどを育成することに特化した大学です。中国各地に、このような芸能に特化した大学があり、そこの卒業生が芸能界へと旅立っていきます。いわば、他これらの大学が芸能界への登竜門となっているのです。
そのため、中国の俳優は皆大学で歌や踊り、演技を専門的に学んでいるので、どんな役でもこなせてしまうのです。言ってみれば、中国の芸能界は、全員が宝塚出身のようなものです。
ちなみに、この写真には、すでにデビューしている宋祖儿という若手女優が写っているのですが、あまりに美女が多すぎて、ネット上では「どれが宋祖儿かわからない」「みんな同じ顔に見える…」などの声が挙がっていました。
皆が注目する大学入試の点数
もちろん日本同様に子役や10代の若い俳優・女優もいます。彼らは皆子どもの頃から、演技や歌、ダンス、モデルのスクールに通い、オーディションを勝ち抜いたあと、芸能界へと入ります。そんな彼らが目指すのも、やはり芸能に特化した「北京電影学院」などの大学です。
驚くことに、大学受験の時期になると、若手俳優達の試験の結果が微博上に出回るのです。本籍や点数、受験者の中での順位など何から何まで公開されています。
雑誌のアンケートなどで芸能人のランキングを見ることはありますが、受験の点数のランキングは見たことがなかったので、日本人の私からすると少し不思議な感じがします。
(微博 より)
(微博 より)
今年、北京電影学院の芸能系の専門に進学した若手俳優二人。吴磊が1位、宋祖儿が3位だったようです。
若くてもギャラは一人前
最近日本のニュースでも少し話題になりましたが、中国芸能界のギャラは天文学的数字だと言われてます。
今年になってからは、国が芸能人の給料への課税率をあげたり、大手映像メディアが芸能人の給料に関する制限を設けるなど、規制の方向へと向かっていますが、それでも一般的な職業と比べるととんでもない差があります。
先程紹介した吴磊は、16歳の時点でドラマ1話あたり800万円もらっていたそう。しかも、日本と異なり中国のドラマは全40話ほど。つまり単純計算すると、1本のドラマのギャラは約3億2000万円。これに、映画やバラエティ、広告などが加わると…到底16歳の少年が稼いでいる額とは思えません。
そんな背景もあってか、「子ども 子役にする方法」「子ども キッズモデルにする方法」などのワードがよく検索されているようです。
アイドルオーディション元年
(新快报 より)
話題は少し変わって、アイドルの話になります。
これまで公開型・育成型のアイドルオーディションがほとんど行われて来なかった中国ですが、今年2018年は「偶像练习生(アイドル練習生)」や、韓国の「プロデュース101」を中国を舞台にリメイクした「创造101」など、オーディション番組が次々と放送され、人気を博しました。
多くの視聴者が、候補生と共にデビューの夢を追いかけ、一喜一憂しました。これらの番組のブームと共に、「我pick ○○(私は○○を応援する)」や「○○冲啊!(○○頑張れ!もっと前に行け!)」というような社会的な流行語も生まれました。
近年、日本国内だけでなく、世界各国へと活躍の幅を広げる芸能人も増えてきました。最近も、日中合作の映画が公開されるなど、日本と中国の距離も近くなりつつあります。今後、日本の芸能界と中国の芸能界がどんな化学反応を起こすのか楽しみです。
(記事作成 竹内亮 石川優珠)
竹内亮
ドキュメンタリー監督 番組プロデューサー (株)ワノユメ代表
2005年にディレクターデビュー。以来、NHK「長江 天と地の大紀行」「世界遺産」、テレビ東京「未来世紀ジパング」などで、中国関連のドキュメンタリーを作り続ける。2013年、中国人の妻と共に中国·南京市に移住し、番組制作会社ワノユメを設立。2015年、中国最大手の動画サイトで、日本文化を紹介するドキュメンタリー紀行番組「我住在这里的理由」の放送を開始し、2年半で再生回数が3億回を突破。中国最大のSNS・微博(ウェイボー)で「2017年・影響力のある十大旅行番組」に選ばれる。番組を通して日本人と中国人の「庶民の生活」を描き、「面白いリアルな日本・中国」を日中の若い人に伝えていきたいと考えている。