見出し画像

2024.10.6山梨県日川人工産卵場造成

2024年10月6日 山梨県甲州市

アングラーと渓流魚。心地よい距離感を保ちつつも、適度に人の手が入った川には独特の魅力がある。日川はそんな川のひとつだと思う。

10月6日(日)、山梨県笛吹川水系の日川で渓流魚の人工産卵場造成に初めて参加した。

冒頭、水産技術研究所の坪井潤一博士のコメント。

「私たちが造るのは『産卵床』ではなく『産卵場』です。『産卵床』を作るのは魚です。もし間違っている方がいたらこっそり教えてあげてください」

簡潔なコメントに、この活動の意義が集約されていると思った。

他所から持ってきた稚魚や卵を放流する稚魚放流や発眼卵放流とも、親魚を放流して産卵させる親魚放流とも違う。産卵に適した場所を整備はするが、あくまでも渓流魚の産卵を手助けするのみ。基本的には渓流魚のポテンシャルに委ねる。豊かな魚影を保っている日川だからこそできる活動だ。

ハイシーズンまでは捕食に有利な場所に定位していた渓流魚。産卵を控えた時期になると理想的な産卵場所を探して本流の上流や支流へと遡上していく。この習性を利用して、快適に産んでもらえるスペースを支流に「産卵場」を整備すればより多くの稚魚が孵化し、魚が増えるという仕組みだ。

ペンションすずらんオーナーの古屋さん(右)とフライタイヤーの高橋章さん(左)。

人工産卵場造成のざっくりとした手順は以下の通り。

  • 産卵場とする区間から重機で大きな岩などを取り除く。

  • なるべくフラットな流れになるように石などの配置を調整する。酸素を供給する適度な流れは必要だが、流速が速すぎる場所は産卵に適さない。

  • 本流などから集めたこぶし大程度の大きさの石を投入し、川床を上げ、適した水深に調整する。

  • 最後に砂利を敷き詰める。この砂利を渓流魚が掘って、卵を産みつけることになる。

言葉にするとこれだけのことだが、ほんの10数mの区間でもかなりの重労働になる。

それでは実際に写真とともに作業の様子を紹介したい。

本流で集めた石を袋に詰める。しかし、かなりの量の石が必要になるため、人力で運ぶのは効率が悪い、というより難しい。橋の上からユニックで吊り上げる。

こぶし大の石。産卵場の川床を整地するのに使用する。
産卵場の上に架かる橋からユニックで吊り下げる。
産卵場に石を運び込む。

石集めと同時並行して古屋さんが巧みに重機を操り川床をならしていた。大きめの石を取り除いたり、位置を動かしたたり、溜まった砂をすくい上げる。

古屋さん、パワフルです。

坪井博士の監修の元、産卵場とする区間の流れを調整する。波立つような流れでは産卵がしづらい。なるべく平らな流れになるように、石をズラして流芯の位置を調整。

作業前。この状態だと、対岸の流れがちょっと速すぎたようです。
作業後。対岸側に寄りすぎていた流れが分散し、緩やかな流れになった。

古屋さんによる重機での整地が済んだら、次は人力でより細かく川床を整えていく。じょれんを用いて底をなるべく平らにし、大きめの岩は取り除く。

人力で川床をならす。川に入っての作業は見た目以上に大変です。

底にこぶし大の石を投入し、敷き詰めるようにしていく。造成する区間の川床を上げ、なるべく同じ水深にする。

大量の石を敷いて川床を作ります。

クライマックスはドラム缶で砂利を投入。ユニックでゆっくり下ろし、ドラム缶を倒して砂利を撒き、じょれんで平らにする。この繰り返しを10本分。

やはりユニック登場。

この際もなるべく砂が見えないよう、きれいに敷き詰める。砂に産卵してしまうと、酸素が届かず孵化する前に窒息死してしまう。

砂利を敷く前(右)と後(左)。
作業完了。
橋の上から見た様子。
これが作業前。違いは一目瞭然。

きれいに砂利を敷くことができた。これで渓流魚が産卵床を作り、理想的な環境で産卵を行なうことができる。

産卵場造成後、すぐに親魚が入ってくることもあるという。

これは「ハビタット」。孵化した仔魚が流されてきてひと休みするためのスペース。私が手がける「渓流釣りのすべて」シリーズでもおなじみ、フライタイやーの高橋章さんが整備した。

産卵直後の仔魚が休むための場所「ハビタット」。

産卵場造成後は昼食を挟んで坪井博士による研究発表。

坪井博士による発表「釣り人参加型の渓流魚資源量推定2024〜7年間のまとめ〜」
水産技術研究所の坪井潤一博士。

日川の上流では一切の放流を止めた。20年前にスタートした人工産卵場造成、これまでは「(成魚放流ではなく)発眼卵放流と稚魚放流だけで魚を確保できるのか」がテーマだった。今後は「放流に頼らずに川の環境を整備することで魚を確保できないか」を模索。5〜6年のスパンで結果を検証していく予定だ。

サクラマスは放流をするとかえって減ってしまう。そんな研究結果を念頭にした実証実験として、資源量が今後どう変化していくのか、推移を見ていくという。今年はイワナは例年通りだが、アマゴが数が減り、サイズも小さくなっているのが懸念点だった。とはいえ、それでもほかの川よりは圧倒的に魚影は濃い。

夏の高水温などが原因として考えられるが、その割には高水温にもっと弱いはずのイワナは比較的例年通りで、アマゴが減り、小型化している。

なお、この研究は日川を訪れたアングラーによる釣果報告をもとにしている。日々川に向き合うアングラーとして、釣り場の未来に深く関わっていくための方法のひとつだ。

最後に、古屋さんによるとペンションすずらんではシーズン終盤は1週間で40枚もの日釣り券が売れたという。すずらん以外のお店で購入した人、年券やつりチケなどで入渓している人もいるだろうから、相当な人数が入渓していたことになる。名古屋から参加していたつりチケを運営するクリアウォータープロジェクトの西山さんによると、つりチケで通年で峡東漁協の遊漁券販売を開始した1年目の2023年から、2年目の2024年で比較すると、日釣り券の売り上げは約2.5倍に伸びたという。

日川の渓流魚の資源量がどう変化していくかは今後の推移を見守るほかないものの、魅力的な川には多くの人が集まることはたしかなようだ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?