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10/3 焦りのない黒

短いスカートを履いて短めの黒髪を被って歩いている。閃きだとか、そんな簡単な言葉を使わないで、ずっと深いところまで知ろうとして、親身に正面から向き合うことで、線みたいに、心が優しくなることがあって、自分に好かれるような小さな所作が、思いもよらない影響を及ぼしていて、地面が遠くの通りにまで続いていることに解される身体の感覚があって、曲がろうか真っ直ぐ進もうか、翻弄している感覚が楽しくて、でも最後は好かれるように動いていて、私は正直だと思いながら、電柱の切れ端を眺める。公民館の学習室に向かっているのは、大学受験を控えているからで、幻想過ぎて何のことかわからないけれど、たしかに試験はあって大学という物があって、みんながそこに向かってるから、そうなんだって思って、この動く足を不思議に思う居場所を持つことで私はなんとなく保っている。本当、という言葉を使えば使うほど複雑に絡まってて、私はころころと変わるから、決心なんかしなきゃいいのにって、思うと、風が吹いて狭苦しく生えた住宅街の植物が頷いているように揺れた。背中を向いて立っている長い茶髪の女の子の髪もついでに揺れた。髪が綺麗なのか、一切自分を痛めつけることのなかった習慣のお陰なのか、周囲には暖かい空気が流れていて、こういう女の子に私はいつかなるんだろうな、と思い、何度も見た。馬鹿になるというか、問題を知らないふりして、解決策を楽しくこなすというか、自分にはそういう軽やかさが足りないって思って、また草木が頷いた。振り返ると、茶髪の女の子の顔が見えて、やっぱり可愛かった。髪だけでなく、全身が揺れているように見えた。私はさらに振り返る途中このままの未来退屈だと思って、ずらそうと思って、叫んだ。あ、に濁点が混ざったような、喉に溜まった砂利を吐き出すような、やばい音だった。近くにいたスズメが鳴きながら飛び立って、茶髪の女の子が背中に視線を向けたのを感じる。どんどんずらそうと思って、うぎゃあああああ、と叫んだ。あ、ならまだ普通だと思った。さっきのは振り絞る形で体を折り曲げていたけれど、今度は直立不動で真正面を向いて叫んだ。息を吐ききった時、カラスが肩に止まった。はっと、球体みたいなため息を出すと、カラスは飛んでいった。その後ろ姿はかつての私だった。後ろからだいじょうぶうううう、と焦った声が聞こえて、肩を触られる。茶髪の女の子が駆け寄ってきていた。私は振り向きの勢いを使って腕を伸ばし、茶髪の女の子を殴った。ぐーで殴ったのは初めてだった。いってぇ、と彼女言って、すぐに殴り返され、足をかけられ、こかされ、すぐにマウントを取られた。10回くらい殴られて、首を絞められた。顔が可愛いなーと思った。私は、彼女になりたいと思って、彼女のおっぱいを触った。あまりにも柔らかくて泣いてしまった。その時キスをされて、その後カフェに行って、カフェのトイレでセックスした。彼女、お揃いのディルド鞄に入れてて、これが良いよね、と話した。閃きとは呼べないくらい線のない発想で、自然と大学受験はやめて、アルバイトを始めた。現実味のある所で、彼女とたまに会いながら、絵を描いたり曲を作ったりしている。

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