山道

いつからどの道を歩いていたのか、遠くの行き渡りから匂いを頼りに時間を増しても素通りできない印象ばかりが、木になっている。山道はどことなく未到着な波が衣服のように空間を覆っている。どこを歩いているのか、街を体内で育み常夏の海に思い憧れ、埃風に夢を溶かし背中を伸ばすのはもうよく知った形だった。ところどころ、会議室が歪んだ長さでメモを残し残し、木は絡まられながら、それでもじっと、雨でも降っているようだった。好意の雨脚に木漏れ日が揺れ、数字を迷わせる。足を包み込む虫の群れは宇宙の糸を絡ませ、運命の種を撒くことを培養している。坂道に逃れても水の子の踊りは耳を覆い、匂いが体温を許してゆく。図にならない脈を宿し、壁のような足を運ぶ。思い倦ねた命の無数さが足から恒常性みたいに立ち昇り、目に膜をかける。呼吸が眠くても、この姿の流れなら内にある外に行ける気がする。
そう甘くはないと言われ飽きても、浴びせられた胸の石はころころとしている。音に塗られた内側の皮膚は、毛穴から解放感を滲ませぐるぐるとしている。海の波浪が体の表面を行き交い、繰り返しもないまま城を包み込んでいる。重力のままに落ちゆく光と魂の蒸発が測れない概念を発散させてゆく。化けた足には坂も平坦も同じで、浅はかな基準の上を歩いてはいないのが足跡でわかる。機械的に見える自然の細部に果てしない悩みがあることに気づき、及ばなさを隠す畳が背骨に根差してあることに気付いた。もっと理解を削られ、丸い雲が鳥より速く地平線の向こうへと消えた。
口にある歯型のビッグデータみたいなガムは、今この時空をこの足と共に過ごし、どんな気持ちなのだろう。

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