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10/28 悩んだ末吉

身体さえ幻想であるような不思議な視界で、今まで不自然になるほど考え込んでいたものが、何だこんなことか、と、何も持っていない中で完全な幸福を宿しているような所作を適所に見せるお婆ちゃんの部屋のクローゼットのように、すっきりと見えなくなるまで小さくなって、やがて細い細い糸が触ると血が出てしまいそうなくらいぴんと張っている姿になった。私は点在しつつ緩やかに流れる雲の背景を空と名乗りながら覆っていてもおかしくないような淡いピンク色の溜息を放ち、土とも石とも呼べないような軽やかな地面が、破裂音とも無数の鳥が羽ばたく姿にも似たまま地平線まで伸び、海中の流れの隙間を泳ぐように光りが広がり、このゲームじみた身体では見ることができないところで壮大なことが起きているんだろうな、と想像するちっぽけさが、やや芽生えたが、これを勇気や好奇心の空間に転換するフットワークがすぐに塗り超えて、あははっ、と笑った。名前をつける気も起きない不思議な土地で、そばに生えた月光を観察しているような薄黄色の花が、フラフープをしている隣の家の少女のように揺れた。そしてその姿を、この身体が粉々になり別のものの一部として体験し始める前に、雲が深呼吸しているような快晴の日にTシャツを細いハンガーにかけて干す時みたいに、何度も思い出すだろう、と思った。その時、カラスよりもずっと大きくて黒い生き物が、頭上をマイケルジャクソンが身体を斜めにするくらいの速さで通り過ぎて、色んな生物の生き様を集めたような影がゆっくり世の中を宥めるように動き、私は一粒左目から涙を流した。その涙に込められた意味は、どんな言葉で表しても良い、どんな言葉からも広がる壮大な文脈だった。

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