ドライオーガズムの先生

「自分のちんこを自分のまんこに入れるんだよ」
私は男だが、彼はまるで私にまんこがあるかのような口振りで淡々と話を進める。
「てめえ目見せて。やっぱ何にもないねえ。あれだよ。自分のちんこを自分のまんこに入れてないからだよ」
彼はTohjiの歌詞みたいな言葉を織り交ぜつつ、無いはずのまんこについて話している。やっべ俺ドライアイだから涙出てきちゃった、と彼は言い、水で満たされたコップを手に取り目に注ぎ始め、そのまま、また話し始める。
「何きょとんとした顔で見てんだよ。あれか、まだお前の中にまんこがあるって知らねえのか。何年生きてきてんだよほんと。女にもちんこついてんだぜ?男にもまんこないわけないだろ。ほんと面白いなお前」
「まじで俺にまんこはないから!」
私は何がトリガーになったのか、テーブルに手を付き、しゃんと音を立てて立ち上がり、怒鳴る。ファミレスで威風堂々と、大声で熱烈な抗議をする。「まんこはね!女にあるから素晴らしいんですよ!男にまんこがあってどうしますか!ふたなりですよ!ふたなりはそりゃあ素晴らしいですけどね!何だか人類愛の頂点な気がしますがね!それは男にまんこがないから美しいんですよ!女にちんこがないから美しいんですよ!貴方は性を冒涜している!反出生主義者や性嫌悪よりも虚しいですよ!ちんことまんこは引き合う孤独の力なんですよ!わかりますか!万有引力です!星だって距離保っているでしょ!距離!その絶妙な距離こそがエロスなんですよ!その距離を奪おうと言うんですか!あり得ない!人間はいつもこうやって自然の美しさを奪うんだ!嫌だよほんとに!」
「まあまあ落ち着き給えよ、まん忘(ぼう)」
「まん忘!?まんこを忘れた人って意味ですか!あり得ない!」
「座り給えよ。取り敢えず落ち着いて話をしよう。落ち着かないとまんこも逃げるばかりだよ」
彼はコップをテーブルに置く。彼の服はびしょびしょだ。
「わかりましたよ」
私は、私を見つめる数々の視線を察して、恥よりも怒りが勝ちつつも大人だから落ち着いてお辞儀をして座る。
「まぁ、貴方の言いたいこともわかるよ。でもね、あるんだよ。それは自然だ。貴方が自然至上主義者だとしても問題ない。もう早いところまんこを見つけよう。貴方も待ち切れないみたいだ」
「待ち切れないわけじゃないですよ。可笑しいと言っているんです」
「まぁいい。話を聞けばわかる。端的に言えば、合言葉は、ちんことまんこは重なり合っている、だ。量子の不確定性原理のようなものだ。ちんことまんこは実は意識されて初めてどちらになるかが決まる。とすればだ、例えば意識と反意識の調和を実現出来たらどうする?うつらのまま、股間を感じることができたらどうする?ちんこはまんこに入っちゃうんだ。不思議だろ?まぁ説明するより見てもらった方が早い。ついてこい」
私は、多少感化され、彼について行き、ファミレスのトイレの個室へと二人で入る。彼は入った途端にズボンとパンツを下ろし始め、
「俺の額に手を当てろ。俺の意識で股間を見られるはずだ」
と言う。私は、言われるままに手を当て、彼の股間を見る。その時私は、絶句する。半透明なちんこの下に、明らかに女性の股間の姿があるのだ。私は、本能のままに身を屈めて覗き込む。たしかにまんこがあるのだ。
「先生!」
私は、思わずそう呼んでいる。「先生!まんこがあります!」
「だろ?見とけよ。今からまんこにちんこを入れる」
「はい!」
先生はゆっくりと透明度を移行していく。実体を帯びていたまんこは次第に透明度を増し、半透明だったちんこは、肌色に近づいて行く。半透明なまんこの下に実体のあるちんこが入っている。私は、感服し、不思議と勃起している。
「いっていいか?」
先生の質問に私は、行儀の良い生徒みたいに「はい!」と言う。
「いくううううううううう」
先生は、女性のような声を出してしっかりといく。射精はなく、痙攣だけがある。その姿は女性のそれだ。
「いったんですね!」
私が元気良く言い、先生の顔を見ると、美少女のそれなのだ。「先生!どういうことですか!顔が!顔が!」
「ああ、そうだな。俺はこうしてひとりでにいくと可愛くなるんだ。人間ってのは本当によくわからねえよなあ。気持ち良いだけだな。人生はよお」
先生は、上を向いて清々しく言う。
「先生!私にも教えて下さい!」
「勿論だ。ちんことまんこは誰のものでもない。俺の家に来い。6時間でマスターさせてやる」
「はい!」
私は、目を輝かしている。輝かしい未来を見ているのだ。有りとあらゆる災難がこの世にはある。ちんことまんこの調和が無くして何の調和が出来ようか。無と有の調和、過去と未来の調和、天と地の調和、物質と反物質の調和、汎ゆる調和の根源はちんことまんこでは無かろうか。世界は明らかに幸福過ぎる。
「大好きです」
私は、きらっきらの笑顔で世界の果てに向かってそう言う。

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