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«Remake»#タクシードライバーは見た「ある大手企業の上司と部下」

「サラリーマンはオワコン」と言った言葉を目にしたことがある。
それらはネット界隈が一種のポジショントークとして言っていたようなことだが、ここ数年では大手銀行が雇用の削減を表明し、トヨタ自動車は社長が終身雇用が難しいと発言している。
もう価値観の話ではなく、現実的に必要がないという未来が訪れようとしている。
そんな中で、所謂オワコンとして扱われるタイプとは違った空気を持った二人が乗って来た。

30代前半の先輩男性と20代後半の後輩男性。
身なりを綺麗に整え、タクシーを止めようとするその様相からもデキる雰囲気は伝わってくる。
しかも、それらを見せびらかすようなガチガチのウェット感のある髪型とギラギラした雰囲気とは違い、スマートで爽やかな出で立ち。
時刻は午後3時頃、商談を終え、これから会社に戻るところだった。

お送りする会社は、今や誰もが名前を知る有名企業。
物凄い早さで日本を代表する存在となったその会社へ戻るその二人は、乗って早々、先ほどまで行われていた商談を振り返り意見を交わし始めた。
先輩が思うことをまずは喋り、それに対して後輩も「僕はこういう風に捉えて、こう考える」といったように意見を出す。
先輩は、そこに否定をすることはなく「なるほどね、確かに」と
後輩の見方、感じ方を受け入れて会話を繰り返す。
そこに年上だから、先輩だからといったところはなく、あくまで物事に対しての意見は平等としてお互いの意見を共有し合った。

それがものの5分ほどで終わると、次はその取引先との商談を踏まえた今後の進め方についてお互いの認識を一致させる。
その後は次の予定、今週の予定、そしてこの会社のトップがどういうことを考えているのか。それを踏まえて上司はどう思っているのか。
短い時間でありながら簡潔に明確に話を進めていく。

―――これが、あの速さで日本のトップへと駆け上がる企業の人たちかぁ

短いのに何故か理解できるその二人の会話に運転しながら感心させられる。
「サラリーマンはオワコン」と同等によく聞く、社畜だの、マウントだの、老害だのサラリーマンでいることは一切凄くない、まさにオワコンといった風潮を払拭するような二人の関係性に、結局出来る人は出来ていて
やらない人、出来ない人が自分を肯定するために
社畜云々とほざいてるのかもしれないとという思いが頭で駆け巡りながら運転を続けた。

もろもろの必要事項の会話が終わり目的地も近づいてきた。
そこで、ちょっとしたプライベートの話へ移る。
先輩から「どう?最近は仕事楽しくなってきた?」と、後輩の心持ちを心配する様子で切り出す。
「いやー、まぁ最初の頃よりは、、」
「まだ二か月くらいだっけ?」
「はい」
「なら、移って来たばかりで慣れてないだけってこともあるから」
「そうですよねぇ...でも全体的に理解は出来てきました」
「いいじゃん、早いじゃん」
きっと、少し前に転職か異動で移ってきて今の先輩に楽しくないことを相談していたのかもしれない。

「でもなんか、まだ. . . 言語化はできないですけどやりきれてない感じがしますね」
「最初はそうだよ、俺もさー全然やる気なかったもんね」
「そうなんですか?今とは全然想像出来ないっす」
「うん。だって、最初来た時、どこに進んでるかまったく理解できなかったからね」
「へぇ」
確かに、その企業はトップの人間を筆頭にもの凄いスピードで進化し続けている。
「だって、分かんないでしょこんなの」
「ははは、確かに」
話を聞いていたいところだが、目的地の会社の車寄せの入口までやって来た。
会話もそれに合わせて終盤にさしかかる。

「今はまず、一つ一つ課題を潰していきながら楽しめるようにしていこう」
「そうですね」
「絶対楽しめるようになるよ、俺が楽しめるようにするから」
「ありがとうございます」
車を止めるのと同時に会話をきっちり終わらせた。
この辺も、さすがあの企業だ!と感じる。
お支払いを済ませ、二人は社内へと入っていった。

―――めっちゃ素敵な関係性だなぁ。そんな人たちが働くならそりゃあれだけの企業になるわ!

聞いているだけでこっちも背中を押されるような、素敵な関係性だった。
タクシーでは、良くも悪くも様々な上下関係、会社の空気感を味わう瞬間がある。
それを見ればオワコンも納得できるが、全てを知らずに「サラリーマンはオワコン」なんていう奴はただの怨恨でしかない。

本当にオワコンなのは、自分の立場が少し良くなった途端に強くなる典型的なサラリーマンタイプでありながら、それも自覚せずに「サラリーマンはオワコン」なんて言うそいつ自身じゃないだろうか。

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