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遠廻りして愉しむ統計検定®(2022年 1級 統計数理 問1[4])

この記事では、2022年に実施された統計検定1級® 統計数理の問1[4] の解き方・考え方を、実用性を無視して回りくどく紹介する。

問題の概要

違いに独立とは限らない事象の共通部分集合の確率がとりうる値の範囲を答えさせる問題。
詳細は公式の過去問題集を参照。

図式的な考え方

以下では、厳密さを無視して図を書きながら視覚的に問題設定を理解することを試みた。

A, B の関係を図式的に理解する

まず、$${ C }$$のことは一旦脇に置いて、$${ P(A\cap B) = P(A) P(B) }$$がどのような状況かを考えてみる。
このとき $${ P(B \vert A) = P(B) = \frac{3}{4} }$$であるので、「$${ A }$$に制限した場合でも、その中で $${ B }$$と重なっている部分は $${ A }$$全体の $${ \frac{3}{4} }$$」であることを意味している。
このことを無理矢理図示すると以下のようになる:

4辺の長さが1の正方形($${ S }$$とおく)があり、そのなかで $${ A }$$は $${ \frac{3}{4} }$$の面積を占めている。
一方 $${ B }$$(面積 $${ \frac{3}{4} }$$)は、$${ A }$$と重なる領域のうち $${ \frac{3}{4} }$$と重なりを持っており、これにより $${ P(B\vert A) = \frac{3}{4} }$$を表している。

A と B で覆えない「余白」

このとき $${ A }$$でも $${ B }$$でも覆うことができていない「余白」の領域が存在する。
これは、$${ S \setminus (A \cup B) = S \setminus A \setminus B  }$$と表すことができて、その面積は $${ 1 - \frac{3}{4} - \frac{3}{16} = \frac{1}{16} }$$である。

上記の議論を確率の話に戻すと、$${ S \setminus A \setminus B }$$の面積を求めることは、$${ A \cup B }$$の余事象の確率 $${ 1 - P(A \cup B) }$$を求めることに対応する。
$${ A }$$と $${ B }$$の和集合で表される事象の確率 $${ P(A\cup B) }$$は

$$
\begin{aligned}
P(A \cup B) &= P(A) + P(B) - P(A \cap B) \\
&= \frac{3}{4} + \frac{3}{4} - \frac{3}{4} \cdot \frac{3}{4}\\
&= \frac{15}{16}
\end{aligned}
$$

のように求まるので、確かに $${ 1 - P(A \cup B) = \frac{1}{16} }$$である。

C の「置き方」

さて、$${ A }$$と $${ B }$$の関係について図形的なイメージが持てたところで $${ C }$$について考えたい。

$${ C }$$についても同様に $${ P(C \vert A) = P(C), \, P(C \vert B) = P(C) }$$が成り立つので、$${ A }$$と $${ B }$$それぞれに対して $${ \frac{3}{4} }$$重なるように「置く」必要がある。

その際に、$${ C }$$の「置き方」は一通りに定まらず、任意性がある。
しかし、実は $${ C }$$によって先ほどの「余白」部分 $${ S \setminus A \setminus B }$$をどれくらい埋めるかによって、求めたい $${ A \cap B \cap C }$$の面積が一通りに決まるようになっている。

そして、$${ S \setminus A \setminus B }$$の「余白」の部分を $${ C }$$で埋め尽くした場合(つまり $${ A \cup B \cup C = S }$$)が、$${ P(A\cap B\cap C) }$$が最大になるケースに対応している。

同様に、$${ C }$$を $${ S \setminus A \setminus B }$$の「余白」の部分に被せないように置いた場合(つまり $${ C \subset A \cup B }$$)が、$${ P(A\cap B\cap C) }$$が最小になるケースに対応している。

数式による表現

上記を踏まえて $${ C \setminus A \setminus B }$$に着目して以下のような解答例を作成してみた。

$$
\begin{aligned}
P(C \setminus A \setminus B) &= P(A^c \cap B^c \cap C) \\
&= P(B^c \cap C) - P(A \cap B^c \cap C) \\
&= \left\{ P(C) - P(B \cap C) \right\} - \left\{ P(A\cap C) - P(A\cap B \cap C) \right\} \\
&= -\frac{3}{8} + P(A\cap B \cap C)
\end{aligned}
$$

ただし、$${A^c}$$ は $${A}$$ の余事象を表す。

一方で、$${ P(C \setminus A \setminus B) + P(A \cup B) = P(A \cup B \cup C) \le 1 }$$であり、かつ $${ P(A \cup B) = \frac{15}{16} }$$(途中式略)であることから

$$
0 \le P(C \setminus A \setminus B) \le 1 - \frac{15}{16} = \frac{1}{16}
$$

でなくてないけないため、

$$
\frac{3}{8} \le P(A\cap B \cap C) \le \frac{7}{16}
$$

が成り立つ。

蛇足

実は、上記の考え方には以下のような解答から生まれた疑問について考えているうちにたどり着いた:

答えは合っている一見それっぽい解答例

$${ P(A \cup B \cup C) }$$の上限・下限をそれぞれ個別に評価する。

(上限)

$$
P(A \cup B \cup C) = P(A) + P(B) + P(C) - P(A\cap B) - P(B\cap C) - P(C\cap A) + P(A\cap B\cap C)
$$

したがって、

$$
\begin{aligned}
P(A\cap B\cap C)
&=P(A \cup B \cup C) - P(A) - P(B) - P(C) + P(A\cap B) + P(B\cap C) + P(C\cap A)\\
&= P(A \cup B \cup C) - P(A) - P(B) - P(C) + P(A)P(B) + P(B)P(C) + P(C)P(A)\\
&=P(A \cup B \cup C) - \frac{3}{4} - \frac{3}{4} - \frac{3}{4} + \frac{3}{4}\cdot \frac{3}{4} + \frac{3}{4}\cdot \frac{3}{4} + \frac{3}{4}\cdot \frac{3}{4}\\
&=P(A \cup B \cup C) - \frac{9}{16}
\end{aligned}
$$

さらに $${ P(A \cup B \cup C) \le 1 }$$より、

$$
P(A\cap B\cap C) \le \frac{7}{16}
$$

なお、等号成立は $${ P(A \cup B \cup C) = 1 }$$のとき。

(下限)

$$
\begin{aligned}
P(A \cap B \cap C) &= P(A \cap B \vert C) P(C)\\
&= \left\{ P(A \vert C) + P(B \vert C) - P(A\cup B \vert C) \right\} P(C)\\
&= \left\{ P(A) + P(B) - P(A\cup B \vert C) \right\} P(C)\\
&= P(A)P(C) + P(B)P(C) - P(A\cup B \vert C) P(C)\\
&= \frac{3}{4}\cdot \frac{3}{4} + \frac{3}{4}\cdot \frac{3}{4} - \frac{3}{4} P(A\cup B \vert C)
\end{aligned}
$$

ここで、

$$
\begin{aligned}
P(A\cup B \vert C) &\le \min \left\{1, P(A\vert C) + P(B \vert C)\right\}\\
&= \min \left\{1, P(A) + P(B)\right\}\\
&=1
\end{aligned}
$$

であることから、

$$
P(A\cup B \vert C) \ge 2 \cdot \frac{9}{16} - \frac{3}{4}\cdot 1 = \frac{3}{8}
$$

なお、等号成立は $${ P(A\cup B \vert C)=1 }$$つまり $${ C \subset A \cup B }$$のとき。

以上より、

$$
\frac{3}{8} \le P(A\cup B \vert C) \le \frac{7}{16}
$$

となる。
上限の等号は $${ P(A \cup B \cup C) = 1 }$$の時に成立し、下限の等号は $${ C \subset A \cup B }$$の時に成立する。

等号成立条件は一体何を意味している?

上記の解答例は、2022年の試験後に一緒に受けた友人と反省会をしながら作成したもので、当時は「ベン図使わなくても解けるじゃん、やったー!」と思ったものである。

しかし、最終的な答えは合っているものの、等号成立が本当に成り立つかどうかをきちんと示せていないことに加えて、等号成立条件が何を意味しているのかが気になってきた。

そういったことを考えているうちに辿り着いたのが、本記事で紹介した考え方である。

ここまで来ればお分かりのように、下限の等号成立条件 $${ C \subset A \cup B }$$は $${ C }$$を先ほどの「余白」部分 $${ S \setminus A \setminus B }$$に被せないように置いた場合に対応している。
そして、上限の等号成立条件 $${ P(A \cup B \cup C) = 1 }$$は「余白」部分 $${ S \setminus A \setminus B }$$を $${ C }$$で埋め尽くした場合に対応している。

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