見出し画像

子どもたちは「教育」で幸せになれる―「自分を好きになる」ための学校、ドリームラボ(2020/03/01掲載)

いわき駅前の繁華街・白銀町(しろがねまち)にある「ドリームラボ」は、小学生を対象としたアフタースクール。学童と学習塾と英語レッスンが融合した、オリジナルな体験プログラムを提供します。ドリームラボを経営するのは、アメリカへの留学経験や、塾講師としての豊富な教育経験を持つ、小川智美さん。ドリームラボを設立した経緯、教育への思いをうかがいました。

<タタキアゲジャパン公式サイトアーカイブ>
本記事は、タタキアゲジャパン公式サイトに掲載されていたものです。
肩書・内容は掲載当時のものとなります。


10歳までに「自分を大切に思う気持ち」を身につけてほしい

大きな木製のドア、開放的な大きな窓の上には、カラフルでポップなロゴで「dream Lab(ドリームラボ)」。大工町公園のすぐ隣、古い4階建てビルの一階をおしゃれで温かい雰囲気にリノベーションしたのが、小川さんの運営するアフタースクール「ドリームラボ」です。

約20人の小学生たちと、若い日本人や外国人の先生たち。みんなが大きな声で、日本語と英語が入り混じる空間で、のびのびと楽しく過ごしています。ここでは、「自分を好きになる」「失敗しても大丈夫」と子どもたちに伝えています。

小川さんは、子どもたちに「自己肯定感」、言い換えると「自分を大切に思う気持ち」を身につけてほしい、その思いでドリームラボを始めました。自己肯定感を身につけるためには、10歳までにどれだけ自分を大切に思えるか、大切に扱われたかという体験が必要だそう。

「生まれてから小学校に上がるくらいまでは『存在しているだけ』で喜んでもらえますが、それより大きくなると『何ができるか』で判断されるようになっていきます。そのタイミングで、きちんと自分を大切な存在だと思えることが、重要なんです。中学生になってからでは遅いんですよね」

小川さんがそのように確信するようになったのはなぜなのでしょうか。

価値観の違いを学んだ、4年間のアメリカ留学

小川さんは、東京生まれ。転勤族の家庭に育ち、幼少期は半年ごとに埼玉や北海道などさまざまな土地で暮らしました。子どもに落ち着いた環境を提供したいという両親の思いから、小学校1年生の時に、父方の祖父母の家があった福島県三春町へ。高校を卒業するまで、三春町で育ちました。

「実は一人でいるのが好きで、一歩引いて見ているような冷めた子どもだったんです。でもわからないことがあるのが嫌で、クラスメイトの男子に勉強を教わったりしていたら男友達が多くなって、女子からは嫉妬の対象になったりもして。この人たちとは同じ高校に行きたくない、と地元から少し離れた郡山市の進学校に進みました」

進学した高校では、小学校から続けてきた剣道部に所属。しかし、剣道部のレベルは高く、進学校ならではの大学受験のための教育にもついていけず、文武とも期待に応えられなかった、という小川さん。大学受験も厳しい状況だったため、高校卒業と同時に、母親の親戚の住むアメリカ・ニュージャージー州の州立大学に留学することになります。

「環境が変わって、学び方が変わりました。アメリカでは、『あなたはこれについてどう思いますか?』と正解の無い問いを投げかけられます。たとえば、『尊厳死についてどう思いますか?』とか。視点がひとつではないことや自身の考えや知識の裏付けがないと答えられないこと、なにより『発言すること』の大切さを学びました。自己主張も強くなって、帰国後には父に『人格が変わった』と言われるぐらい。海外で学んだことは大きな転機となりました」

約4年間のアメリカ留学で、ビジネス、経営、法律、心理学などを学んだ小川さん。さらに、日本とアメリカとの価値観や視点の違いを学ぶことができ、客観的に日本という国を見ることができるようになったと振り返ります。一度、日本の外に出たことで、内側からは見えなかった日本の良さも分かってきました。

「それまで、日本って息苦しいなと思っていましたが、それが海外に出たことで吹っ切れた感じです」

第一原発がある大熊町で被災 自分は子どもたちに何を残せるのか

帰国した小川さんは、アメリカでの経験と英語力を生かし、塾講師として働くことに。「人に教えること」「子どもたちと話すこと」、そして、「子どもたちと親との『通訳』になること」が非常に楽しく、天職だと思ったそう。

「子どもたちには結構人気がありましたね。勉強を教えるより、彼らの話を聞く方が多かった。教え子の中学生たちに、『なんでそんなに楽しそうなの?』って言われたときは嬉しかったですね。だって、自分の好きなことが仕事になるって、すごくハッピーじゃないですか。でもそう聞かれるっていうことは、周りの大人は楽しそうじゃないんだなとも感じて。親たちが子どもの可能性をつぶしていると感じることもありました」

塾講師として、小野町、富岡町、浪江町、南相馬市原町区を日替わりで担当していた小川さんは、2011年3月11日、東京電力福島第一原発のある大熊町の国道6号線沿いで昼食を取っていた時に、東日本大震災に遭いました。

「富岡町の教室の生徒たちを浪江町まで避難させて、自身も浪江町で一泊して、そのあと川内村に避難しました。原発のすぐ近くだったし、国道沿いでしたから、被曝したり、津波に巻き込まれたりする可能性もありました。そんな大変な状況なのに、避難所ではみんなが争いもせずに助け合っている。『日本人ってすごいな』と改めて感じました。そういう中で、人の本質や、人の幸せって何だろうと考えさせられました」

震災を経て、小川さんの人生観はガラッと変わりました。そしてその年に妊娠、翌年に出産を経験。自分の子どもたちに何を残すことができるだろうと考え、ドリームラボを立ち上げることになります。

「学習塾は、いい点数を取ること、進学校に行くことに価値を見出すところ。その先には、いい会社に入ることが幸せだ、というような世界観があります。でも、被災時に、何もないのに自分のものを分け与えている人たちを目の当たりにしたときに感じたのは、学歴の有無とか、勉強ができるとかできないとか、関係ないんだということです。それが、ドリームラボの立ち上げにつながっています」

自分自身を受け入れることのできる学校―ドリームラボのスタート

ドリームラボは、放課後の時間帯に、小学校1年生から6年生までの子どもたちを預かっています。

「子どもが自分自身を受け入れられていることが、親としての幸せだと思うんです。そういう環境をつくってあげること。いま、既存の学校にハマれない子どもたちがたくさんいます。『学校に行かない』ことを選ぶのって、すごい意志じゃないですか。そんな自分自身を受け入れられる学校をつくろう、原点はそこからです。私の子どもは不登校ですが、全然辛そうじゃない。お母さんと一緒に仕事場に行けて楽しい、くらいな感じです」

小川さんと娘さん

ドリームラボの立ち上げを決めた小川さんは、県の若者女性起業補助金やいわきビジネスプランコンテストの賞金などをもとに、2014年11月にドリームラボを開業。その後も、福島の未来を担う人材育成プロジェクト「ふくしま復興塾」に参加するなど、自己研鑽を続けています。

いわきだから得られたつながり よそものにはありがたいネットワーク

小川さんがいわきで暮らすようになったのは、2009年頃のこと。結婚をきっかけにいわきに移住しましたが、よそものでネットワークが何もないなか、タタキアゲジャパンのサポートには何度も助けられたといいます。

「震災後、物件がなかなか見つからないなか、このドリームラボの物件はタタキアゲジャパン理事の松本さんに紹介してもらいました。WEBには載っていない情報でしたが、大家さんをご紹介いただいて、お借りすることができました。タタキアゲのネットワークを使わせてもらえたことは、よそものだった私には大変ありがたかったです。今でも、何か困ったことがあると、タタキアゲにお邪魔しています」

小川さんは、震災後のいわきにおいて対話の場づくりを行ってきた「未来会議」や、タタキアゲジャパンの主催する「浜魂」などで、積極的にいわきに住む人たちとのつながりをつくってきました。また、タタキアゲジャパンのコーディネートする「実践型インターンシップ」なども活用。ドリームラボと地域とを結びつけるためにさまざまなチャレンジをしてきました。

「震災後、いわきにはいろいろな人や情報が入ってくるようになりましたよね。開業するにはとてもありがたかったと同時に、どんな人生を送りたいか、何に価値を置くのかを、自分でかじ取りしなくてはならなくなりました。地方で働くと、競合が少ないし、今はさまざまな支援もある。自分たちで自分たちの世界を作ることができる、変えていくことができると感じています」

日本の教育を変えたい!小川さんが目指す「新しい学校」

最後に、小川さんの目指す「教育」「学校」について伺いました。

「今までの教育は、経済成長のために同一の人間をつくる必要があって、画一的なものでした。既存の教育にはない、土台作りからやっていきたいんです。自分にとっての心地よさや感性を大事にしたい。そういったものって、社会に出ると鈍くなるんですよね。だから、学校の中で『小さな社会』を体験させてあげて、指導する・されるという上下のつながりではなく、横のつながりをつくりたいですね。存在しているだけで価値がある、と思えるように。社会に出て、生きることのできる力を身に付けてもらって、『いいじゃん、学校に行かなくても』と言ってあげられる大人を増やしたいです」

文・山根麻衣子/タタキアゲジャパン編集部
写真・沼田和真

●information

dream Lab
事務所/教室:〒970-8026 いわき市平字白銀町4-13 不二屋第二ビル1F
電話:0246-84-8814
公式サイト http://d-l.jp/
Facebook
 https://www.facebook.com/dreamLab.Iwaki/

株式会社dreamLab 代表取締役
小川智美(おがわともみ)


1973年東京都生まれ。田村郡三春町育ち。いわき市在住。安積女子高校卒業後、アメリカの大学へ4年間留学。帰国後は学習塾に15年勤務。その後、2014年にいわき市白銀町で株式会社ドリームラボ設立。アフタースクール、英会話教室、学習塾を運営する。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?