神社は世代を超えて集える場所―まちと共に生きる神社を残すために、よそものだからできること(2020/03/01掲載)
Iターンだからこそ感じる、町への違和感
埼玉県出身の佐波古さん。大学卒業後は、中野区役所の職員として働いていましたが、温泉神社の一人娘である雅恵さんとの結婚を機に、2013年にそれまで縁もゆかりもなかったいわき市にIターン。区役所職員から温泉神社の禰宜(ねぎ)に転身しました。
「大学で所属していたサークルで妻と出会いました。彼女が入部してきたときに一目ぼれというか、『この人だ!』という感じですぐに付き合い出しました。付き合いが長くなると、実家に挨拶、ということになりますよね。その時に、『実は……』と、実家は神社で私が神社を継ぐということが結婚の条件でした」
彼女の心配とは裏腹に、佐波古さんはそんな家庭の事情を素直に受け止めました。実家は浄土真宗。しかし、熱心な信仰があったわけではなく、「神社だったら、食いっぱぐれなそうだな」と思うくらいだったそう。その後、神職の資格を取得できる國學院大學に通いながら神社についても学びました。
「Iターンするまでは、そもそもいわき市のことをよく知りませんでした。湯本に住み始めて感じたのは、温泉街らしさがあまり感じられない、この町の『売り』がわからない、ということでした。自分自身が神社のことを勉強しながら、一般の方がどんな神社なら参拝したいと思うか、ありがたみを感じてもらえるか、ということを考えました。それまで閉じていた温泉神社の授与所を開き、毎日清掃して神社内をきれいに保つように心掛けるなど、できることから取り組んでいきました」
「神社界隈では、時々、時が止まっているのではないかと感じることがあります。神社と町は一蓮托生、共に生きているんです。移住して時間が経ち、この状況に慣れてしまったら、思いが変わってしまうこともあるかもしれません。違和感を持つことができる今の段階で、できることをやっていこうと思っています」
東日本大震災で変容した湯本の町のために、神社ができること
2011年の東日本大震災と東京電力福島第一原発事故は、温泉街として栄えていた湯本地区にも大きな被害をもたらしました。建物への被害はもちろん、観光客や出張で利用する客が激減し、廃業する旅館も。佐波古さんがいわき市にIターンした2013年当時は、町に活気がない状況だったといいます。
地元の神社として何ができるかを徹底的に考え抜いた佐波古さん。それまで行っていなかった、お正月の甘酒やすいとんのふるまい、お守りの授与、地元商店とのコラボレーション商品の制作などを行い、それを新聞折込やwebなどで丁寧に告知していきました。そうすることで、参拝者も徐々に増えていきました。
2019年には、60年ぶりに神社の屋根の葺き替え工事を行うにあたり、地元企業や行政区長からなる支援組織「温泉神社奉賛会」と共に、一軒一軒、氏子を訪問。町の人とのつながりを作ることにも注力しました。
「神社の役割の1つは、町を良くするための橋渡しと考えています。町に出て、町の人とつながりをつくる、そこから始めました。実は湯本に住んでいても、温泉神社を知らないという人は結構いらっしゃいます。神社を維持していくためにも、町の人がどんな神社を望んでいるのか知る必要があります。屋根の葺き替えのタイミングでのさまざまな活動は、神社と神職の顔を知ってもらういい機会になりました」
SNSやクラウドファンディング、時代に適応した神社づくり
佐波古さんは、「直接顔を合わせること」を大切にする一方で、webを通して温泉神社を知ってもらうという、これまで温泉神社になかったチャネルの開発にも積極的に取り組んでいます。
「今は、どこかに出かける時、必ずインターネットで検索しますよね。(昔ながらの)神社だからそれは必要ない、ということはありません。時代に合わせ、必要なことは粛々とやっていきます。ホームページの作成やSNS、クラウドファンディングの活用も、その一環です」
2019年には、温泉神社の改修にあたって、クラウドファンディングに挑戦。その結果、「神社がクラウドファンディングに挑戦」という話題性でメディアに取り上げられ、遠方の方や若者からの支援も増えたそう。「特別なことはしていませんが、勝手に取材が増えましたね」と笑います。
地域の期待に応える神社 持ち込み企画も大歓迎
温泉神社では、フリーマーケットや境内でのライブ、上映会、地元のパン屋さんとのコラボレーションなど、一風変わったイベントが数多く開催されています。これが、普段神社に足を運ぶことのない人たちが温泉神社を訪れるきっかけになったり、神社でのライブ開催をきっかけに、「震災後初めて神社に来た」という住民の方もいたそう。
「こちらから営業をかけているわけではなく、基本的に、すべて持ち込んでいただく企画です。神社は町の人のためにあるものですから、期待に応えられるように対応するだけです。神社は住民が集える神様の家なので、神様と住民の方が喜んで頂けるようなイベントなら使ってもらっていいんです。『神社でやってもいい?』といつでも声をかけてほしいですね」
タタキアゲジャパンが、湯本地区で開催したプレゼン&ブレストイベント「第25回おでかけ浜魂@常磐」では、「温泉や湯本町にあるものを活用した神社の名物や体験のアイデア」を参加者から募集しました。
自然体で生きていくことができるいわき
最後に、Iターンした今、いわきについてどう思っているのかを聞いてみました。
「いわきの人は、懐が深いですね。人があったかい。人と人との距離が近く、慣れるまでには時間がかかるかもしれませんが、入り込んでしまえば大丈夫。人付き合いもツーカーでいけるし、自然体で生きていけます。ただ、若い人は一度都会に出るという選択肢もあるかもしれません。一回都会に出て勝負してから地元に戻って、町の魅力をのばしていってもらえたらと思います」
文・山根麻衣子/TATAKIAGE Japan編集部
写真・沼田和真
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