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地域の魅力を知り、面白がることが、新しいを生み出すきっかけになる(2021/02/27掲載)

いわき市平生まれの井出さん。大学卒業後、京都で就職、その後いわきにUターンし、いわきの郷土料理「さんまのポーポー焼き」を製造加工する「福や」を起業しました。現在は、いわき市の中心部から港町・久之浜に住まいを移し、4人のお子さんを育てながら、地域と人をつなぐ活動もされています。
今回はそんな井出さんにインタビュー。好きなことを仕事にし、地域の魅力を見出して暮らす井出さんにお話を伺うと、人生を豊かに生きるヒントが見えてきました。

<タタキアゲジャパン公式サイトアーカイブ>
本記事は、タタキアゲジャパン公式サイトに掲載されていたものです。
肩書・内容は掲載当時のものとなります。


「伝統の味を絶やしてはいけない」と起業を決意

ー まずは、井出さんがいわきにUターンしたきっかけから教えてください。

きっかけは子どもが生まれたことでした。

中学生の時から釣りのプロになることが夢で、大学卒業後は京都の釣具メーカーに就職をしました。25歳の時に第一子が生まれたのですが、その時、同郷の妻からいわきで子育てがしたいと言われたんです。

京都では頼れる身内はいなかったので、自分のやりたいことと天秤にかけた時、子育てを優先すべきだと判断していわきにUターンしました。

ー Uターンして起業に至るまで、どのような道を歩まれたのでしょうか?

いわきに帰ってすぐに東日本大震災に遭い、福島の現状を目の当たりにすることになりました。そして、風評被害に苦しむ福島の農水産品のセールスプロモーションの必要性を感じて、県産品をPRする事業に就きました。

そこで、いわき市の神谷地区で作られたお米をブランディングするプロジェクトに関わり、米を栽培するための土づくりをするところから日本酒を作るという機会に恵まれたんです。

この経験が今の自分の土台にもなっているのですが、地域の人と協力して何か行動してみることの楽しさや重要性を感じるきっかけにもなった貴重な経験でした。

いわき市の神谷地区で育てた米で完成した「純米吟醸 神谷」

完成した日本酒「神谷」を首都圏で販売するときに、酒の肴も必要だよねということになり、いわきの郷土料理とセット販売することになったんです。そこで初めて「さんまのポーポー焼き」に出会いました。

「ポーポー焼き」は、サンマのすり身に味噌やネギなどをまぜてハンバーグ状にして焼いたもので、漁師が船上で作って食べていたと言われるいわきの郷土料理です。恥ずかしながら、それまで一度も食べたことがなく、初めて食べた時はその美味しさに感動しました。

これからもっと「ポーポー焼き」も販売していこう!という時に、製造元の方が高齢のため廃業を決意されたことを知りました。「この味を絶やしたくない」と思ったことと、周りの方からも後押しがあり、製造元から事業を継承する形で「福や」を起業することになりました。

家族で海を間近に感じられる久之浜へ

ー 現在は、いわき市の中でも最北端の港町・久之浜へ住まいを移されたとのことですが、どのような経緯で久之浜へ移居することになったのでしょうか?

久之浜は、震災で津波の甚大な被害があった地域です。店舗を失った商店が集まった仮設商店街「浜風商店街」が、2017年に新しくコミュニティー施設「浜風きらら」に生まれ変わることになり、何か面白いことができないだろうかと相談を受けました。

そこで、大久町から化石が発掘された海竜フタバスズキリュウの形をした「海竜焼」を浜風きららの一角で販売するようになったことから久之浜とのつながりができました。

現在は、「浜風きらら」で「おさかなひろば はま水」という魚屋を共同運営しながら、サンマのポーポー焼きの製造販売業をしています。久之浜の魅力に惹かれて、昨年の夏に家族6人で久之浜へ移り住みました。

ー 久之浜での暮らしはいかがですか?

海が好きなので、海のすぐ近くで暮らせるという環境がすごく良いです。家にいながら波の音が聞こえてきますし、夏は涼しくて過ごしやすいですね。

それから、家族みんな笑顔が増えました。久之浜は町の人みんなが挨拶を交わしてくれる明るさとおおらかさがあって、楽しく暮らしています。子どもたちがこの町を気に入ってくれていることが嬉しいですね。

町の魅力を知ってもらうことが、次の新しいの一歩へ

ー 井出さんは久之浜の地域づくりにも関わっていますが、どんな入り口から地域づくりに関わるようになったのでしょうか。

もともとが小さい町なので、誘いを受けたりお願いされたりして、結果として携わっている形なんですが、現在ですと、漁師の後継者不足の課題に取り組んでいます。

漁師が高齢化していく一方、漁業の担い手が足りていません。この問題に対して、漁師や海の魅力を知ってもらう機会を増やすための漁業体験などを行い、水産業に関心を持つ人と漁師が出会えるきっかけを作れたらと思っています。

漁業体験に同行する井出さん。この日はシラウオが大漁でした

また久之浜は、震災以降人口が大きく減少しています。そこで、空き家を改装して「ワーケーション」ができる施設作りを進めています。

久之浜に来てもらい、海が眺められる見晴らしのいい場所で仕事をしながら休暇を過ごしてもらえたら、この町の魅力を少しでも知ってもらえるのではないかと思います。

その上で、クリエイティブな要素が加わればもっと面白くなるんじゃないかと思い、アートや音楽が楽しめたり、生み出せたりする場所を目指しています。せっかくやるなら、自分たちが好きなことをして、面白いものを作っていきたいですしね!

ー まちづくりの活動を通して、ご自身に変化はありましたか?

漁師の生活を目の前で見ているんですけど、仕事の時は本気だし、海が荒れたら休むし、自由気ままに生きている感じが地域性を表していて、この町の魅力のひとつなのかなと思っています。

そういう方たちと一緒に活動をすることで、自分も好きにやっていいんだという自信がつきました。好きにやることで認められるし、自分の好きなことができる風土がここにはあるんですよね。

企業や大きな団体になるとどうしても自分の意見を通すことが難しくなりますが、そもそもここはそういうところではないので、難しいことも考えなくなりました。難しい話をしても「お前なに言ってんだ〜」って言われるので(笑)今は、より自分らしく生きているような感じがしています。

想いや活動を知ってもらうことで、可能性は広がる

ー タタキアゲが行う復興創生インターンは4回受け入れていただきましたが、実施されてみて感じた手応えなどはありましたか?

久之浜は、小・中学校までしかなく、高校・大学がないんですよね。なので、大学生が町に1ヶ月も来てくれるということが非常にレアなことで、地域の人が喜んでくれたことが一番でした。

改めて、若い人たちが町に関わってくれることが幸せにつながるんだと思いましたし、そこから何か生まれるということを垣間見れました。町に新しい風を吹き込んでくれるのがインターン生だったなと思います。

ー 具体的にどんな新しいことが生まれたのですか?

1つ例を挙げると、大学生3人に久之浜の地域資源を再発見してもらった地図「ひさのはまっぷ」を作ってもらったことですね。

ひさのはまっぷを作ってくれたインターン生

大学生にはカメラ片手に久之浜を隅々までまわってもらいました。自分たちの感覚で地域の魅力を掘り起こして、インスタグラムで発信し、3週間で600フォロワーにもなったことには驚きでした。

ガイドブックに載っていない、地元の人すらも知らない場所やモノ、遊び方や面白がり方を見つけてもらったことで、新しい発見があって、そこから地域の人たちの会話が生まれて、コミュニケーションが広がったことは面白いなと思いまし、可能性を感じましたね。

ー 井出さんにはいわき大交流事業やチャレンジライフにも参画いただいています。どんな活動をされているのでしょうか?

僕自身は、「浜風きらら」の認知度を高めていきたいという想いがあるので、観光や交流の要素で様々な視点から物事を見ることができるこの企画は本当に面白いと思っています。

大交流事業では「いわきツーリズムラボ」という、いわきの地域資源・文化を活かした学びのある観光・交流の活動を行っています。現在はコロナ禍でツアーを組むなどができないのですが、オンラインサロンなどで活動を行ったり、できない流れでもアクションを起こせるメンバーが集まっているので、今後も期待していただければと思います。

ー タタキアゲとつながることによって得た変化はありましたか?

普段、僕はサンマの加工ばかり行っているので、タタキアゲには外に出るきっかけを作ってもらっています。新しいことをやっていこうという空気があるし、新しいことをやりたい人を受け入れてくれるのが非常に心強いです。

また、インターン生を受け入れて「ひさのはまっぷ」を作るなど、実績ができたことで地域の人たちにまちづくりに関わる人間として認識してもらえるようになりました。最近では、久之浜駅の中の歴史物のポスターを依頼してもらえたり、地域の歴史につながるようなプロジェクトにまで参加することができたことは大きな変化だったと思います。

ー最後に、今後いわきへUターンを考えている人へ向けてメッセージをお願いします。

僕自身は高校生の時までいわきが好きじゃありませんでした。それよりも外に出たいという気持ちの方が強かったんですよね。

でも、外に出てみたら、改めて生まれ育った場所の良さを知ることができました。

もし、Uターンを考えている人がいるなら、戻りたいなと思えた時がタイミングだと思います。その時に何かしらアクションをして、まずはいわきに来てみることをおすすめしたいです。

それでもし困ったり話がしたい時には、いつでも久之浜にいるので、ぜひ話をしに来てください。いわきで一度、深呼吸してみるのもいいですよ!

文・写真 奥村サヤ

福や代表
井出拓馬(いでたくま)


1984年生まれ、いわき市出身。大学卒業後、京都の全国釣具屋本社に就職。第一子誕生を機にいわきにUターン。震災後、福島県農水産PR事業の中で「さんまのポーポー焼き」に出会い、生産者から事業継承する形で「福や」を起業。現在、久之浜の浜風きらら内「おさかなひろば はま水」の共同運営やまちづくりの活動も行っている。


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