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突き進んだ先に、自分の道ができていくー移動販売式カレー屋さんの挑戦(2020/03/01掲載)

スパリゾートハワイアンズの元フラガールと元バックバンドのミュージシャン。そんな異色の経歴をもつ夫婦が切り盛りするのが、カレー販売の「TEA TO EAT」。2016年7月に移動販売のカレー屋さんとして開業後、スパイシーなカレーと移動販売という組み合わせの珍しさから、市民の間でも評判のカレー屋に。2018年9月には実店舗を開業。ちょうど1年後の台風19号による浸水により被災したものの、なお挑戦を続けています。タタキアゲジャパンのさまざまなプロジェクトを活用されているTEA TO EATのお二人に、サービスを利用しての変化と見えてきた世界、そして将来への展望を伺いました。

<タタキアゲジャパン公式サイトアーカイブ>
本記事は、タタキアゲジャパン公式サイトに掲載されていたものです。
肩書・内容は掲載当時のものとなります。


移動販売から店舗販売まで、チャレンジを重ねてきた

ー2016年に開業してから、移動販売のカレー屋さんとして知名度を上げてこられましたよね。

幹之 台風で被災する以前は、カレーの移動販売と店舗での販売、それから通販が主でした。業務用の冷凍カレーの卸も、少しだけですけどやっていました。

絵美里 被災後はいわきFCパークでの販売をだいたい週に1回。あとはイベントにテントで出店したりだとかですね。
 私たちは最初、資金面や店舗を構えることのリスクを考えて、身軽さというところから移動販売を始めました。移動販売のカレー屋さんというのはいわきにはなかったので、皆さんに覚えてもらいやすかったんですね。他のカレー屋さんとの差別化もできたので、移動販売という形態をとってよかったなと思っています。また、移動販売だとイベントにも出店しやすいんです。店舗でお客さんを待っているだけではなくて、移動販売をすることで、他の飲食店の方とも知り合いになることができるのは、移動販売のメリットですね。
 移動販売ということで、声をかけやすい存在だというのもメリットだったのかなって思うんですよ。自分の拠点がないということで、移動しやすかったり、使いやすかったりするのかなって。その結果、私たちが一番最初に声を掛けてもらえたり、いいタイミングでチャレンジできたことも多かったです。

イベントでの移動販売の様子(和田さん提供)

ーその後、内郷に実店舗を構え、冷凍カレーの生産を本格的に始めるなど事業も拡大しました。さまざまなチャレンジをする中で、苦労したことはありますか?

幹之 一番は店舗の場所選びですね。店舗を構えるにあたって、立地的にはここがベストではなかったんですけど、条件はよかった。でも、実際にお店をやってみて感じることは、立地は重視しなければならなかったということですね。そこのところを甘く考えていて。ただし、カレーを作る「工場」という観点では問題はなかったです。100パーセント自分たちの条件にあう物件を見つけることは難しいですが、これでいいやという適当な考えはやめたほうがいいと思いました。
 それから、冷凍カレーに行き着くまでに固定費をあげすぎてしまって、その分の費用を稼ぐために店舗での販売もしっかりやらなくてはいけなくなってしまいました。冷凍カレーの生産と店舗での販売の両立が難しかったですね。売れるところに出向いていけるという意味では、移動販売の方がメリットが大きかったですね。

TEA TO EATの冷凍カレー(和田さん提供)

人とのつながりが広がっていったのは、浜魂のおかげ

ータタキアゲジャパンのプロジェクトをかなり活用してくださっている印象です。2016年の「第19回浜魂」、2018年の「がっつり浜魂」、2019年春の「地域実践型インターン」、2019年から2020年にかけての「プロ人材コーディネート」など、活用されてみて、率直な感想はどうですか?

幹之 浜魂に出たおかげで地域で活動している方たちをはじめ、色々な方と知り合いになれたというのがあります。

絵美里 今仲良くさせてもらっている人たちと知り合うきっかけができたのが、浜魂だと思っていて。なんとなくあの時から変わりました。それまでお話をしっかり聞いたことがない方が多かったので。一歩進みましたね。

幹之 例えばスタンツァの北林さんとは、それまでも顔見知りではありましたが、浜魂をきっかけにつながりがさらに深くなり、タタキアゲジャパンの方と一緒に初めてスタンツァさんを訪れて、そこで話を聞いてもらったりして仲良くなりました。

絵美里 その時にゲストハウスのオープンと一緒にレンタルカフェをやりたいという話を聞いて、実験的に私たちがやらせてもらったんですね。私たちは当時は実店舗を持っておらず、飲食店でお皿に盛って出すというのはなかなか出来ない経験だったのでありがたかったです。

第19回浜魂に登壇する幹之さん(浜魂公式サイトより)

-その後、普段の浜魂とは少し形式が異なり、有識者とのセッション形式で参加者も巻き込みながら実践的な対談を進めていく、「がっつり浜魂」に参加されましたね。

絵美里 「がっつり浜魂」はすごく勉強になる話だったんですけれど、今の自分達よりも、もうちょっと未来の自分たちへのアドバイスに感じたんですよね。将来こんなふうにできたらいいなっていう話し合いに近くて。もうちょっと自分たちの事業計画が固まってから話を聞けたら、いただいたアドバイスを現実的に受け止められたような気がします。現実的に資金面を考えると、今の自分達には難しいかなというアドバイスもあって。

幹之 店舗をオープンして1年が経った今だったら、工場とか卸について聞きたいことがもっとあるような気がします。

-プロ人材のコンサルを受けながら経営課題を解決する「プロ人材コーディネート」についてはいかがでしたか?

幹之 TEA TO EATのブランディングをお願いしたのですが、自分たちでは出てこない発想とかアドバイスをいただきましたね。

絵美里 実店舗オープンなど、色々バタバタしていた中で自分たちでじっくり考える機会というのがなかったように思うんですね。 田中さんというPR の専門家の方に入ってもらって、強制的に自分たちのビジョンを考えなくてはいけなくなりました。

幹之 すごく厳しいというか、覚悟が必要だ、という話も聞いていて、色々不安だったんですけど、会ってみても特にストレスになることはありませんでした。自分たちの考えを汲んで、意見を尊重してくれてるような。

絵美里 オブラートに包んで話さなくてもわかってくれると言うか、色々汲んで考えてくれる。田中さんは自分達の感覚に近いようなものを持っていると感じて、それが私たちには合っていたような気がしました。

試食モニター調査の様子

家族と楽しく仲良く暮らすために。原点を見つめ直す機会になった

ー信頼できる人と出会えた感じなんですね。プロ人材コーディネートでは、3か月程度の時間をかけて経営課題の解決に取り組みます。今回の案件では、ブランディング戦略ということで、じっくり腰を据えて話を聞いてもらって、アドバイスをもらうことが必要だったのかもしれませんね。

絵美里 田中さんのコンサルを受ける中で、「どういう思いで創業したか」と聞かれた時に最初は、今までも答えていたような上辺の話をずっとしていたんですね。でも、3か月という長い期間で話をしている中で、本心を言えるようにもなりました。

幹之 もともとお金が欲しいということはずっと考えていたんですけど。なんでお金が欲しいのかということを田中さんは疑問に感じていたみたいで。その根底にある思いをどんどん引き出してくれて。最終的に、お金がないと時間的にも精神的にもゆとりを持って生活できない。ゆとりを持った生活を送るためには、ある程度お金が必要で、そのためにちょっと頑張って、あわよくば仕事はほどほどくらいの感覚でやれたらいいなとそんな感じのことを言ったんですよね。じゃあそれがビジョンになってくるんじゃないかという流れになりました。そこまで自分たちの理想の生活みたいなものを人に話すのは恥ずかしかったりしますよね。

絵美里 それまでは、自分たちの生活のビジョンと事業のビジョンは一緒だって考えられなかったんですよね。

幹之 いわきを良くしたいとか、そういう思いはあまり持ち合わせていなかったので。

絵美里 最初に創業した時は、二人が仲良く生活できて、将来的に家族が楽しく仲良く暮らしたい、それが一番の目標だったんですね。そのためにはお金がないと楽しくは生きられない。それを得るための武器はカレーじゃないかということで、創業したんです。「いわきのために貢献したい」というようなかっこいいビジョンとは真逆なんです。自分たちが楽しく生活したいという話を、ビジョンとして打ち出していくのはどうなんだろうっていう迷いがあったんですね。そういうことをさらけ出す恥ずかしさは、なかなか1日じゃなくならないと思うんで。3ヶ月かけて何回かお会いして交流していかないと出せなかったのかなと思ってます。

店内の様子(和田さん提供)

絵美里 ここの店舗を作った時に、自分の好きなものを詰め込んだんです。ただ、好きなものを詰め込んだ結果、そこまでみんなに受け入れてもらえなかったのではないかという感覚がありました。だったら自分の色を少し消して、お客さんの好みに合わせるようにしたほうが売れるんじゃないかという話にもなっていて。お客さんに合わせた売れるためだけのお店にしたほうがいいのか、それとも自分の好きなものを突き詰めていく方がいいのか迷っていていました。でも、田中さんと3ヶ月間話す中で、こだわりは捨てない方がいいんじゃないかという方向性になっています。結果的に自分が良いと思うものに戻ってきちゃうんでそこは捨てないで行きたいなと。この3ヶ月でそんな答えが出たのかなと思っています。

人とつながれて開業しやすい町、いわき

ー今までのお話は、これから創業する人たちにとってもリアリティがあり、ヒントにもなるのではないでしょうか。地方都市でもあるいわきの魅力はどのようなところだと感じますか?

絵美里 私はずっといわきを出たことがないので、開業する前までは魅力とか聞かれても、海が綺麗とかそういうのしか出てこなくて、あまり魅力を感じていなかった部分もありました。開業していろんな人と出会うことがあって感じることなのですが、知り合いになりやすいというか距離を詰めやすいというか。そういうところが魅力というか、面白いところなのかなと思っています。
 新しく誰かと知り合うと、何かしら共通の話題があって。なんとなく一体感があると言うか。そういう意味では商売しやすいような印象があります。
 開業した時は、二人ともハワイアンズ出身ということもあって、ハワイアンズの常連さんやハワイアンズで私を知ってくれた方との繋がりが多かったんですけれど。でもその後浜魂などで、新しい方に出会った後は、繋がる人が増え、見える世界も変わったと感じました。

ータタキアゲジャパンのプロジェクトに参加することで見える世界が変わってきたということでしょうか。

絵美里 1回目の浜魂の時よりもすごく変わってきています。

幹之 自分の知らない世界がたくさんあって、そこにはすごく楽しい人たちもいて。

和田さん提供

絵美里 話を聞いて楽しいと思える人たちと、カレー屋さんを始めて出会えたんですよね。

被災は悲観していない。むしろ、チャレンジできる!

ーこれからの目標、チャレンジしたいことを教えてください。

幹之 前に一度カレーのレトルト化を試して失敗しているんです。でも、前よりも真剣に取り組んで実現させようと思っています。

絵美里 元々、味を追求した結果、冷凍カレーに行き着きました。冷凍カレーの認知度も少しずつ上がってきて、定期的に買ってくれるお客さんも増えてきました。
 でも、いろんな人に食べてもらうということを考えると、冷凍ショーケースがないお店では販売できないし、展示企画の時も、冷凍商品は外されてしまったりもします。そういう意味で、少し味が落ちたとしても、認知度を高めるという意味で、レトルトカレーにもう一回チャレンジしてみたいなと思っています。被災して何もなくなったからこそ、やってみたいなと。

ー被災してまたスタート地点に立ったからこそ、そういうところに行き着いたということでしょうか。

絵美里 今まで(冷凍カレー用の)機材をたくさん入れて、これを活かさなきゃという気持ちが多少あったんです。リース代も払っていますし、借入もしていますし。そういう理由で、冷凍カレーの道を捨てきれなかったんです。被災して、機材がなくなった状態になったからこそ、身軽になったというか、違うことにチャレンジしてもいいのかなという気持ちになって。そういう意味ではまっさらになったのが良かったと考えています。
 被災して、カレー屋さんを辞めちゃうんじゃないかって言われたことがあるんですけれど、全くそんなことを考えたことはなくて。嫌なこともいっぱいありましたけど、むしろ次のステップに行きやすくなったという印象です。なので全然悲観をしてないんです。逆に、「色々行けるぞ!」みたいに感じています。

幹之 今後は、小売業にシフトしていこうかなと思っています。

絵美里 小売をしている移動販売もなかなかないと思うので。そういうところにも一番乗りしていきたいなと。

幹之 ドラゴンボールの悟空はご存知ですか? 悟空はまず亀仙人に教えてもらってかめはめ波を覚えますよね。その後、悟空が先にカリン塔に登って、成長して、神様の所に行って。みんなそれを真似して続いていくんですが、常に先に道を作るのが悟空。結果、悟空に追いつけるやつはいなくて。

絵美里 飲食店でもそうだと思うんです。

幹之 発想もチャレンジすることも、悟空にならないと、と思っています。でも、悟空は奇をてらうわけではなくて、がむしゃらに突き進んで行った結果そうなったんですよね。自分たちもあまり意識をしすぎずに、やってきた結果、自分たちの道ができていた、というのが理想ですね。

文・森亮太
写真・沼田和真

●Information

TEA TO EAT
公式サイト http://tea-to-eat.jp/
Facebook https://www.facebook.com/TEATOEAT/

TEA TO EAT
和田 幹之さん
1983年生まれ。いわき市出身。高校卒業後、上京。30歳でUターンし、スパリゾートハワイアンズでダンサーのバックバンドを務める。2016年に独立し、夫婦で営む移動販売式のカレー屋「TEA TO EAT」を開業。2017年絵美里さんと結婚。2018年に内郷にテイクアウト・イートインのできる固定店舗をオープン。2019年の台風19号で被災をし、店舗は休業。現在は、イベントなどでオリジナルカレーを販売している。

和田 絵美里さん 
1990年生まれ。いわき市出身。4年間、ハワイアンズのダンシングチームに所属した後、退職。幹之さんと共に、移動販売式のカレー「TEA TO EAT」を切り盛りする。

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