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認可保育と認可外保育、それぞれのメリットを生かした育児サポートを(2020/08/11掲載)

保育園や託児所の運営を通して、ご家庭の様々なシチュエーションに対応した育児サポート体制を整える、株式会社キャンディきっずの山野辺みゆきさん。柔軟なサービス内容にこだわり、子育て世代に寄り添った保育環境を提供しています。木工のおもちゃに囲まれたアットホームな雰囲気の「たねまき保育園」で、これまでの取り組みや今後のビジョン、山野辺さんが保育にかける思いについてお話を伺いました。

<タタキアゲジャパン公式サイトアーカイブ>
本記事は、タタキアゲジャパン公式サイトに掲載されていたものです。
肩書・内容は掲載当時のものとなります。


社会のニーズに合わせた、一時保育事業のスタート

―認可保育と認可外保育、それぞれの特性を生かして、地域の育児課題に向き合っているキャンディきっずさんですが、改めて事業内容を教えてください。

 いわき市内で1つの保育園と、2つの託児所を運営しています。
 認可保育園である「たねまき保育園」では、小規模保育で生後2ヶ月から預かりを開始し、今は14人のお子さんを預かっています。0歳児は3人に対して先生1人、1~2歳児は6人に対して先生1人が保育にあたりますが、普通の保育園より先生が1人多く配置されるのが、小規模保育の特徴です。
 認可外保育施設である託児所「キャンディきっず」は、いわき湯本温泉にある旅館「古滝屋」にある「古滝屋店」と、平地区のカフェ「ichi」に併設する「ichi店」の2ヶ所で運営しています。「ichi店」は、ビルの取り壊しに伴って2020年7月に閉め、8月から小名浜地区で再スタートしました。
 いわきは、気候的には子育てしやすい環境だと思います。夏は涼しく冬は暖かく、雪が降らなくて過ごしやすいし。でも、待機児童データでは見えない、潜在的な待機児童の問題はまだまだ存在します。託児所では、お父さん、お母さんたちの「ちょっと手を借りたいとき」の育児サポート体制を整え、一ヶ月から利用可能な月極保育、1時間から利用可能な一時保育、休日保育に対応しています。また、職場に復帰したいけれど、年度の途中では保育園には入れないという方や就職活動中の方にも活用いただいています。

―もともとは託児所から事業をスタートされたと伺いました。どのような思いで託児所をはじめたのですか?

 平成27年に託児所での一時保育事業をはじめて、今年で5年目です。民間の保育園で保育士として10年ほど経験を積んでから、妹と子育て中の元同僚と2人で、(現在たねまき保育園のある)自宅で託児所をスタートしました。当時は、世の中的にも、「子ども・子育て支援新制度」がスタートして、待機児童などさまざまな問題に国をあげて取り組み始めた時期でもありました。
 それまでの保育園での経験から、世間では一時保育が必要とされているのに、満足にサービスが提供できていないことは実感していました。私自身、保育士として働きながら、3人子どもを産み育てています。妊婦期間中は、子どもたちと激しい遊びができないから、一時保育を担当したり、事務作業をやらせてもらったりしていました。そんな経験を通して、一時保育の仕組みも知り、「こんなに需要があるのなら…」ということで、自分で一時保育事業にチャレンジしてみることにしました。 
 経営のことは何も知らなかったので、創業スクールや女性起業家セミナーに参加して、補助金のことなどを勉強しました。保育の経営に関する仕組みも全然分かっていなかったので、まずインターネットで「一時保育」と検索して、いわき市内での一時預かりの料金相場を調べました。そうしたら、1日1,000円というすごく安い相場であることが分かりました。1時間から利用可能な一時預かりサービスを始めるにあたって、「1時間あたり1,000円だと誰も来ないよな」と思い、1時間500円でサービスを始めました。一時期は、ここで20人くらい預かっていましたね。元同僚をスーパーで捕まえて、「ベビーラックを揺らしてくれる人が必要なの!子どもと一緒でいいから手伝って!」とお願いして来てもらい、自分のお子さんに授乳しながら、両手でベビーラックを揺らしてもらうみたいな、そんな生活をしていましたね(笑)
 ただし、お客さんはついたんですけれど、1日1,000円で一時預かりサービスを提供できるのは、補助金を受けていて、大きい母体を持っている保育園だということに途中で気づきました。私は補助金を受けずに、1時間500円という金額でサービスを提供していたので、「あれ、間違っちゃったかな?」と思いましたね(笑)

自宅での保育園開業、そして一時預かりサービスの拡大

―そこからどのような経緯で事業を拡大されたのですか?

 市に、この状況を相談したら、「20人も受け入れているということは、この地区には潜在的な待機児童がいるということですね」ということになりました。「待機児童がいるなら、認可保育園をやってみる?」と話が進み、夫に相談して、6年前に購入した自宅の庭に10人規模の保育園を立てて、0~2歳児対象の地域型保育事業、小規模保育の「たねまき保育園」を始めました。
 ただ、当時自宅の託児所では、月極と一時保育の2つのサービスを提供していましたから、自宅で預かっていた子どもたちの行き先が無くなってしまうという問題が発生しました。そんな時、地域のイベントでの一時預かりサービスで知り合った、いわき湯本温泉の旅館「古滝屋」のオーナーさんから、使っていない宴会場を貸していただけることになったんです。自宅の託児所のうち、一時保育のサービスを古滝屋さんに移動して、「キャンディきっず 古滝屋店」ということで再スタートしました。そして、月極でお預かりしていた子どもたちは、保育園に移すという形で、うまく循環させることができました。
 その後、古滝屋店でも、「どうしても月極で預かってほしい」という方が増えてきたので、「じゃあ、古滝屋でも月極やりましょう」ということで、古滝屋店でも月極と一時保育の両方のサービスを始めました。
 その1年後くらいに、平地区にあったカフェ「ichi」さんから、「居抜きで期間限定で使いませんか?」と声をかけていただきました。過去の統計を見ると、古滝屋店は常磐地区と平地区と小名浜地区の方の利用が多かったんですね。それで、平ではじめたとしてもお客さんはつくだろうという算段で、「キャンディきっず ichi店」をお試しでやってみることにしました。
 実際に始めてみると、地域によってお客さんの層や使い方が全然違うということが分かりました。平地区は転勤でいらっしゃる方も多くて、車を持っていないという方がいたり、週3のパートの時だけ預けたり、預ける時間も10時から3時半など短い傾向があります。一方、常磐地区は、パートだけど8時から4時までがっつり預けたいという方が多いですね。
 今まではヤドカリ営業で、とてもリーズナブルな金額で場所を貸していただいていたんですが、今度オープンする小名浜地区の託児所では、家賃や光熱費を抱えることになりますので、移転のタイミングで料金体系も見直すつもりです。サービスを提供する上で、安心感を担保するためには、お給料をしっかり出して保育士さんを揃えたい。そうするとやっぱり1時間500円では厳しいところがありますね。

情報を「見える化」することによる、安心感の醸成

―これまでの5年間で苦労したこと、逆に手ごたえを感じたことを教えてください。

 苦労したのは、やはり資金繰りですね。最初に託児所の価格を低く設定してしまったことが原因ですが。今回の新型コロナでは、認可外である託児所の売上は激減してしまいました。あとは家庭との両立ですね。今は、3人の子どもたちも中2、小6、小4になっていて、家族に助けてもらいながら、仕事を続けることができています。
 手ごたえを感じたのは、キャンディきっず全体の登録者数が600人を超えたことです。自分の子どもの小学校の入学式で、託児所を利用してくれていた子を見かけることもあって、嬉しいなと思いますね。
 お父さん、お母さんに、ここに行けば預かってもらえるという安心感を持ってもらうためには、情報を「見える化」することが一番かなと思っていて、できるだけこまめに遊んでいる様子を配信したり、連絡帳で1日の活動の様子を伝えたりしています。一時保育でも同じように一日の活動の様子をお伝えしています。連絡帳だと、お母さんだけじゃなくてお父さんも見れますし。これが安心感につながるのだと思います。「親戚みたいに思ってます」なんて言ってくれたり、一時保育で4年くらい継続して使っていただいている方もいるのはありがたいですね。

―2019年の夏には、インターン生を受け入れて、情報発信を強化されました。また、2020年夏も、インターン生を受け入れる予定ですね。

 今、託児所を利用してくれる方の中には、兄弟でのリピーターさんもいますし、インスタを見て、という方もいます。2019年のインターンでは、情報発信のテコ入れをしてもらいました。「インスタにハッシュタグをつけて発信したほうがいいんじゃないか」とか「先生の顔を張り出したらいいんじゃないか」とか、色々なアドバイスをもらいました。「なるほどね」と思い、今はSNSの担当者をつけて、インターン終了後も継続して積極的に情報発信を続けています。また、「ichi店」の入り口に先生たちの顔を張り出したことで、先生の名前を覚えて帰ってくれる子がいたり、「今日は●●先生がいない」といったやり取りも生まれたりするようになりました。
 さらに、インターン生同士の横のつながりで、インターン終了後もいろいろやり取りをさせてもらっています。同時期にインターン生を受け入れていたコンピューターカレッジさんの卒業研究で、予約システムのアプリを作ってもらったりもしました。まだ実装には至っていませんが、そこで予約ができるように、どんどん使いやすくしていけたらいいですね。
 2020年夏のインターンでは、広報の強化に加えて、強みの洗い出しもしてもらいたいと思っています。こうやって話を聞いてもらうなかで、「ああ、こういうところ頑張ってるな」とか「こういうサービス出せてるな」と思うことはあるんですけど、当事者になってしまうとなかなか自分自身が見えなくなってしまうところもあります。そういう意味で、外側から見てのキャンディきっずというのを教えてほしいと思います。
 保育園では、「いじょうじ・みまんじ」という言葉を使うんですが、意味分かりますか?3歳以上を「以上児」、2歳以下を「未満児」って呼ぶんです。「お母さんたち、この言葉の意味分かるのかな」ってずっと疑問に思っていました。自分の当たり前を他人の当たり前にしちゃうというか、「これくらいできて当たり前でしょ」とか「これが普通だよね」とか「知っていて当たり前だよね」ということが業界内にはたくさんあります。でも「これが普通」の「普通」って人によって違うじゃないですか。そういった思い込みも、事業を続けていくうちに出てきちゃうと思うんです。だからそれを別の目線で、「分かんないんですけど」と投げかけてもらえれば、「あ、こういうことが分かんないんだな」という理解にも繋がるし、自分が思っている以上の強みも見つかるかもしれないと思います。

保育だけでなくお母さんの支援も重視したい

―山野辺さんがこの事業を通して目指したいことを教えて下さい。

 おじいちゃん、おばあちゃんから「そんな小さいうちから預けてかわいそうでしょ」と言われたり、周囲から「3歳まではお母さんが見ればいいんじゃない」と言われたり、社会には、子どもを預けることへの抵抗感がまだ残っていると感じることがあります。でも、愛情って親から受けるだけじゃなくてもいいと思うんです。色んな大人と関わって、色んな経験をさせて、親じゃなくても誰かから愛情を注がれているという自信がつけば、大きくなってからの自己肯定感や自尊感情に繋がっていくのかなと感じています。
 また、お母さんが、ちょっとしたお買い物や美容室に行く自分の時間を持つなど、ホッとできる時間がないと、疲れてしまっていつも眉間にしわを寄せているということになってしまいます。あとは、産前産後の期間に上の子をかかえながら、育児をしたり家事をしたり買い物にいったりするのもちょっと辛いですよね。私たちが取り組んでいる、特に託児所の事業は、保育だけではなくお母さんの支援というところにも重きを置いています。お母さんに余裕がないと子どもにも余裕が持てない、というのは自分の実体験として感じています。私自身も子どもを保育園に預けながら働いていましたが、「保育園に預けてお母さんも休んでいいんだよ」と言ってくれる先生たちがいたり、「自分が辛いときは病院に行きな」と促してくれてた先生がいたり、そういう言葉に助けられました。そういうアドバイスをくれる人が身近にいないお母さんたちはどうしてるんだろう、辛いだろうなあと思います。
 保育園のほうでは、ご家族と連携を図りながら、絵本をたくさん読んで発語を促したりとか、遊んでいるときに寝返りできるように支えてあげたりとか、お母さんたちが働いていて手を加えきれないところをサポートして、その子その子の発達に合わせて自立を支援しています。手厚くサポートできるのは、小規模だからこその強みですね。関わっている時間は一緒に遊ぶのがプロとしての私たちの仕事だと思っているので、テレビもないですね。手遊びや絵本を読んで、想像力や感受性を育てたり、触ったときに木のぬくもりを感じる木工のおもちゃを取り入れることにもこだわっています。

認可外だからこその柔軟性・利便性を大事に

―今後の目標、ビジョンを教えてください。

 子どもを預かる上での認可外だからこその自由さ、柔軟性、利便性は残していきたいところです。認可外だからこそ解決できる地域課題があると思っていますし、だからこそ、認可外の事業はどうしてもやめたくないですね。資金繰りのことだけを考えれば、認可のほうが、認可外よりも売上は上がるし、採算も取れるのですが、うちがなくなってしまったら困るお母さんたちがいると思うと、やはり認可外の事業を充実させていきたいと思います。
 あとは、これまでと変わらず、手を抜く保育ではなくて、子どもと向き合う保育を続けていきたい、それを従業員さんたちにも落とし込んでいきたいと思います。
 お母さんたちには、託児所を親戚の家のような感じで自由に使ってもらいたいですし、預けることに罪悪感を持ってほしくないと思います。美容室を利用するのと一緒で、自分がゆとりを持つための時間を買っている、そういうサービスを受けていると思ってほしいんです。お金を出して預けているんだから、その時間は自分の時間を買ったと思って、別のことをやってもらいたい。私たちもお金を頂いているから、責任を持ってお預かりしますし。
 中には、働いていないことで、社会から取り残されたように感じてしまうお母さんもいますから、そういう方たちが、保育園や託児所にお子さんを預けて働くことで、自分の存在意義を見出す助けになればいいと思います。
 私は母がそばにいましたし、保育園が職場ということもあって周りの理解もありましたが、一度心の病気になってしまったことがあって、目に見えない病気の辛さをその時に実感しました。当時は、体は元気でしたが、夜は眠れないということが続いて、泣きながらも仕事を続けていました。それは、やっぱり子どもが好きだということもありますし、社会人としてのスタートが保育業界ではなく、工場での勤務だったこともあるかもしれません。保育ではない仕事もしてきたから、余計に保育の仕事に専念できるというか、これ以上の仕事はないなと思って続けられています。また、これまで自分が子育て中に周囲に良くしてもらったから、それを返してあげたいなという気持ちもあったりします。そして何より子どもたちが可愛いことが一番のやりがいですね。

文・菊池裕美子
写真・奥村サヤ

●information
株式会社キャンディきっず

住所:〒972-8322 福島県いわき市常磐上湯長谷町五反田56-26
TEL:070-2018-1350
E-mail:info@mail.candy-kids.net
株式会社キャンディきっず公式サイト:http://candy-kids.jp/
託児所キャンディきっず公式サイト:https://www.gurutto-iwaki.com/detail/1577/index.html
たねまき保育園公式サイト:http://tanemaki-hoikuen.jp/

株式会社キャンディきっず代表取締役 たねまき保育園 園長
山野辺みゆき(やまのべみゆき)


福島県いわき市在住。いわき短期大学卒業後、工場で夜勤をしながら昼間は就職活動。その後市の臨時保育士となるが、事情があり焼き鳥屋でバイトし、昼夜仕事を掛け持ち。とにかく働く意欲に溢れていた。のちに民間保育園で保育士として勤務し、約10年間の保育士経験を経て託児所キャンディきっずを開業。

・平成27年 12月 託児所キャンディきっず 自宅開業
・平成29年 12月 託児所キャンディきっず 古滝屋分所設置
・平成30年 4月 いわき市認可小規模保育A型 たねまき保育園開園
・平成30年 10月 株式会社キャンディきっず 設立
・平成30年 第17回 いわきビジネスプランコンテスト 最優秀賞受賞
・ふくしま復興塾6期 入塾
・ふくしまベンチャーアワード2018 特別賞受賞

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